反省会
グラウンドの片隅で、化け物教師とクラスメイトの戦闘音をBGMに僕たち三人は体育座りでしょぼくれていた。
時々聞こえて来る爆発音とクラスメイトの情けない悲鳴が他人ごとではなく、ついさっきまでの自分たちも同じだったと理解しているが故に、テンションは落ち込むばかりだ。
なんせ、それなりに気合を入れていったのに一分と持たずにこてんぱんにやられてしまった。
「痛ってえ……何だよあの動き」
と、たんこぶの出来た頭をさすりながら、僕の右隣でぶつくさと言うのは海。
僕も全く同じで、頭を強く打って熱を持った部分を氷で冷やしていた。
「ごめんね、何もできなかったや」
と、僕たちの前で魔法系能力で新しい氷を生成しながら、謝っているのは内宮さん。
「いやいや、これは仕方ないよ内宮さん。海もそう思うでしょ?」
「まあ、そうだな。俺と想也が一瞬で倒されちまったからなぁ……」
海がしみじみと呟く。
結構落ち込んでいるみたいだ。
内宮さんを慰めるならまだしも、海を慰めるつもりはこれっぽっちもないけどね。
「元気出してよ、八雲君」
「別にそこまで落ち込んでるわけじゃないさ。でもまあありがとうな、一葉」
いいなー。
内宮さんに慰めてもらうなんていいなー。
追加効果で癒し効果までついてるみたいだしなー。
これは仕方ないな。僕も海と同じように頭をうって何もできなかった事を悔やんでいるんだ、僕も慰めてもらうことにしよう。
そう思って、さっそく全身から落ち込んでる感を出す。
体育座りした両足の間に頭を少し突っ込んで腕を足の前で組む。
ついでにちょっと長めの溜息を付けて慰めが必要なオーラを出してみる。
さあ!
内宮さん! 君の出番だ!
早く僕を癒しておくれ!
「大丈夫か? そう気を落とすなよ」
お前じゃねえよ。
お前に肩をたたいて慰めてもらっても嬉しくないんだよ。
「くっ……。と、取り敢えずさっきの戦闘を振り返ってみようよ。戦闘中は何されたのか全く分からなかったけど内宮さんが後ろから見てたはずだし、何かわかるかも知れないよ」
「何を悔しがってるのかわからんが、言ってることは正論だな。他の奴の戦闘を見ようにも砂埃でよく見えねえしなぁ。ありゃ大気系か? 砂で視界を奪おうとしてるみたいだが仲間の視界まで遮ったら意味ねえだろ」
グラウンドの中央で繰り広げられる一方的な戦闘を眺めながらクラスメイトの戦闘方法を評する海。
目を細めて見てみると、五人中二人が既に戦闘不能になっている。
二人の後衛の内、どちらかが保持能力で先生の周りの砂を巻き上げたようだが近くにいた前衛が巻き込まれていた。
砂まみれになった最後の前衛君は、先生に足を払われてグラウンドの硬さを後頭部で感じることになったみたいだ。
ちなみに僕と海は既にグラウンドの硬さを体感済みだ。
「しかも先生は保持能力を使おうともしてないしさ。今なら丁度いいでしょ?」
「まあ、やることもないしな。一葉も構わないよな?」
「大丈夫」
内宮さんと海とのすり合わせのためにも、5分前の記憶を痛む頭から引っ張り上げて来よう。
「ええっと、確か――」
◇
「準備は済んだだろ?お前らの好きなタイミングで始めな」
「だってさ、海」
「作戦通りに動けよ? 想也」
「頑張ってね、二人とも」
僕と海が、内宮さんを隠すように前に出る。
僕らの後ろで、内宮さんが魔法系能力を使う時間を稼ぐのが僕らの仕事だ。
「それじゃあ――」
足に力を込める。
肉の筋が押し込められ、圧縮されたエネルギーが発散されるのをいまかいまかと待っている。
熱が籠り、勝手に動き出そうとする足を何とか留める。
まだ、まだ早い。まだ早い。
今!
「行きます!」
喉を震わせると同時に足に溜まっていた熱エネルギーを運動エネルギーに変えんとばかりに走り出す。
彼我の距離はおよそ五ートル。
本当はもっと距離を離しておきたかったのだけれど、先生の瞬間移動のことを考えるとこれが限界だ。
走り出した直後、僕が使える数少ない魔法系を行使する。
イメージは筋肉。
魔力で透明な筋肉を体の周りに作るイメージを。
イメージは神経。
脳のシナプス間の電流のやり取りを魔力で補強するイメージを。
これを持って身体能力を強化する。
「「強化!」」
視界がクリアに、視野は広がり、体の重さを置き忘れたかのような軽やかな足取りと、世界が拡大したような少しの全能感が身体を満たす。
海が身体能力を強化しつつ、僕の二歩後ろに下がる。
後ろで集中していた内宮さんが詠唱を開始する。
「魔力を以って炎と成せ、炎を以って槍と成せ――『炎槍』」
接敵まで瞬き一つと言う所で、先生に槍を形取られた炎が降り注ぐ。
着弾と共に砂利が飛び散り、空間が爆炎で揺らめいている。
燃え盛る炎の奥に悠然と立つ先生は笑ったままだ。
無傷かよ。
「くっくっく、ほらほらもっとこいや!」
「ッ!」
突如、目の前に現れた先生の手刀を体を捻って躱すが、態勢が崩れてしまった僕に追撃をかけてくる。
このままでは追撃を待つしかないが、後ろから追走してきた海が、僕の援護に回ってくれるはずだ。
「『炎剣』」
僕の体のすぐ横を炎の剣が通り過ぎて行った。
炎の刃が先生に傷をつけることは無く、火の粉が舞い散るばかりで空を斬る。
またもや瞬間移動で躱されたようだ。
「チッ、やっぱ厄介だな。その能力」
回避タイミングが自由自在というのは大きなアドバンテージだ。
どれだけ隙を作っても、隙を突いても意味がない。
うーん。どうしたものか。
一人じゃ絶対に無理だな。
と、なると、海と二人がかりでやるしかないな。
「お? その炎消すのか?」
ニヤニヤと先生が海に問いかけている。
僕の隣で構えている海の、右手に握られていた炎が揺らめいたと同時に消え去った。
僕と同じ結論に達して、邪魔になる魔法系を消したのだろう。
連携もロクに取れない状態で、相打ちの可能性がある魔法系は危険だと判断したんだと思う。
さて、どうやって先生の超能力系を破るか。
方法は二つある。
能力無効化系能力を使うか、能力のイメージを乱すかのどちらかだ。
今回はイメージを乱す方で行こうかな。
まあ、能力無効化系能力なんて持っていたら最初から使っているし。
となると、次は「どうやって」に話がシフトするわけだけど、要は能力の為に編み込まれた集中力を解せばいい。
集中が切れる時は大体パニックに陥った時だと思う。
そこまでいかなくても少し予想外のことが起これば思考が状況判断に割かれる。
その一瞬を突くことができれば攻撃を当てる事が出来る。……はずだ。
「想也。一葉が何か魔法系で隙を作るはずだ。そこを狙うぞ」
海が僕の近くまで寄ってきて小さな声でそう伝えてきた。
すぐに離れて先生を見据えるも、僕に向けて目配せしてくる。
小さく頷き、機を伺う。
なんだか、海と内宮さんは保持者との戦闘に凄い手馴れてる気がするなあ。
二人の間には言葉も要らない位の連携が取れているし、いよいよもって僕が誘われた意味が分からんな。
もしかしたら、僕が居ない方が安定するんじゃないだろうか。
そう思っていると後ろから詠唱が聞こえてきた。
内宮さんはどうやって隙を作るのかな。
「魔力を以って岩と成せ、岩を以って壁と成せ――『岩壁』」
詠唱終了と共に地面から岩が勢い良く迫り出してくる。
……海の真下から。
内宮さん、魔法系の距離設定ミスったのか?
僕の隣で海が空中十メートル程まで射出された。
射出というか無理やり吹っ飛ばされた形だけど。
結構飛ぶんだなぁ、なんて思っていたら海が詠唱を始めた。
「岩を以って壁と成せ!――『岩壁』」
海の魔法系によって迫り出してきた岩は、上に注意を向けている先生の右足の下から態勢を崩すように出現した。
片足だけ上がった状態でバランスを崩した先生の顔に驚きが浮かぶ。
「おおっ!?」
ここぞとばかりに足を踏み出す。
一気に距離を詰めながら腰を捻り左腕を引き、右腕に体重を乗せて打ち出す。
が、いとも簡単に受け止められてしまった。
これでも身体強化中だ。バランスを崩した人ぐらい吹っ飛ばせるはずなんだが。
「んなぁ!?」
「くくくっ、なかなか良かったと思うぞ」
言いながら一瞬だけ消え、次の瞬間には僕の右隣に現れ、突き出したままの右腕を掴まれる。
「だが、まだまだだ、な!」
取られた右腕を思いっきり引っ張られ、胸に手を添えてブン投げられる。
縦回転する視界で、海が地面に着地するのが確認できた。
体を強化してなかったら足の骨を折って潰れてるはずだ。
ボキッ、じゃなくてグシャッって感じで。
空中で何とか体勢を立て直し、両足で着地する。
強化は筋力体力だけじゃなく、神経系――反射神経や、思考速度――まで強化してくれるから咄嗟のことにもそれなりに対応できる。
着地の衝撃と速度を足を使って柔らかく殺し、踏ん張り、停止した瞬間にまたも体が縦回転する。
それが足を払われた事による物だと言う事に気づいたのは、後頭部に痛みが響き、両手を挙げて降参する内宮さんとその後ろで腕を組んで笑っている先生を見てからだった。
◇
「――とまぁ、僕が覚えてるのはこれ位なんだけど」
「俺もそんな感じだ」
「八雲君と理崎君が着地した直後に瞬間移動して足を払って、二人が頭をぶつける前には私の後ろにいつの間にか居た……ってことくらいしか分からなかったんだけど」
先生は特別な事はしていない。
ただ、僕たちの行動に対して対処しただけ。
作戦に意味がなくなるくらいに地力が違う。
手加減に手加減を重ねられて、なお実力が足りない。
自分たちの未熟さを思い知らされた。
「先生も言ってたけど、まだまだだね」
「そうだな」
「それでさ、提案があるんだけど、今日から四日後に休みになるよね?」
「ああ、土曜日だから休みだな」
「人材派遣会社にでも行って下の仕事受けてみない?」
読んでいただきありがとうございます。