保持能力について
「――おい、おい。想也」
海が僕に話しかけていた。
先生の瞬間移動にばかり気を取られて気が付かなかった。
「何?」
「お前、あの保持能力どう思う?」
「うーん……多分、超能力系の保持能力じゃないかな」
「やっぱそう思うよな」
「わ、私もそう思ったよ」
「で、だ。俺たちの作戦は俺と想也が前衛、一葉が後衛の陣形にしたんだけどよ」
昼休みに海の立てた作戦は、策を弄せず基本に忠実な形になっている。
前衛が時間を稼いでいる間に後衛が保持能力で吹っ飛ばすだけだ。
実に簡単だね。
そうはいっても僕くらいには近距離格闘ができないと意味がない。
今回の相手に限って、だが。
二人がかりで先生の相手をするつもりだったのだ。
「正直言って、奴の保持能力はヤバい」
そう、先生の保持能力は定石通りな基本陣形を物ともしないはずなのだ。
なんせ前衛が注意を引こうにも、後衛までノータイムで突撃できる。
チーム戦になり得ない。
一対一に近い戦闘を継続できる。
対人戦に限れば、チートレベルじゃないだろうか。
何がチートって先生の瞬間移動能力が魔法系ではなく、超能力系なことだ。
保持能力には発動手順が存在する。
想像、強化、現実化の三つだ。
イメージした技を魔力で補強し、魔力で現実の物とする。
これが世界のルールだ。
ここで、魔法系と超能力系の大きな違いがでてくる。
魔法系は、イメージを強化する時に詠唱が必要になり、現実化の時に魔法陣が必要になる……らしい。
きちんとした理由があるらしいが、僕はあんまり詳しくない。
後で内宮さんにでも聞いておこう。
魔法系はスリーステップ踏むことが発動条件だが、超能力系は想像をした段階で現実化できる。
しかも魔力を使ってないから魔力切れで発動しない、なんてこともないし、発動までの時間もほとんどない。
例えば同じ「火を飛ばす」能力を持っていたとして、魔法系能力よりも超能力系能力のほうが圧倒的に有利なのだ。
まあ、代わりに発動条件が厳しかったりするんだけどね、超能力系は。
魔力を消費することが発動条件の超能力系も多いので、結果的に魔法系っぽい使い勝手のものもあるみたいだ。
「どうすっかな……」
「取り敢えず、内宮さんの周りに一人残して護衛しながら、先生の能力発動条件を探ってく……しかないんじゃないかな」
「だよなぁ……」
「まあ、これは授業なんだし、そこまで勝ちにこだわる事もないよ、海」
「そうか、それもそうだよな」
作戦会議終了である。
なんせ、他のチームは5人で組んだり、六人で組んでいたりと人数が多いので戦術の幅が大きく取れるが、僕たちは三人組かつ内宮さんが後衛で確定するためにそこまで幅広い戦い方ができない。
そもそもの所、先生の能力の前には、作戦など無意味に思えるが。
「そんじゃまあ、一番手行こうか」
「ああ」
「う、うん」
いつまでも話していたって仕方がない。
当たって砕けろだ。
手を振って先生に開始の意を伝える。
目の前に瞬間移動してくる先生。
やっぱこの能力、心臓に悪いよ。
「お前らが一番手か。おいお前ら! 戦闘が始まったら柵の近くまで下がって近づくなよ!」
流れ弾に気をつけろよ、と付け足してグラウンドの中央まで瞬間移動した。
僕は先生を遠くに見据えながら拳を握る。
気合は十分だ。
海には授業だからと勝ち負けについて軽く言ったものの、だからと言って簡単に負けるつもりは一分もない。
やるからには勝つ。
握った拳にやる気を込めて、打倒の気持ちで心を満たす。
満ち溢れる気持ちを声に乗せる。
「よし!行こう!海、内宮さん!」
瞬間移動して、吃驚している僕の反応を楽しんでる先生に一矢報いたくなったわけじゃないけど!
わざわざ僕のすぐ近くに移動してにやけてる先生にイラッとしたわけじゃないけど!!
あのにやけ面が少し勘に触るからとかじゃないけど!!!
とにかく、勝つ!
結果から言えば負けた。
読んでいただきありがとうございます。
頭の中で、すでにヒロインが登場するところまではできてるんですが、作った設定に沿ってヒロインを動かしていたら、ヤンデレになってしまっています。
ヤンデレは嫌いじゃない――むしろ大好物でござるフヌカポォ――のでこのまま直進します。




