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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第2章
60/79

騎馬戦1

屋台の料理を全て買い占める勢いで実咲さんが昼食を終えた。あれだけ食べて良く動けるよな。


「うわっ、今の見たか? えげつねー」

「拙者だったら撃ち落とすしかありませんな。内宮氏はどうしますかな?」

「わ、私なら……防御魔法で網を囲うかな」


設置された超大型ディスプレイに飛行ドローンからの競技の様子が映し出される。

3年生が玉入れをしている。玉の奪い合いで保持能力(ホルダースキル)が飛び交っている。むしろ、玉より保持能力(ホルダースキル)の方が飛んでる疑惑。玉を直接操って網の中に飛び込ませようとすると相手チームからの妨害で玉の操作権の簒奪が発生し操作権の取り合いをした後、業を煮やして直接相手に保持能力(ホルダースキル)をぶっ放している。網の入り口に炎壁(フレイムウォール)等で蓋をするも同威力の攻撃で消滅させられていた。


『はい! 3年生の玉入れの結果は1-0でAグループの勝利ー!』


網の中に一つだけ玉が燃え残っていたので得点になったみたいだ。玉入れと言うよりは玉を使った戦闘になってた気がしないでもないけど。


「つーか騎馬はどうするよ。どうせ二人一組だろ?」

「四人一組でも良いのでは?」

保持能力(ホルダースキル)が全方位から優先的に飛んでくるぞ。その場合の対処は護人に一任するが」

「やっぱり無し」

「私は想也君と組むわ。異論は黙殺よ」

「俺は一葉と組むかな」

「デュフフ、ローウェル氏、お手柔らかにお頼み申す」

「手をわきわきするのは止めてくださる? お分かりだとは存じますが、秋川、貴方は馬として頑張って頂きますわ」

「合点承知」


画面の中で吹き飛ぶ学生を横目に僕らは騎馬戦の開催グラウンドへと向かった。



『さあ! 皆様方、お昼ご飯はお済みでしょーか! 只今より第4グラウンドで学年混合騎馬戦を開始します! 競技場所は第4グラウンド全面! 飛行ドローン20台体制で撮影しているのでお近くのディスプレイから観覧して下さい! それでは渡辺先生、見所を!』

『そうですね。午前の競技とは違って妨害用に使う保持能力(ホルダースキル)では無く、戦うための保持能力(ホルダースキル)が主となります。バトルロワイヤル形式でありますので広いスペースの中で、そこかしこで多種多様な戦闘が繰り広げられるでしょう。また、騎馬によって積極的に戦闘を行うか、回避に努めるか、十人十色の戦いです。観客の皆さんはどれか一つの騎馬を追うも良し、全体を眺めて流れを楽しむも良いでしょう』


至る所に設置されたスピーカーから運営のアナウンスが聞こえてくる。

僕らは既に第4グラウンドの近くに控えている。

下からせり上がってきたフェンスが第4グラウンドを仕切り、魔道具の起動によってその強度が保たれる。

炎槍(フレイムランス)氷槍(アイスランス)程度では擦り傷程度のダメージしか入らないフェンスだ。これがあれば保持者(ホルダー)の大規模な戦闘にも耐えられる。


『じゃあ、ルール説明をしますね!

えー、ひとつ、競技時間は10分!

ふたつ、騎馬は二人以上で構成されること!

みっつ、騎乗者が地面に触れた時点でその騎馬は崩れたものとし、崩れた騎馬は失格とする!これについては接地した瞬間に、騎乗者の皆さんの鉢巻の色が赤から青になるのでそれで判断します! 鉢巻は頭に巻いてくださいね! 鉢巻が取られても失格ですからね!

よっつ、事故防止用の刻印の刻まれていない武器の使用は禁止アンド失格!

いつつ、保持能力(ホルダースキル)の使用は禁止されない!

むっつ、崩れた騎馬及び地面に落ちた騎乗者に対して保持能力(ホルダースキル)を行使した場合は即失格とする!

ななつ、失格となった騎馬及び騎乗者は即座に退避し、失格者フィールドに入ること!

やっつ、失格者が意図的に競技中の騎馬に何らかの影響を与える行為は禁止! うちの先生方が見てるんで、そんなことする人はいないと思いますけどね!

ここのつ、勝利条件は10分間失格にならないこと!因みに得られるポイントですけど生き残ってた時点で失格者のポイントを合計して平等に分配します! つまり、最後に立っているのが一組だけだった場合、その組が出場者全員のポイントを総取りすることになります!

そして最後に、皆さん、怪我無く安全に楽しく競技を行いましょう!

ルール説明は以上です! 先生から何かありますか!』

『えー、当たり前ですが、絶対に強化(ブースト)を止めないでください。まあ、皆さん、どのくらいの攻撃を受けたら危ないかはわかっているとは思いますが、ダメだと思ったら棄権して下さいね。それと、怪我についてですが、回復系の保持能力(ホルダースキル)を持つ方をERCから派遣していただいているので、えー、即死ではない限り治せます。その代わり本当に死ぬ思いをする事になるので気をつけて下さい。失格者フィールドには防御と回復の結界が張られているので失格者はすぐにそこに入るように。健闘を祈ります』

『はい! てな訳で学年混合騎馬戦を開始します! 同級生と組んでも良し、部活の先輩後輩で組んでも良しです!人数が多いので、5回に分けて行いますが、今なら飛び入り参加もオッケーですよ! あ、ここの学生だけですよ! えー、今を実行委員が鉢巻を配ってると思いますが、それを受け取った人が一回戦出場者です! 準備して下さい!』


アナウンスの最中、体育祭実行委員が騎馬戦出場者に鉢巻を配って回っていた。貰ったのは僕と実咲さんの騎馬である。海や護人は貰っていない。

護人達の騎馬はともかく、海達の騎馬と一緒じゃなくてよかった。海というか、上に乗ってる内宮さんがヤバい。完全に移動砲台だもん。海の速度で動きながら、内宮さんの攻撃密度とか考えたくない。何ヶ月か前の模擬戦を彷彿とさせる。3桁に届きそうなくらいの保持能力(ホルダースキル)が一気に飛んで来て、しかも途切れない。一人でもキツいのに誰かを上に乗せた状態で躱すのは無理だ。


「目指すは総取りね」

「倒しに行くの?」

「逃げて、追いかけてきた騎馬だけ倒しましょう」

「言っておくけど、僕らより強い騎馬があるはずだから、無理だと思ったらガン逃げするからね」

「勿論よ」


海達と別れて、グラウンドの中に入る。

全面を使うということもあって、失格者フィールドの分を除いても四百メートル四方はありそうだ。

総勢で四十組程がグラウンドの中心に集まると、唯一開いていたフェンスのドアが閉まり、競技スペースが隔絶される。


周りでは、参加者達が思い思いに緊張を高めていた。


『では、今から一回戦を開始します! 騎乗者は鉢巻を頭に巻いて、騎馬の上に乗ってください! 以降、如何なる理由でも地面に着いたら失格ですよ! では二分後の合図で開始です!』


「取り敢えず端っこの方に行こう」

「分かったわ」


僕と実咲さんは競技スペースギリギリのフェンスを背にして、騎馬を作り始めた。


「ん……しょっ、と。大丈夫? 重くないかしら?」

「いやいや全然。落ちないようにちゃんと捕まっててね」


膝を着き頭を下げた所に実咲さんが後ろから跨った。そのまま立ち上がれば肩車の完成だ。脇腹から回って背中を足の甲で摑まえる様にして体を固定した。何だこれ最高かよ。あの島で逃げてた時は背負う形だったけど、あれとはまた違った趣がある。

立ち上がりに合わせて、僕の頭を抱える様にしていたおかげでまるで後ろから抱き抱えられてるかのような感覚だ。あと、頭にとても柔らかい何かが乗ってる感がある。何気に大きいですわね。


ついお嬢様言葉になってしまう程度には素晴らしい。

実咲さんの抜群のバランス感覚によってすぐに体勢を確立したため一瞬の出来事ではあったけど、僕は騎馬戦に出た目的の9割をこの時点で達成したと言っても過言では無い。


周りでも、次々と騎馬が作られていた。

僕達の様に二人一組のところもあれば、三人、四人の所もある。

全ての騎馬が完成したところで、カーン! とゴングが鳴った。

まさしく戦いの火蓋が切って落とされたのだ。


「……動かないわね」

「動かないんだと思うよ。どっちに行きたいかは実咲さんが指示してね」


互いが互いを警戒するあまり誰も動き出せない。視点の高い実咲さんに行動を決めてもらうとして、まずは様子見だ。


「魔力を以って風と成せ、閃拍の響き――『警笛』」


しかし何処からか発生した癇癪玉のような破裂音で、皆が一斉に動き始めた。


「魔力を以って水と成せ、水を以って槍と成せ――『水槍(ウォーターランス)』!」

「『炎槍(フレイムランス)』!」

「貫け、『雷槍(サンダーランス)』!」

「断ち切れ、『風刃(ウィンドエッジ)』!」


そこかしこで保持能力(ホルダースキル)が発動し、片っ端から戦闘状態に入った。

水槍(ウォーターランス)炎槍(フレイムランス)が衝突して水蒸気爆発を起こし、近くにいた騎馬が爆風に煽られて吹っ飛び失格。地面に散らばった水に雷槍(サンダーランス)が当たり、電気分解によって発生した水素と酸素の近くを炎弾(フレイムブリット)が通過して水素爆発を起こし、理科の実験とは比較にならない音を響かせて三組失格。


めちゃくちゃ爆発してる。


もしかしたら一般参加者の中で気付いてる人がいるかも知れないけど、学生が使ってる保持能力(ホルダースキル)は最大でもランス系列くらいまでだ。

四年生や五年生ともなればもっと強力な魔法系(マジック)を習得していてもおかしく無いのだが、皆これでも自重しているのだ。

爆発でかなり火傷してる人もいるが、失格者フィールドの入ると見る見るうちに治っていく。回復効果のある結界と強化(ブースト)しているおかげだ。

それに、攻撃力自体が低いのも要因だ。魔力量を調節して、威力を削っているのだ。

怪物(モンスター)に向ける様な威力を人に向けるのはどうしても抵抗があるし。


包丁を人に向けるのは嫌だけど、カッターなら大丈夫と言ってる様な不思議な話だ。


でも、威力を削っているとはいえ、強化(ブースト)していなかったら致命傷だ。

カッターでも人は殺傷出来るのだから。


「敵の少ない所に移りましょう」


止まっていると標的にされやすいので小走りで外周を回る。走りながら辺りの戦闘を眺めていると、他の騎馬同士の戦いの様子がよく分かる。強化(ブースト)しているので声までバッチリ聞こえる。大声だからかも知れないけど。


「おいあの騎馬、最初に『警笛』使った奴らだ!」

「何だと!? おい、一時休戦だ!」

「追え! 殺せ!」

「先輩! めちゃくちゃヘイト稼いでるんスけど! 何してくれてるんスか!」

「いや、ああしないと膠着してしまうではないか。良いかね後輩君。観客は愉しませるのものだよ。それと、もう少しで良いから丁寧に走ってくれ。胸が痛いし酔いそうだ」

「四組から追われてるんスけど! そんな思いやりを発揮出来る状況じゃ無いんスけど!」


大変そうだ。

憎しみに飲まれてる騎馬に追いかけられるのは嫌だな。


「ん、左の騎馬がこっちに意識を向けたわ」

「よっしゃ撤退」


実咲さんの察知能力が光る。

相手がこちらをターゲットした瞬間に実咲さんが逆探知、すぐさま反対方向に逃走する。

これ本当に戦闘なしで十分いけるかも知れない――とか思ってたけど、無理だった。そりゃあ、保持能力(ホルダースキル)を遠くから撃ち込むんだから近くまで来なくても良いわけだ。


「土を以って槍と成せ――『土槍(アースランス)』!」

「刈り取れ――リトリビュート」


飛来した土槍(アースランス)を実咲さんが大鎌で弾き飛ばす。頭の上で大鎌が振られると超怖い。


「姿勢が安定しないから振りにくいわね」


『おおっと! 大鎌で土槍(アースランス)を落とした! 彼女、面白い武器持ってますね!』

『武器は人それぞれですからね。まあ、あまり戦闘向きではありません』


実況の人に捕捉された。僕も戦闘向きじゃないと思うけど、実咲さんが鎌が良いって言うんだもん。結局の所、強化(ブースト)との兼ね合いで自分の動きが想像(イメージ)しやすい武器なら何だって良いんだ。


「思ったより人数が多いわね。そろそろ減らしに行きましょうか」

「うん、そうだね」


まだまだ二十組ほどが残っている。

流れ弾に注意しながら、近場でせめぎ合っている二つの騎馬に狙いを定めた。

真後ろから忍び寄り、実咲さんが思いっきりリトリビュートを振り抜く。騎乗者に直撃して吹き飛んで行った。


「ぐああああああ! 痛ってえええええ!!」


これが地球なら、上半身と下半身が真っ二つに泣き別れしている所だが、グラウンド上でのみ効果のある刻印の効果により貫通力や切断力が全身に分散された衝撃力へと変換されたのだ。

とはいえ、思いっきり突き飛ばされている様なものだから痛い事は痛い。強化(ブースト)してないとちょっとヤバいかも。

でも骨折する事もないし、安全だ。


一組目は地面に着いたので失格。

二組目も実咲さんの攻撃に吹き飛ばされて失格した。

肩車で踏ん張りが効きにくい上に、接地した瞬間に失格だから吹き飛ばすことだけを目的にすれば簡単だ。


未だに飛び交っている保持能力(ホルダースキル)も、直撃させると言うよりは爆風などによって騎馬を崩す事を主眼にした攻撃が多い。


その証拠に、失格者フィールドにいる人達も多少の火傷や擦過傷はあれども捻挫にすら達しない程度の怪我しか負っていない。強化(ブースト)万歳。


「先輩、次どっちに行けば良いんスか」

「向こうだ」

「了解っス。それと、方向に合わせて脚の締め付けを変えるのはいらないっス」

「私なりのサービスを提供させて貰ったつもりなんだがね」


追われていたはずの騎馬がいつの間にか追っ手を全滅させていた。何だあの騎馬。

ともかく、生き残りは全部で八組。僕らが二組失格にさせている間に他の所でも競り合いがあったみたいだ。


「また動けなくなったわね」


またも膠着状態だ。

しかし今度はこちらから状況を打開する。つまり、近場にいる騎馬に片っ端から攻撃を行う。


武器の使用が解禁されているとはいえ、わざわざ取り回しのし難い武器を担いで騎馬の上に乗る人は少ない。そんな事をする暇があったら、遠くから保持能力(ホルダースキル)を撃ち込めば良いからだ。


それにリトリビュートの様に何もない所から取り出したり仕舞ったりする事――異空間収納(ストレージ)スキルが付いている武器なんて早々無い。異空間収納(ストレージ)の魔道具もあるけどお高いし、基本的に武器は入れない。そう言えば、ローウェルさんは弾丸用に異空間収納(ストレージ)の魔道具を持ってるけど、どっちかと言うと特殊な例だ。


つまり、相手は実咲さんのリトリビュートを受けるための武器を持っている可能性が低く、また、あったとしてもリトリビュートの性能が高いので恐らく無理矢理押し切れる。


今攻めずしていつ攻めるのか。


「まずはあいつらからよ」

「了解!」

「やべえ、こっち来た!」

「迎え撃つ! 爆炎に雷撃を纏わせ剣と成せ――『爆雷剣』!」


紫電を纏った炎剣(フレイムブレイド)を片手に対応してくるが、その程度じゃリトリビュートは止められない。


「やぁっ!」

「ウラッ――っは!? あいでででででで!!」


肩車をしている都合上、下半身を満足に使えないため上半身だけで武器を振るう事になる。リトリビュートは大鎌なのでそこそこのリーチと重さを持っている。一度でも速度が乗れば威力が出るのだ。

それに対して、相手は魔力によって形を成し、魔力で炎を固めた(・・・)剣だ。炎剣(フレイムブレイド)等に言える事だが、そういった剣は重さが殆ど無い。攻撃の為なら強いのだが、重い攻撃を受け止めるのには向いていない。

まあ、今回は相手の魔法剣をぶった切ってたみたいだから関係無いけど。


実咲さんにやられた相手は全員漏れなく地面で痛みにのたうち回ってるな。なんだか悪い気がしてくる。


「な、何だあいつ。やべえぞ」

「でもめっちゃ可愛くねぇ? あんな娘居たっけか?」

「一年じゃないか? 確かこの前、柏崎の奴が銀髪の美人にナンパして泣かされて帰ってきただろ。その時の娘じゃないか?」

「なるほどな。俺もてめーみたいなむさい男じゃなくてああいう美人を肩に乗せたかったぜ」

「お? 文句あんのか?」

「あ? こっちはすぐにでもてめーの首を絞められるんだぜ?」


なんか喧嘩始めたぞ。

関わらんとこ。


「どういう事だ後輩君。あそこで喧嘩している男達の会話を聞いたかね」

「聞いたっスよ。それがどうかしたんスか先輩」

「私もあの会話に引き出されて然るべきだと思うのだが」

「自分で言うから台無しなんスよ」

「ならば黙っていれば良いというわけだね?」

「良い意味でも悪い意味でも有名人だから無理じゃないっスかね」

「ところで、どのぐらい脚をキツくすれば体が固定できるのか試そうと思うのだが」

「いや、それほぼ脅迫っスからね?」


あっちもあっちで大変そうだ。

あの人たちはさっき追われてた騎馬かな?

長身の男性が馬役、黒のストッキングを履いた黒髪ロングの女性が上に乗っている。男性の立場が凄い弱そうに見えるのは気のせいだろうか。

あの女の人、かなり可愛いな。美少女と美人なら美人よりだ。上級生だろうか。


「ちょっと想也君。なに、あの女見てるの? いま見惚れてたでしょう。ねえ。あの女の何が良いの? ねえねえ。服装? あれが好みなの? ねえ。ねえ。ねえ」

「あいたたた! 実咲さん、耳を引っ張るのは止めてよ! 見惚れてないし! 見てただけだし!」

「そ。ああいうのが好みだと言うのなら、すぐに言って頂戴。次の日にはそうするから」

「……僕は今のままが良いよ」

「嬉しいわ」


共通(リンク)の念話に実咲さんの〔黒に染めるべきかしら〕と言う思考が少し漏れていたので釘を刺しておいた。

脚の力が強まって、蛇に締め付けられているかの様な気分だが我慢だ。


『さあ! 残り時間は三分です!』


実況のアナウンスが流れる。


「あの騎馬を狙いましょう」


実咲さんが指示したのは、女性だけで構成された騎馬だ。保持能力(ホルダースキル)を上手く使い、ここまで勝ち残ってきたらしい。


「ちょ、こっちに来たわ! どうするの山田!」

「あいつら何気に速いわ逃げ切れない! 防御する! 魔力を持って氷と成せ、氷を以って盾と成せ――氷盾(アイスシールド)!」

「了解! 魔力を以って氷と成せ、冷却の風を生め――『過冷却(オーバークール)』!」


人間一人は覆い隠せそうなほどの大きさの六角形の氷の盾が空中に出現する。空気を含まない為向こう側が透けている。もう一人の保持能力(ホルダースキル)によって、氷盾(アイスシールド)が空気中の水分を凝結させて自らに吸着させて成長した。まるで、雪の結晶をそのまま巨大化させたみたいだ。ゆらゆらと空中を漂い、実咲さんの攻撃に合わせて盾自体が移動するのだ。迂回するでもなく、小細工を弄するでもなく、とても堅そうな盾に対して実咲さんは真っ向から立ち向かう。


「やぁっ!!」


相手は、さっき剣で受けようとして失格になった騎馬を見ていたから盾を選択したのだろう。盾系の保持能力(ホルダースキル)は衝撃を分散させ全体で受ける為、剣などに比べて格段に防御能力が高い。防御力だけなら氷壁(アイスウォール)岩壁(ロックウォール)の様な壁系の保持能力(ホルダースキル)が一枚上手だが、盾系は空中に浮いているので相手の攻撃に合わせて防御点を変える事ができるメリットがある。

岩壁(ロックウォール)とかは出したら出しっ放しだし。逆に言えば、発動した後は制御に意識を割かなくても良いのだけど。


実咲さんの逆袈裟の一撃に対しピッタリと盾を合わせた相手だったが、丈夫なはずの盾が一瞬で貫通され砕け散り、そのまま体を吹き飛ばされて失格となった。痛みを堪えて地面で蹲っている。ごめんなさい。


見た目はかなり堅そうだったからリトリビュートに魔力を込めて性能を上げたんだと思うんだけど、完全にオーバースペックだったね。実咲さんは恐らくシールドエッジボアの魔力壁くらいだと思ってたんだろうけど、そんなに硬い訳ないよ。


「次よ」

「ひいっ! こっちに来た!」

「やべえ逃げろ!」

「くそっ、下のあいつ何であんなはえーんだよ!」


実咲さんの身体が全くと言って良いほどブレないから走りやすいのだ。体幹が鍛えられている証拠である。


逃げ惑う騎馬を追いかけ回し、抵抗する相手は問答無用で刈り取られる。何だか悪いことしてる気分だ。


「ふう。この体勢でリトリビュートを振るのも慣れてきたわね。力と重心の動かし方が分かって来たわ」


さっきから段々と攻撃の威力が上がってきたのはそういう事か。


残りは僕らを含めて三組だ。

全組、男が馬役、女が人役である。

三角形を崩さない様にじりじりと距離を詰めていく。

残りは一分位かな。もうそろそろ決めないと、三組六人でポイントを分配する事になる。全取りとまではいかなくとも、もう一組位は減らしておきたい。


『三十秒前!』


実況のけたたましい声につられる様にして、それぞれが地を蹴る。


「退いて!」


実咲さんが何かに気付き、僕の行動に先んじて指示した。何故かは分からないけど、まずは言われた通りに距離を取る。彼女はリトリビュートをグルグルと回しながら、ここら辺で良いわ、と言った。


一方、黒ストの美人の騎馬に近づいたもう片方の騎馬が、いきなり体勢を崩して倒れ込んだ。何かに蹴躓いてそのまま引っ張られる様にして倒れたみたいだ。何でだろう?


「うっわ、マジスか。俺の空間掌握(エリアルール)に気付いたっスよ、あの銀髪の女の子。しかも効果範囲まで見切られてるっス。初見で気付かれるとか、何処ぞの体育教師と金髪キザ野郎以来っスわ」

「驚きを隠せないな。私の奏操糸(ノルンライン)にも気付いたみたいだ。不可視の糸を紡いだ筈だったのだが」


向こうは、何故か驚いていた。いや、悔しがっていた。


「ちょ、何事? 何で向こうもあんなに驚いてるの?」

「見えないタイプの攻撃を回避されたからじゃないかしら。多分だけど、あの男の方は空間そのものに作用するタイプの保持能力(ホルダースキル)よ。全身にピリピリした感覚がしたから。女の方は分からないわ、ごめんなさい」

「あと三十秒で勝てると思う?」

「無理ね。想也君ならともかく、私は無理よ。想也君でも、『理想世界(イデア)』を使わないと厳しいと思う」

武器創造(クラフトアームズ)』だけでってこと?」

「いえ、この前見せてくれた『概念武装(コンセプトアームズ)』を使うレベルね」


概念武装(コンセプトアームズ)って言うのは、武器創造(クラフトアームズ)同様に新しく名前を付けただけだ。概念封入(コンセプト)を行った武器、防具を指す。魔法の場合は『概念魔法(コンセプトマジック)』だ。

因みにリトリビュートは概念武装(コンセプトアームズ)って事になる。


チームのみんなにさえ、武器創造(クラフトアームズ)までしか見せてない。朱島とやりあった時のはノーカンだ。あれはああいう武器を持っていたって事にしたし。あの一戦で壊れてしまった事にした。


「殺し合いだったら負けないけど、試合なら絶対に勝てないわ」


まあ、実咲さん死なないしね。


「想也君一人ならどうとでもできるのでしょうけど、今は私が足手纏いになってしまっているから……」

「僕だって無理なことは沢山あるよ。足手纏いなんかじゃないさ」

「そう?」

「実咲さんが居なかったらあの人達の攻撃に気付けないままやられてたと思うし。実咲さんのお陰だよ」

「えへ、そう。なら良かったわ」


僕は実咲さんのちょっとした笑顔に弱いのだ。完全にウィークポイント。


「どうするかね後輩君。時間も残り少ないぞ。決めに行くかね?」

「別に良いっスけど、多分逃げられるっスよ? 銀髪の娘の察知能力が異常なんで」

「ふむ。いくらでもやりようはあるのだが、いかんせん時間が無さすぎるな」

「経験則で申し訳ないんスけど、良いっスか」

「構わんよ」

「俺は銀髪の娘より、馬やってる黒髪の男の方が危ないと思うっス」

「ほう。やはり君もそう思ったかい? ああいう手合いは往々にして奥の手を隠し持っているものだよ」

「まあ、少なくともこんな所では使わないだろうとは思うっスけどね」

「ふうむ。私の奏操糸(ノルンライン)と後輩君の空間掌握(エリアルール)を全開で詰めていけばこの場は勝てるとは思うがね。いかんせん大人気が無さすぎる」

「ここらで良いんじゃないっスか。後は部室でゆっくりするのが良いんじゃないっスか」

「ああ、そうしよう。実はブレンドティーに加えてコーヒーにも興味を持ってね。部室に運んでおいた。是非試そうではないか」

「何ヶ月か前も同じノリで色々揃えた気がするんスけど」


カンカンカーン! と競技終了のゴングが鳴った。


『睨み合いの末、タイムアーップ! グラウンドに残ったのはたった二組! 分配ポイントはそれぞれ100ずつです! 皆さま、一回戦を戦った騎馬達に大きな拍手を!』


保持能力(ホルダースキル)の爆発なんかよりも大きな拍手が、グラウンドを包んだ。


相手に見逃された形での勝利だったが、勝ちは勝ちだ。


読んで頂き有難うございます。


やっとこさ2万PV超えました。







そしてまさかの先輩さんと後輩君の登場。


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