祝勝会
「じゃ、ささやかな祝勝会だ! 乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
とある一軒家のリビングで、僕らはガラスのコップをかち合わせて祝杯を挙げていた。
祝杯と言っても、未成年なのでお酒ではない。
実年齢的に成年の実咲さんも肉体年齢的には17、18歳前後らしいからオレンジジュースを飲んでいる。
大きめのテーブルの上には、帰りがけにスーパーで大量に購入した料理が所狭しと並べられていて、果たして今日中に食べ切れるのか定かではない。実咲さんがハイペースで食べ進めているので、むしろ足りるかどうかと言ったところか。
とある一軒家――つまり僕らの新しい住居だ。
昔の家は襲撃事件の時に大穴が開いて住めなくなってしまったので、新しく家を借りたのだ。
マンションの時に比べて広くなった代わりに、家賃はお高くなっている。
何故一軒家を借りたのかと言うと、一番学校に近かったからであり、改造がし易かったからだ。
やっぱりマンションの様な集合住宅だと、他人の迷惑とか、副作用的な意味で小細工がし難かったんだけど、一軒家ともなれば幾らでも僕の能力を使って防衛設備を設置できる。
実咲さんの為にもう一軒借りようと思ったが、実咲さん自身の反対によって却下された。
そっちの方が都合が良いかららしい。
確かに、防衛装置を二軒に一つずつ付けるのは大変だし、一箇所に全防衛能力を注いだ方が良いに決まってる。お陰で、僕の家は能力だけ見れば難攻不落の要塞の如き借家となっている。お金が貯まったらそのまま買い取るつもりだ。
この話をスーパーで夕食の食材を買いながら切り出したときは一悶着あったが、なんやかんやあって、実咲さんとの同棲の様な暮らしは続く事になった。
あ、ちなみに、ローウェルさんと護人にもルームシェア生活はバレた。
例によって例のごとく、実咲さんの身体を張った下着撒き散らしテロによって、呆気なくモロバレした。
勘弁してくれ。過程は前回とほぼ同じ経過を辿った。リアクションも殆ど同じだった。
とは言え、未だ発覚したのは四人だけで、他のクラスメイトには馬脚を現す様なヘマはしていない。だけど二度ある事は三度あると言うし、次に誰か連れて来たら恐らく実咲さんのテロが発生し、それを止められないのでもう誰かを連れてくることはないと思う。噂にすらしない四人には頭が下がるばかりである。
「アーマーベア12体にその他諸々含めてほぼ回収完了。かなり大変だったが、お疲れ!」
「安全マージンは取ってあるとはいえ、中々冷や冷やしましたな」
「いつも通り、お金は均等に配分されてるから後で確認しといてくれ」
「いやー、結構稼げましたな。拙者、実は新しい変換器が欲しくてですな。ちょっと昔のタイプでして、D-634型なんですが」
「あれか? あれは止めとけ。それを買うくらいならもうちょい金を貯めてワンランク上の奴を使ったほうがいいぜ」
「マジでござるか。どこか悪いんですかな」
「悪いっつーか、コスパだな。そもそも――」
乾杯の音頭をとった海は、護人との変換器談義に花を咲かせていた。
部屋の中では各々が好き勝手していた。
「今回のMVPは間違いなく一葉ね。この唐揚げをあげるわ」
「え、う、うん。でも、そんなにはいらないかな、一個でいいよ」
「あと、ミリルも頑張ってたわね。一葉と同着くらい。貴女にはこの一口ハンバーグをあげましょう」
「ありがたく存じあげますけども、私、そんなに食べられませんわ……。一つで十分でしてよ」
「一番凄かったのはやっぱり想也君よね。流石、想也君。このミートボールをあげる」
「実咲さんにそう言ってもらえると何だか嬉しいな。でも、流石の僕もミートボール100個チャレンジは厳しいかな」
「やだ、気が利かなかったわ、私。そうよね、ミートボールだけじゃ飽きるわよね」
問題は量だよ。
と強く言えない僕はきっと意気地なし。僕のお皿にいろんな料理が大量に取り分けられていくのを黙ってみていることしかできないのだ。
「それにしても、現乃様がお使いになってる鎌はたいそう優秀ですのね。アーマーベアを一撃で屠るとは存じませんでしたわ」
「リトリビュートの事かしら。あれは私が凄いんじゃなくて、想也君が凄いのよ。……詳しくは話せないのだけれどね」
「そういうことなら詮索はしませんこと」
「助かるわ」
僕の能力で今のところ皆に見せているのは共有と『理想世界』の『武器創造』だけ。僕の能力は武器を創るってことしか教えてない。大体なんだってできます、なんて言っても信じてもらえるかどうかわからないし、信じてもらえたとしてもその後がどうなるかわからない。海達なら大丈夫だと思うんだけど……勇気が出ない。確信が持てるまで、先延ばしだ。何を以って確信に至らすのかも、想像すら付かないけど。
それに、僕と実咲さんが不老不死であることも皆には伏せている。僕はまだ死んでないし、不老不死になってから二か月経ってないから本当に不老であり、不死であるのかは証拠不十分な所ではあるけども。
いつかは言わなきゃとは思っている。
もし、もう一度あの島みたいな事があったら、全力で『理想世界』を使うだろう。結果的に僕の能力がバレてしまったとしてもだ。
実は僕、『理想世界』で記憶を消すのはあの島で実咲さんに行うのが初めてだった。特定の記憶だけ消すってことが想像し難かったから丸一日の記憶を無かったことにしようと思っていた。結構上手く行った気がしてたし、実咲さんには効かなかったが、実咲さんの抵抗力が大きすぎて無効化されたものだと思っていた。
不老不死になった後、他人の記憶を消せたらこんなに悩む必要もないんじゃないか、と思い立ち、実験をしたことがある。生命力が無限になったお蔭でいくらでも実験できるようになったしね。
生命力と魔力量が同等になったため、実咲さんにも協力してもらって5分間だけ記憶を無くしてみようとした。
まあ、結果からいうと無理だった。
どうやら僕の『理想世界』は他人の記憶を消すことは不可能みたいだ。魔力を無駄遣いするだけみたいだ。
多分、『死』を願って『理想世界』を使っても無理なんじゃないかと思う。昔、そう願って殺したはずの強盗の男が、ついこの間に僕の前に現れたんだし。
本気で知られたくないときは、眠らせるしかないかな。あの時みたいに。
だけど、結構個人差あるみたいだし、多分ガッツリ強化してるような人だと効かないと思うんだよなぁ。そもそも、何度も眠らせてたらそれだけで怪しまれるし、不特定多数に見られるような状況だと僕のスペック的に無理だ。
うーん。もう何年も自分の能力と付き合ってきたけど、未だに可能不可能の境が判らないんだよね。手探りの毎日だ。
「ああそうだ皆の衆、体育祭のチーム戦の為に放課後の時間を使って練習したいと思うのですが、如何ですかな」
手を叩いて注目を集めた護人が、提案した。
ふむ。
僕は別に良いけど、他のみんなはどうするのかな。僕はいつも一人で訓練してるし、みんなで訓練となると、『理想世界』を派手に使えなくなる代わりに、連携をより強固なものに練り上げられるだろう。
「やるからには勝ちましょうぞ」
「そうですの。とは仰いましても皆様お忙しいでしょうし、気が向いたらくらいで良いですこと?」
「勿論でござるよ。一人の方が捗るやも知れませんしな。ま、拙者としては連携必殺技の開発がしたいですぞ。本音を言えば」
「なるべく出るようにするよ」
「ああ、俺もだ」
「「「必殺技を作ろう」」」
「目的が変わってませんこと!?」
「ああ……八雲君の変なスイッチが入っちゃった」
「ふふふ」
男のロマンだよね、合体必殺技的なものは。
読んでいただきありがとうございます。




