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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
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学校

話の切り上げ方が分からぬ……。





カバンを引っさげ、ポケットに手を突っ込みながら歩く。

学校までの道程は僕の家からほぼ一直線だ。

途中に登り坂も下り坂もない、完璧に平坦な道を行く。


そもそも宇宙居住区では地面に起伏は無い。

一から作り上げる地盤にわざわざ坂や丘や山を作る必要は無いからだ。

資源の無駄にしかならない。

例外として、居住区庁、行政区庁、産業区庁、生産区庁の四ヶ所は地盤が高く設定されている。

噂では地下施設のためだとか囁かれている。

また、それぞれの建物自体も基本的にはその区で一番高く大きく作られている。




少し遅目に歩きつつ、学校に到着したのは八時二十分だった。

時間に余裕を持って家を出て来れたので遅刻はしていない。

昨日遅刻してしまった理由はただの寝坊だ。

目覚まし時計が鳴らなかったのだから僕は悪くない。

アラーム設定してなかったのは僕だけど。


校門を抜けて、誰もいないグラウンドを横目に三階の教室へ向かう。

授業開始は八時半からだから丁度いい時間に着けた。

この学校はエレベーターが設置されているけど、たかだか三階に上がるだけだから階段を使う。


三階には一年生の教室が六部屋あり、教室同士が廊下を挟んで対になるように三つ並んでいる。

僕の教室は階段から一番離れた所に位置している六番目の教室だ。

これから一年間お世話になる教室の、金属製のドアに手をかけて中に入ると、


「……げ」


教室内の全員の視線が僕に集中した。

登校してきたのは僕が一番遅かったみたいだ。

クラスメイト達は教室の隅やら、机の近くに数人程度で集まってグループになっている。


うわあ。やっちまった。

これ、きっとチームだ。

多分みんなは朝早くから学校に来て、チームに入れてもらったり誘ったりしていたのだろう。

僕は何を「ちょうどいい時間に着けた」とか思ってたんだろうか。

完全に出遅れてるぞ、僕。

唯でさえ組んでくれるかも分からないのに。


あ、皆視線を外して雑談し始めた。

ちょ、やばい孤立してる入学二日目でぼっちが確定仕掛けてる。

と、取り敢えずチームに入れてくれるかもしれないし話しかけないと!


「え、えっと――」


教室内のクラスメイトたちに聞こえるように呼びかけようとしたが。


「お前らちゃんと来てるか~」


一井先生の登場で遮られてしまった。






「席は決めんの面倒くさいから好きな所座れ。特に決めるつもりはねえから明日以降も好き勝手座っとけ」


「「「はい」」」


みんな思い思いの場所に座り始めた。

ん。やっぱりか。

先生の登場前に群れていた者同士が近しい席に着いている。


ここで考えなしに座ったりすると、「うわ、空気読めよ」みたいな空気になると思う。

そんな空気に耐えられる気がしない。

皆が座り切るまで待つか。


六列七行ある机の内、ドア側から三列目の一番後ろの席が空いてるな。

黒板見えるかな……。

先生は明日以降も好きにしろと言ってたし、ずっとこの席って訳じゃないからまあいいか。

見えなかったら明日早く学校に来て前の席に座ればいいだけだし。



先生は全員が席に着き静かになるまで待っていた。


「じゃあ、今日の予定を説明するからな。

今日は一時限目から四時限目までは教科毎の担当教諭の顔見せで終わるはずだ。

んで、昼休み挟んで午後から昨日の続きなー」


そう言って、手をひらひらさせながら教室を出て行く一井教師。

入れ替わりに入ってきた数学、現国、地理、物理、化学、能力学の教師たちが挨拶と教科の説明をして行った。

そういえば一井先生は体育だったな。



先生方が説明を始めた。

先生方の話をまとめるとこうだ。

この学校では一コマ五十分の授業を二コマ一組で組んでいる。

月曜日なら一・二限目が現国、三・四限目が数学、五・六時限目以降が体育になるらしい。

午後は必ず体育か、能力学になるらしい。

在学できる五年間の内で二年生以降は、三つのコースを選ばなければいけない。

一つ目は能力者育成コース。

自身の保持能力を強化し、未開の地を開拓する者を育成するコース。開拓者コースとか、能力開発コースとか呼ばれることもある。

表立って化け物と対峙するのはこのコースの学生たちだ。別に、このコースを出たからって怪物(モンスター)と戦わないといけないわけじゃ無くて、警察には入ったり消防署に勤務したり多種多様な業務に就ける。


二つ目は魔工学コース。

魔道具の開発者を育成するコース。

能力者育成コースの学生たちが使う武器やら防具やらの開発もこのコースの学生の授業の一つだ。


三つ目は一般教養コース。

「戦いたくねえし武器も作りたくない」とか「パン屋さんになりたい!」なんて学生はこのコースに入る。その代わり、他のコースよりも一般科目の内容は濃くなるらしいが。

つまりは普通校と同じだ。この場合は三年で卒業できる。



最初から普通高校行けよとも思うが、能力技術高等専門学校(C  A  T)は魔法、若しくは超能力が使える場合にはほぼ強制的に入学させられてしまう。

有り体に言えば事故予防の為だ。



町中で突然魔法やら超能力をぶっ放されてしまっては周りはたまったものではないので、取り敢えず一年間で最低限の力の制御だけは学ばせるのだ。

使い方の分からない道具は自身とその周りを傷つけてしまう。

能力の種類によっては暴走しただけでテロ同然になる。

一回の暴走で起きる経済損失も計り知れない。

中等生……つまり十四歳くらいまでは保持能力の威力はあまり大きくないのだが、十五歳を境に威力も持続時間も加速度的に増加する。個人差はあるけど。

しかも思春期真っ只中なので感情も揺れに揺れる、と暴走の可能性も暴走時の破壊規模も段違いに上がる。

子供の意向を無視して学校に閉じ込めるには十分な理由になる。


僕はそれだけじゃないと思っているけど。

「事故予防」なんて理由が大部分を占めているように見えるだけだ。


おおっぴらに喧伝する訳にも行かない目的がある。

学校そのものの存在意義。


――保持者(ホルダー)の管理。


この為に学校は存在していると思う。

因みに、この学校は強制的に入学させられる代わりに、授業料は無い。

政府が運営しているため、維持費諸々は税金で賄われている。


しかし昨今、保持者とそれ以外の人々の格差が社会問題となっている。

能力を持たない者が声高らかに叫び、政府に訴えているわけだ。

能力を持っているからといって優遇されるのはおかしい!平等にしろ!

と。

最もな意見ではあると思うけど、保持者(ホルダー)は対価を払っている。

保持能力(ホルダースキル)を持ち、その能力が強ければ強いほど監視され、管理される。

僕達保持者はプライバシーやら人権やらが有耶無耶になっているんだからそのくらい許してほしいものだ。


唯でさえ「お前ら保持者は存在そのものが爆弾より危険だから管理させてもらうぞ」

なんて言われているようなものなのだ



自己紹介と説明を終えた先生方がぞろぞろと教室を後にする。

最後に出て行く先生を目で追っていると前の席から話しかけられた。


「――おい。おーい。聞こえてるか~?」

「ん、ああ、何? 誰?」

「やっぱ聞こえてなかったのかよ」

「ご、ごめん」

「いや、別にいいけどさ」


赤茶色の短髪に、焦茶の目をした男は肩をすくめ、ゴツゴツとした右手を差し出してきた。細マッチョってやつか。


「俺は八雲海(やくも かい)。よろしくな」

「ん、よろしく」

「んで? お前の名前は?」

「僕の名前は理崎想也(りざき そうや)だよ」

「おお。これからよろしくな、想也。俺のことは海でいいぜ」

「こちらこそよろしく、海」


目の前にある右手を握り返す。ニカッと笑う様は爽やかかつ清々しい。

こいつイケメンじゃねえか。


「で? 何の用?」

「ああ、それなんだがな。チームを組んでくれないか?」

「まじで!? いいの!?」

「お、おう。そのつもりだがもう一人一緒に組んで欲しい奴がいる。お前の後ろにいる奴だ」


腰を捻って後ろを向いてみると、確かに女の子がいた。

百六十センチに少し届かないくらいの背丈で、長方形のメガネフレームの奥には眉尻の下がった柔らかそうな黒目が覗ける。

栗色の髪は肩のあたりで切り揃えられていて、前髪は目にかからないようにヘアピンで纏められていた。


うわあ。めっちゃ可愛い。

可愛い系美少女だ。

無意識の内に彼女の目を覗きこんでいたが、直ぐに目を逸らされた。

ちょっとショック。


「……組むのってこの人?」

「そうだ」

「……取り敢えず、なんで僕とチームを組もうと思ったのかな?」


それだけは聞いておかないといけない。

例え、一緒に組むチームメイトがむさい男だけでなく美少女だと分かって浮かれたとしてもだ。


「……最初はな、俺とこいつだけでチームを組もうと思ってたんだけどよ、お前、あの教師の化け物っぷり知ってるだろ?」

「うん。保持能力(ホルダースキル)無しであそこまで出来るとは思わなかった」

「お前も十分凄いけどな。……ああ、それでだ。こいつ――内宮一葉っつうんだけど、完全に後衛系なんだよ」


彼女――内宮さんに目を向けると、慌てたように頭を少し下げた。


「う、内宮一葉(うちみや かずは)ですっ」

「よろしくね、内宮さん」

「よ、よろしくお願いします」


可愛いなぁ。


「話を戻すぞ。一葉は後衛だから、俺は必然的に前衛になるわけだ」

「そうだね」


「まあ、俺は保持能力使って遠くから戦うより、近距離で剣を振り回すほうが得意だけどな。それにしたって相手が悪い」

「保持能力の身体強化なしで40人瞬殺してたもんね」

「ああ、それでだ。仮にも引き分けた想也を前衛としてチームを組んで貰いたいん、だが……」


海は喋りながら何かに気付いた様で、つらつらと言葉を並べている口を閉じてしまった。

どうしたんだろう。


「どうしたの?」

「あ~、お前もうチームに入ってたりする?」

「いいや、誘ってくれたのは海が初めてだよ」


今の今までドコにも属して無かったよ。

お誘いの言葉も無いから自分から売り込みに行く予定だったよ。


「お! じゃあ、組んでくれるか!?」


身を乗り出してくる海。

近いから離れろ。


「うん、いいよ。これからよろしく、海、内宮さん」

「おう」「うん」


僕は、チームに加入した。


「因みに、内宮さんと海はどうして組もうと思ったの?」

「……最初は、俺はどっかのチームに加わろうと思ってたんだが『私は、八雲君と一緒が良い』とか言いやがるから――」


あれ。内宮さんが朱くなって俯いちゃった。

どうし――ああ、なるほど。

わかっちゃったよ、僕。

元凶だと思わしき男は何やらブツブツと小さい声で呟いている。


「――そもそも『新しいチームじゃなきゃ嫌』とか『あそこは女の子が多すぎる』だとか言い始めたから朝から忙しくなっちまったし――」


「海」

「――今回は偶々、想也が居たから良いものの――」

「海、海!」

「ん。ああ、なんだ?どうかしたのか?」


やっと帰ってきたか。


「僕はね、君に言わなきゃいけないことが出来たんだ」

「……?なんだ?」

「突き指して死ね」

「なんでだ!?」


顔がちょっといいからって調子に乗るなよ、海。


「じゃあ、まだ時間は有るし、お互いに自己紹介でもやっておかない?」


チームへの加入が決まったし、互いの事を良く知っておく必要があるだろう。

今は殆ど名前しか知らない。

背中を預ける仲間になるのだから、せめて使う保持能力(ホルダースキル)ぐらい頭に入れておきたい。僕が言えたことじゃないけども。


「そりゃ賛成だ。が、先に飯食っちまおうぜ。食いながらだって自己紹介は出来るだろ」

「そうだね。じゃあ、ちょっと学食にご飯買いに行ってくるよ」

「俺も行く」

「オッケー。内宮さんは?」

「わ、私は、お弁当持ってきたから待ってるよ」

「わかった。行こうか、海」

「おう」



「で、どうなの?」

「どうなの、と言われても何について聞いてるのかわからん」


僕は腕いっぱいにパンを抱えている海に問う。

この学校の一階には学食が設置されていて、パンや弁当の販売をしている。

もちろん、学食だからその場で定食を購入することも出来る。


「内宮さんの事だよ」

「一葉? それがどうかしたのか?」

「内宮さんとは何時から一緒なの?」


さっきのやり取りを見た限り、高等生になってから初対面ってことは無いはずだ。

海は大量のパンの代金を支払いながら返答してくれた。


「あいつとは中等生の頃に知り合ったんだ。家も近かったし、いつの間にか仲良くなってたんだ。それに何故か知らんが一緒にいることが多くてな」

「なるほどね~」

「それと、ちょっと見たらわかると思うがあいつは人見知りなんだよ。あまり俺から離れようとしない」


こいつ……まさか気付いていないのか?

いくらその手の経験が無い僕でも気付いたんだぞ。

いやいや、僕が間違っている可能性もあるんだ。

詮索は止めよう。


「そっか。まあ頑張ってね」

「……? おう」


人のなんたらを邪魔する奴は馬に蹴られて死ぬらしいから、取り敢えず放置で。


読んで頂き有り難うございます


アドバイス等有りましたらガンガンお願いします

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