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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
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外伝:先輩ちゃんと後輩君 3

「なあ、後輩君」


麗らかな春の陽気が、制服の端を押さえるように充満する。何をするにも適した気候、生きとし生けるものが活動的になる空気の柔らかさを肌で感じながら、ゆったりと流れる時間に身を委ねる。


新学期が始まって、はや一ヶ月。

部室として使っていた応接間が、台風が通り過ぎた後の様な大惨事になっていたりもしたが、概ね普通の日常を過ごしていた。部室に関しては、まあ恐らく誰かが思いっきり保持能力(ホルダースキル)を使った結果だとは思う。わざわざ俺らの部室を狙った訳では無く、偶然だったのだろうが、やった奴はよほど怒られたに違いない。


俺に呼び掛けた声の主は、無事復旧した応接間のソファに深く腰掛け、ブレンドティーで唇を湿らせてから、再びゆっくりと声帯を震わせた。


「なあ、なあ、後輩君」

「何スか」


おざなりに返事を返す。ついでに視線も返す。

声の主は、俺の先輩だ。対面に座り、いつもと変わらず黒ストを見せ付けるかのように脚を組んでいる。

しっとりと艶のある黒い髪と、血色の良いきめ細やかな肌は、彼女の調子がすこぶる良い事を表している。他でもない本人が先日に言ってきたから、そうなのだろう。


先輩のセミロングの髪の奥で目が合い、不敵に、ふふん、と笑われる。

この人は、特に理由もなく笑う時がある。

まあ美人が笑う分には理由なんて要らないだろうがな。少なくとも俺にとってデメリットは無い。


「窓ってなんだと思う?」

「突然スね。窓スか」


俺の目を覗き込むようにして問うてくる。

先輩の黒眼に映る俺は、何の脈絡も無い問い掛けに困惑していた。いや、先輩が突拍子の無い事を言い出すのは今に始まったことじゃないから、俺が困惑しているのは問い掛けの意味だ。当たり前の事を大真面目に訊かれると逆に何か深い意味があるんじゃないかと勘繰ってしまう。


そんな俺の状況に、言葉不足を感じたのか、先輩は付け足した。


「そう、窓だ。別に深く考えなくとも良いさ。深い意味はないからね。とは言えしかしながら、まずは窓の定義を決めたいところだよ。私と君の間に認識の差異があってはすれ違いと思い違いが発生してしまうだろうからね」

「そっスね。まあ……風を取り入れる所じゃないっすか?」


普通に考えて。


「確かにそうだ。だがそれは扉でも代替可能だろう?」


言われてみれば確かにそうだ。

窓と扉って似たようなことできるしな。じゃあ、扉に出来て、窓に出来ない事を考えてみるか。もしくはその逆を。

……開き方とか、材質とか、そういう方面ならどうだろうか。

いや、開き方は大体似たようなもんだし、考えてみれば上方向に開くのは窓だけな気がするが、この考え方だとそれ以外の開き方をするものが窓じゃなくて扉と呼べてしまう。材質も同じ理由で却下だ。ガラス製の扉だってある訳だし、あれを窓と呼ぶのはなんか違う気がする。


「じゃあ、一般的に人が出入りしない大きさと位置、ってのを付け足すっス」


やろうと思えば出来るからな。窓からだと出入りっつーか、侵入、って感じになるが。


「ふむ。一般的、か。しかしその一般的とやらも人は往々にして共有出来ないものさ。時代と文化で幾らでもその在り方を変えてしまう。一般的――常識的と言い換えても問題無いかも知れない。良いかい、後輩君。この世で、『常識』ほど不確定で不定形な、まるでグラデーションのような『空気の柵』で囲うルールは無いのだよ」


それを言ったら、人ごとに柵の位置が変わってくると思うんだが。例え、他人の考えをそのまま読み取れたとしても、考え方全てを理解出来るとは限らないように。

ま、それを今言う事はない。面倒くさいし、恐らく先輩の話の流れからして、特に必要な話でもない気がする。


「じゃあどうするんスか?」

「本質的な所から攻めてみようか。窓が窓である理由が有るはずだからね」

「例えばなんスか?」


本質的。ある物体をある物体足らしめる理由。

そう言うものは、得てして目には見えないものだ。現に、視覚情報のみでは扉と窓の違いは決定的な違いを判別し切れていない。


「『仕切り』ではないだろうかね。彼方と此方、あの世とこの世、外と中。そう言ったものを区切って区別する境界さ。だがしかし、これは先に述べた様に扉でも良いわけだね。となるとこれにプラスして、差別化を図れる要因があるだろうね。

例えば、壁との差別化として、光を取り入れる為にガラスが用いられる様になった訳だよ。壁であり、壁ではない。その二つの状態を相互に行き来出来る事が、壁と窓、扉を分かつ条件さ」

「あとは風を取り込めるとか、外の景色が見えるとかじゃないっスか?」

「その通りだ。もう面倒だから結論から言うが、『開き続けること』に意味があると私は思う訳だよ。

仕切りであり、区切りであり、出入り口であり、通り道で在り続けなければならないのさ」


一通り話し終えた所で、先輩は、ふう、と息を吐いて背もたれにもたれかかった。


「…………」


何も話さない。

あ、俺の反応待ちか。

先輩の言いたい事は分かるが、どうにもこうにも腑に落ちない。が、噛み砕ける分だけ咀嚼して、返事を返す。


「……つまりあれっスか?窓を開けっぱなしにするのは普通だけど扉を開けっぱなしにするのはおかしいって話っスか?」

「まあそんな感じだよ。トイレとかで想像すると解りやすいと思うんだがね」

「まあ多少は理解出来たっス」

「では後輩君。窓が窓足り得る本質を見抜けた所で、君に質問だ」

「ウィッス」

「この部屋の中で、一般的にも本質的にも『窓』をしてると思うところを開けてみてくれ」


立ち上がり、辺りを見回す。

振り向いてみると、目に映るのは落ち着いた色合いの壁と、黒茶色で彫りの深い扉。文字通り木っ端と化す前に比べて、色合いが強くなっている様に思う。

と言うか、部屋の中全てのもの殆どが新調されている。魔石を早めに移動させておいて正解だったな。いや、まさか部屋が吹き飛ぶことを予想していた訳ではなかったから唯の偶然だが。

一体、幾ら散財したのか、想像するだけで恐ろしい。


っと、窓だ。窓。

先輩を飛び越えたその先にある、普通の窓。

遮光装置が付いているので、カーテン等は付いていない。モノによっては、閉じながらにして風を取り込める、などと言う、先の先輩との会話を根底から覆す様な仕組みの窓も有るらしいが、色々な大人の事情で殆ど普及していない。


鍵代わりのスイッチを押して、固定を解除し、全て開け放つ。柔らかな微風が俺を通り抜けて部屋の隅々まで到達し、空間を満たす。


「それで全部かい?」


これ以外に窓は無い。話の流れからして、扉を開けろってことでもないだろうしな。


「ああ、後輩君。閉める必要は無いよ」

「開けっぱなしにする事が窓だからっスか?」

「いや、丁度換気がしたいと思っていた所なんだ」


……まさか、自分で開けに行くのが面倒だからってこの話をしたのか。

こっちの方が面倒だったろ。


「いやいや、思ったより暑くてね。紅茶を飲んでいたら身体が火照ってしまって仕方がなかったのさ」

「こんな回りくどい事しなくても、言ってくれればすぐやったんスけどね」

「そこら辺はほら、コミニュケーションってヤツだよ後輩君。会話なくして円滑な人間関係はあり得ないからね。例えそれが無駄話でもね」


先輩が言うと説得力が違うぜ。

これ言うと多分拗ねるから言わないが。


「じゃあ、さっきの続きなんスけど」

「お、何かね」

「結局、『違い』がよく分からなかったっス。理解は出来たんスけど、納得が行かないっつーか、何つーか」

「言いたい事は分かるよ。『厳密な線引き』が無いところに引っかかるのだろうね。でもこれは、さっきの常識の件に通ずる所があるよ」


そうだ。壁と窓と扉にしたって、そもそも壁ってなんだって話になる。窓ってなんだ。扉ってなんだ。

つーか、今までの話が、全て他との差異でしか説明出来てない。


「きっと、違いなんて無いのさ。この世の全ての物体は分子で出来てるだろう。例えば壁は通れない物であるべきだとする。この条件から言うと、仮に『すり抜け』る事が出来たらそれはその時点で壁では無い何かになる。でも、だよ。分子構造に一切の変化は無い。違いは無いのに、違いがある。つまるところ、何かを何かだと決定するのはその物自体ではなく、それ以外の観測者や、結果から確定されるのさ」


例えば、扉という存在の基準値から、プラスマイナス『大体』の間ならそれは扉という存在に収まる。

しかし、基準値自体に明確な値は無い。

人それぞれの値だ。


「ま、答えがあるに違いないと言う思い込み自体が間違ってるかも知れないのだがね。私と君の間に認識の差異があって然るべきなのさ」

「でも先輩、窓の本質を見極めようとか、差異を減らそうとかそんな事言ってたっスよね」

「ああ、アレは適当に言ってただけだからね」

「マジっスか」

「マジだよ」


じゃあ俺が考えてたのは正解っちゃあ正解だったのか。


「人は、他人との差異を埋めるために触れ合う。それは、世界と言う共通した『場』を固める為なのさ」


俺は100だと言う。

先輩は0だと言う。

じゃあ、これは50を基準にしよう。

そうした中間値を取ることを延々と繰り返して、基準値の代わりにする。


「だからこそ、共感は人間関係において最も重要視されるのさ。共通の話題があったり、感動するポイントが同じだったり。それらが多ければ多いほど、自分と相手の世界は似ていると言えるからね」

「互いの世界を近付ける事が、コミニュケーションだって事っスか?」

「その通りだよ。少なくとも今、私と君の仲は確実に近付いているね」

「何でドヤ顔してるのか分かんないっスけど、そう言えない事も無いっスね」


ふふん、と勝ち誇った顔をされた。

どう返せばいいんだこれ。愛想笑いしとくか。


「君はあれだね。作り笑いが下手だね」

「誰かさんが笑顔を作らなくちゃいけない状況を作るからっスよ」

「おや、これは申し訳ないね」

「つーか、そう言う先輩の作り笑いはどうなんスか」

「私かい?自慢じゃないが、それなりだと思うよ」

「是非、披露して下さいっス」


ニコッと、一瞬にして澄まし顔から一転、顔に可憐な花が咲いた。クソ、上手いな。


「上手いっスね。すげー綺麗っス」

「…………君は。ああいや、何でもない」

「はあ」

「今日の部活はこれで終わりにしよう。たまには仕事しないといけないからね」


部活? 何か活動したっけか?

未だに何部なのかも知らないぞ。


「君も来るかい?」

「先輩のお誘いとあらば、断る訳にはいかないっス。あ、でも採集系は勘弁して欲しいっス。ダルいんで」

「そう言うと思ったよ。じゃ、行こうか」

「ウィッス。――因みに、何スけど。ここって何部なんスか?」

「…………………探偵部さ」

「依頼人とかは?」

「一度も来たことがないね」

「発足以来?」

「発足以来だよ。名前を紅茶部に変えようかと思い始めている所さ」

「……取り敢えず、行くっスよ」

「そうだね」

お読みいただきありがとうございます。


就職活動ってこんな忙しいんですね。全く執筆時間が取れません。そんなわけで一話だけ更新。




先輩:名前は決めてません

身長:169cm

体重:秘密

ランクはB+

実は寂しがり屋。佳人。でも友達少ない。

生足でいると落ち着かないので基本的にタイツかストッキング着用。

とある事情から、後輩を部活へ加入させる

保持能力(ホルダースキル):

超能力系(サイキック):奏操糸(ノルンライン)。魔力を元に特別製の糸を紡ぐ能力。糸を作って操るだけの能力。

魔法系(マジック):基礎的なものは全てできる。


後輩:名前など無い

身長:181cm

体重68kg

ランクはB+

人間関係を取り繕うのが面倒になって、思ったことをそのまま口にするようになった。でも友達結構多い。

最強決定戦で二回優勝済み(偽名+仮面つけて出場)。次優勝してしまうと『暫定最強』になってしまうので、最強決定戦に出るのを控えている。

先輩に正体がバレて部活に入った。

保持能力(ホルダースキル):

超能力系(サイキック):空間掌握(エリアルール)。自分を中心として半径25メートル以内の物体の把握と、効果範囲内なら、魔力を使って空気の壁を創れる。壁の形状は自由だが、大きさは魔力消費量に比例し、効果範囲に追従して移動しないので、自分が移動して効果範囲外に壁が出ると、壁は消える。

つよい(確信)

魔法系(マジック):あんまり得意じゃない。と言うか、強化(ブースト)以外に3つ位しか出来ない。


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