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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
35/79

苦手なもの

「うわっ、暗っ!ていうかカビ臭さっ!」

「わ、わ、わ、何これ、何これ。り、理崎君?理崎君どこ!?返事して!」

「隣にいるよー」


目の前が光に包まれて、反射的に目を閉じたら、瞼を開けても明るさを見つけることが出来なかった。一瞬、瞼を開けてないだけじゃないかと思ったが、すぐに辺りが暗いだけだということに気付いた。

そして、視覚の後は嗅覚が感覚を脳へと送る。実際には、嗅覚に当たる感覚器官の信号を『ヘッドフォン』で再現しているだけなんだけど。


現乃さんは珍しく取り乱していた。

隣に僕がいることに気付くと、あっという間に元通りの無表情に戻ったけど。今みたいな現乃さんは新鮮で良いんだけどねぇ。


段々と目が暗闇に慣れてくると僕らが居る場所が分かってきた。どうやら十畳ほどの大きさの部屋に居るようだ。サイリウムの床は凸凹と崩れ落ち、コンクリートがむき出しになった壁が不気味な模様を作り上げていた。

出入り口は目の前の人一人が通れる大きさのドアのみで、ドアノブは取れかかっていた。


僕と現乃さんから目と鼻の先の位置に海と内宮さんも居た。

僕は今すぐ海が何のゲームソフトをダウンロードしたのか問い詰めなければいけない。

大体予想はつくけど。


「海?君は何ていうゲームをダウンロードしたのかな?」

「『脱出血迷宮4〜デスホスピタル〜(R-18)』だ」

「まさかのナンバリングタイトル!しかも18禁だよ貴様どうやって買ったし!」

「別に俺のアカウントじゃ無いからな」

「タイトルに『デス』とか入ってたら確実にロクなもんじゃ無いよ!ホラーゲーム確実じゃん!」

「ハッハッハ、今から3時間は終了出来ない設定だから精々楽しもうぜ」

「うわあ……」

「理崎君?話がよく分からないのだけど」


VRゲームそのものに疎い現乃さんが尋ねてきた。


「わかりやすく言うと、お化け屋敷のガチ版で、五感はまんま現実そのものだけど、怪我とかしてもそこまで痛くないし、ゲームをやめれば怪我とかは残ってないって訳。所詮は遊びだよ、うん」

「なるほどね」

「そんで、このゲームは3時間経つまで止められない」

「理解したわ。つまり、楽しめば良いのね?」

「まあ、そういうこと」


うんうんと頷く現乃さんを横目に、辺りを見回す。ホラーゲームと言うことは、あの扉を出てからが本当の意味でのスタートになるのだろう。


「や、八雲君、手を繋いで……!」

「おう」

「あれ、内宮さんって怖いの苦手なの?」

「ひ、人並みだよ。八雲君が怖がってないのが普通じゃないんだよ」

「なに言ってんだ。このくらいが普通だ。なあ、想也」

「うぇ?ああ、うんそうだね。普通普通」

「しかも見てみろ、現乃だって平常運転じゃねえか」

「そうね」

「お前だけだぞそんな怖がってんの。動けなくなるくらい無理なわけじゃ無いだろ?」

「そ、そうだけど、怖いものは怖いの!自分からホラーゲームとかはやったりしないもん!」

「こういうのはジェットコースターと一緒でスリルを楽しむもんなんだよ。その点じゃ、一葉くらいの怖がりが丁度良いんだって」

「そ、そう?でも、手は繋いでね。怖いんだから」

「ま、無理矢理やらせてる様なもんだからな、そのくらいお安い御用だ」


海は見るからに楽しそうで、怖がる素振りは一切見て取れなかった。


「……その方法があったか」

「え?なんか言った?現乃さん」

「いえ、何も」

「おい、お前ら行くぞ」


海は、錆びれたドアを開けようとして――ドアノブが壊れて取れたので、ドアを蹴飛ばして暗闇の奥へ進んでいってしまった。

内宮さんも一緒に行ってしまったので、部屋に僕と現乃さんが取り残されてしまう。


「い、行こうか」

「そうね」


そうして、僕らは暗闇の中に一歩踏み出した。







少し歩くと、すぐに二人に追いつけた。

僕らを待っていてくれたようだった。


デスホスピタルの名の通り、廃墟と化した病院がこのゲームの舞台のようだ。塗装は殆ど剥げ落ち、天井が抜け落ちて、瓦礫が突き刺さるようにして通路を塞いでいた。所々に点滴棒が倒れていたり手袋が散乱していたりする。辺りは薄暗く、足下さえ見えないほどだが、僕らの足取りは確かだ。


ナースステーションの場所だけ電気が付いており、まるで夜中の電灯に群がる蛾の様に僕らはそこへ引き寄せられて行った。


「雰囲気あるね」

「そうね」

「行く当てもねえし、まずはナースステーションの中を物色してみるか」

「八雲君、躊躇無さ過ぎだよ……!」

「おっ、懐中電灯有ったぞ。凄え古いタイプだが使えそうだ。四つある」


早速、海が暗闇を照らすための懐中電灯を発見した。二十センチほどの棒状で、先端から光を発するタイプのものだ。

それを僕ら四人で一つずつ持ったところで、変化が起きた。


――リリリリリリリン!リリリリリリン!


突如、ナースステーション内の壁に備え付けの電話から、けたたましく鳴り響く耳を劈く様な着信音が病院中に木霊した。


「うおおおわあ!?」

「どうしたの理崎君」

「いや、うん、びっくりしただけ」


びっくりした。マジびっくりした。

決してビビっているわけではない。

僕の近くに寄った現乃さんは不思議がっていたが、男として頼りになるところを見せなければならないというちっぽけなプライドが僕に意地を張らせた。


「取るぞー」

「躊躇おうよ八雲君……!」

「スピーカー設定はどれだ……っと、こいつか」


お前一人で聞けよ、と思うが謎解き要素が入っていると面倒だし、全員で聞こう。


『ガガッ…………ザッ……ガリガリガリガリ……て……けて………助けて!嫌だ嫌だ嫌だ助けてよおおお!!何でなんで!来ないで!誰かっ助けて、たすっスゾゾザザザガゾザガッ!……キイたナ……オマえ、ら……ツレテッてヤるヨ……きゃはははは!……ザッ!』


音の飛んだ音声が受話器から聞こえてきたと思ったら、何かを引っ掻く音の後に女性の悲鳴が聞こえて、まるで受話器を無理やり奪い取るような取っ組み合いの音の後に、男とも女とも取れる良く言えば中性的な声がナースステーションに反響し、赤ん坊の笑い声を最後に通話は切れた。

何これ不気味。


あいつ――電話向こうの誰かを『あいつ』と呼ぶ事にする――そう、あいつはなんと言っていたか。聞いたな、お前ら、連れて行ってやるよ、だったか。

お前らって、僕も入ってるんすよね。


そう思い立った瞬間、背筋に冷や水を浴びせられたかの様な悪寒が全身に襲い掛かり、手足が震え始めた。


「どどどどどうしよう海」

「どうしようもクソも、『あいつ』を迎え討つのは無理だろうな。戦える存在なのか分からんし、保持能力(ホルダースキル)は使えないし、そもそもこれそういうゲームじゃねえ。逃げるしか無いだろ」

「マジか、うわあもうマジか――うひゃあ!?」


海と話していると、突然ナースステーションの電気が一斉に落ちた。光が消えると、暗闇が滑り込んできて、何も見えなくなる。

僕は軽くパニック状態だ。


「光光あわばばば誰か!?現乃さん、現乃さんどこ!暗い暗い現乃さん!」

「私は理崎君のそばにいるわ」


手の中の懐中電灯の事も忘れて、喚く僕。

現乃さんが、真正面から懐中電灯で僕を照らしてくれた。そばにいるわ、とは言ってたけど、現乃さんは僕が手を伸ばせば肩に届くほどの位置にいた。

あぁ……明るい。

そんな僕の様子を見て、海が尋ねてきた。


「なあ、想也。もしかしてとは思うんだが、ホラーゲーム苦手か?」

「は?意味わかんないんだけど。余裕だよ。怖くないよマジで。さっきのはあれだから、いきなり暗くなるからびっくりしたって言うか、いやびっくりはして無いけど。ホラーゲームマイスターこと僕が苦手とかそんなわけ無いじゃんははははははは!」

「わっ!!!!!!!!!!」

「はぅあっ!!!」


反射的に現乃さんに抱き付いてしまう僕。

海め、このクソ野郎。大きな声出すなよ!


「あら、理崎君ってば大胆ね」

「おばけ怖いおばけ怖いおばけ怖い」

「私が守ってあげるわ。だから大丈夫よ」


現乃さんは、そんな僕を包み込んでくれた。

優しさが全身に沁み渡る。

正面から抱き合う形になって、色々と当たっている。

とってもやわらかい。

しかし、今の僕はその幸せを享受できるほど心の余裕が無く、身体の震えが消えるのを待つばかり。

強く抱きしめてくれる現乃さんへの好感度が僕の中でうなぎ登りになっているが、頭を撫でるのはやめてほしい。流石に恥ずかしいから。


「よ、よし、もう大丈夫。ありがとう現乃さん」

「もう良いの?もうちょっとこうしてても……」

「『あいつ』が来るかもしれないし、十分だよ」

「…………そう」


今、僕の顔はどうなっているだろうか。

恐らく、引きつっているだろう。

手をグーパーさせる現乃さんの表情は薄暗くて窺い知る事は出来なかった。笑っている様に見えたけど、多分気のせいだ。


「おい、行くぞ想也、現乃。どこでも良いから取り敢えず移動しよう。って、想也お前めちゃくちゃ震えてんな」

「産まれたての子鹿みたいね」

「……武者震いだよ」

「くくっ、そうか。じゃあ行くぞ」

「八雲君、手を離さないでよ」

「わかってるわかってる」


海と内宮さんのやりとりを見ていた現乃さんは、羨ましそうにそれをみていた。


「理崎君、私と手を繋ぎ合いましょう。私も怖いから」

「ま、全く怖がりだなあ現乃さんは。仕方ないから手を握っておいてあげるよ」

「ふふ、助かるわ」


そういう現乃さんの手は温かくて、足取りは確かで、震えて冷たくなった手でおっかなびっくり歩を進める僕とは真逆だった。

読んでいただきありがとうございます


脱出血迷宮〜ダークスクール〜

脱出血迷宮2〜ブラックアミューズメント〜

脱出血迷宮3〜ブラッドアイランド〜

脱出血迷宮4〜デスホスピタル〜


「大反響を呼んだ、脱出血迷宮3が更に凶悪になって帰ってきた!初心に立ち返ったジャパニーズホラーが貴方を襲う!

果たして、これは仮想で終わるのか。」


十八禁なのは流血表現があるからであって、エロはありません。


エロ系の十八禁VRゲームは、この時代では取り締まりが厳しいので、買うことはほぼ不可能です。

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