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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
33/79

再戦!

「始めます」

「おう、さっさと来い」

「『強化(ブースト)』。『共有(シェア)』」


魔力を身体中に巡らせ、身体機能を底上げする。身体の重さが消える感覚は、幾度となく経験して来た。身体の各器官の強度、性能の全てが魔力によって強化される。

脳の神経シナプスを魔力で肩代わりすることで、通常時とは比べものにならないほどの思考速度を得る。

そして、共有(シェア)を発動する。

四人を繋ぎ、思考の共有化設定を行う。

誰かに力を割り振るのは、今回はやめておこう。


〔あー、あー、聴こえるー?〕


自身の内側で携帯電話をかけるイメージを持つ。心の中で何かに話し掛ければ、それが全体に伝わるのだが、僕は携帯が一番イメージしやすかった。

共有(シェア)の利点は、思考会話なので実際に口に出す必要が無い。その為、レスポンスが高速だということ。そして、漠然としたイメージをそのまま伝えられることだ。


〔おお、凄いなこれ〕

〔便利ね〕

〔あわわわ、ゾワゾワする〕


次々と返信――返心が有るのを確認して、準備完了だ。


フォーメーションは、僕、左隣に現乃さん、僕らを壁にする形で少し後ろに海、さらに後ろに内宮さんが控えている。

役割は明確だ。

僕と現乃さんがアタッカー兼回避タンク。

海が『繋ぎ』で、内宮さんが支援。

僕と現乃さんが先生を抑えている間に海がちょっかいをかけて、内宮さんに撃ち抜いてもらう。先生の瞬間移動(テレポート)には海が対応する作戦だ。

戦力的には十分だが、贅沢を言わせてもらえば役割につきもう一人ずつ欲しい所だ。


「『強化(ブースト)』。刈り取れ――リトリビュート」


現乃さんの手の中に漆黒の大鎌が握られる。クルクルと回した後、背中の後ろで柄を持つようにして構えた。正面からだと、右肩から柄と石突が、左脚から鎌の刃が見える構え方だ。

変則的な持ち方ではあるが、特段気にする事も無い。構えとしては無駄が多いように見えるが、恐らく自分が一番動き出しやすい態勢なのだろう。ヨーイドンで先に当てた方の勝ち、と言うような一手一瞬を制する必要がある場面では確実に後手に回るだろうが、そうでない場合は後ろに隠した手のお蔭で初動が読みにくくなる。僕は鎌を使ったことが無いからアドバイスも出来なさそうだし、きっと使っていくうちに自然とわかっていくだろう。


〔準備出来たわ〕

〔了解、二人は?〕

〔いつでも行けるぜ〕

〔わ、私も〕


思考会話――念話を介してそれぞれの状態を確認し終えたところで、先生が動いた。

先生は瞬間移動(テレポート)は行わず、自前の足で地を蹴って突っ込んできた。先生との距離は20メートル程だったが、たった一度の踏み込みでだいぶ詰め寄られた。

僕らは、先生が前に出た瞬間にそれぞれが行動を開始した。

現乃さんと僕は迎撃の為に直進。海は瞬間移動(テレポート)を警戒して内宮さんの方へ後退し、内宮さんは魔法系(マジック)を構築し始めた。


「シッ!」

「ラアッ!」


現乃さんよりも早く接近した僕は、先生との格闘戦に入る。

右のフックを流して、左腕で顎を狙う。キッチリ腕の外腕側に避けられたが、ここで現乃さんが追いつく。


〔伏せて!〕


伝わってきた思念に従って、即座に膝を屈める。

直後、僕の頭の上を掠る様にして、リトリビュートが横方向に回避した瞬間の先生に向かっていくが、僕と同じように姿勢を低くされて回避されてしまった。

追撃しようとした僕に、現乃さんから『やりたいこと』が伝わってくる。

む、まあ自分がどのくらい動けるか試すのは大事だし、いいんじゃない?先生なら相手にとって不足無しだ。


現乃さんは、振り切ったリトリビュートの速度を殺さない様に重心を移動させつつ、片手を僕の肩に突きながら僕と位置を入れ替えた。乗り越えた時の力までも回転力に変えて、淀みなく流れる斬撃を繰り返す。腕と肩をフルに使い、時には体全体を旋転させ、関節を発条のようにして速度を上げ、リトリビュートを操った。鎌は戦闘向きの武器ではないが、現乃さんは鎌にしか出来ない戦い方を編み出し始めていた。

持ち手を替えて軸をずらすことによって攻撃方向を変えたり、鎌特有の引っ掛ける動きで視界外から斬りつけたりと、試行錯誤しながら戦っているようだ。攻撃は全て躱されてしまったが、初めてでここまで動けるのなら上出来だろう。

後ろに下がりながら回避する先生を、現乃さんと僕が追う。


氷槍(アイスランス)行くよ!〕

〔現乃さん僕が出たら下がって〕


現乃さんに向けて放たれた反撃の回し蹴りに横から蹴りを入れて、先生の体勢を崩す。

それと同時に氷の槍が10本ほど、先生と僕に殺到する。


〔あぶなっ〕


かなり近い場所に着弾したが、誤射はされずに済んだ。

炎槍(フレイムランス)じゃなくて良かった。

先生を追う様に、幾本もの槍が発射されるも、その全てを躱し切られた。

この間に、僕と現乃さんは先生から距離を取る。

今のは仕切りなおすための攻撃だったから、躱されたとしても問題は無い。当てに行くなら物量で飽和攻撃すればいいのだが、それだと僕と現乃さんが巻き込まれてしまう。先生は瞬間移動(テレポート)で躱せるだろうけど。


〔前回よりは戦えてるね〕

〔そうだな……ッ!〕


そう思った矢先、先生が瞬間移動(テレポート)で内宮さんの所へ跳んだ。近くに控えていた海が迎え撃つ。海は守りに徹しているが、出来るのは精々時間稼ぎだ。僕と現乃さんで、すぐに援護に向かう必要があるのだが、先ほどまで先生を追う様に移動していたので、いつの間にかかなりの距離が開いていた。

くっ、頑張っても3秒は戻れない。


「『炎剣(フレイムブレイド)』!」

「遅い遅い」


海は押され気味だ。

炎剣(フレイムブレイド)で応戦するも、内宮さんを守りながらだと動きずらいようだ。

いくら念話によって連携が取れているとは言っても、限界がある。目の前のことに集中し過ぎて、念話に意識を傾けていられないのだ。


〔もうちょっと持ちこたえて!〕


追いついた!

よし、このまま後ろから……ッ!?


〔想也そっち行ったぞ!〕


突如、瞬間移動(テレポート)で僕の真後ろに出現した先生に意表を突かれ、一瞬遅れながら対応する。


〔ちょ、やば〕

〔援護する!〕

〔理崎君、左に避けて〕


僕の右隣に居た現乃さんと、目の前から炎剣(フレイムブレイド)を片手に走り込んで来る海がそれぞれの武器を振るうが、悠々と避けられてしまう。


先生が、ニヤリと口角を歪めた。

今、先生の周りには3人がぎゅうぎゅうに詰まっている。

そのせいで、それぞれが武器を満足に振り回せなくなっている。この時点で、海の炎剣(フレイムブレイド)と現乃さんのリトリビュートが意味をなさなくなる。

さらに、密集してしまったことで内宮さんが誤射を怖れて魔法系(マジック)を射出出来ない。


擬似的な乱戦状態に持ち込まれたのだ。

意思の高速疎通ができた所で、持ちうる力を十全に発揮出来なければ意味が無い。


「ぐあ」

「ぐえ」

「きゃっ」


動きが鈍くなった所を、三者一様に足を払われて転ばされる。

そのまま先生が瞬間移動(テレポート)で内宮さんを抑えて、戦闘は終わった。


どこからどう見ても負けである。

悔しい。戦闘時間は約3分。その殆どを現乃さんが戦っていた。あれ、僕何かしたっけ。


倒れたままの僕らは、先生からアドバイスを頂戴した。


「最初は良かったと思うぞ。それなりに連携も取れてたしな。ただ、そのあとがダメだな。一人ずつ改善点を挙げるぞ?まず、理崎。戦い方としちゃ十分だが、仕切り直すなら仕切り直すでキッチリ下がり切れ。現乃も同じだけどな。現乃は武器に頼り過ぎだ。最後の所は武器を一旦捨てて、直ぐに格闘戦に移った方が良いはずだ。次に八雲。お前も戦闘方法の切り替えを早くしろ。それと、最後に俺の所に来たのは悪手だ。三人釣った所で俺が内宮に瞬間移動(テレポート)したらどうするつもりだ。内宮は魔法系(マジック)がワンパターン過ぎだ。もっと手数を増やしたりしてみろ」


的確なダメ出しのあと、先生の号令によって今日の授業はつつがなく終了した。

あとは個人で鍛錬に励むのも良いだろう。

時間的には映し出された太陽が、天頂をやや通り過ぎたあたりだ。授業自体は終わり、もう帰っても問題ない。


この後は、ERCで簡単な討伐依頼でも受ける予定だ。実は貯金がカツカツ、とまではいかないがそう遠くない内にライフラインが使用不能になる。ここ二週間は一度も依頼をこなしていない為、収入が無い。

合同依頼の給与があったのだが、僕が意識を失っている間に医者にかかったらしく、いつの間にか料金が引き落とされていた。保持者(ホルダー)料金はお高い。合同依頼の報酬金額の半分を持って行かれた。


こう言うと治療費が途轍もない値段のように聞こえてしまうやも知れないが、そもそも、合同依頼の給金自体があまり高くない。

依頼先で倒した怪物(モンスター)の死体そのものが報酬に含まれるシステムなのだ。金額としては怪物(モンスター)の素材の方が断然高く売れる為、依頼の金額はおまけ程度の物だ。因みに、今僕が持っている怪物(モンスター)の死体を売ることが出来れば今後慎ましく生きて行く分には死ぬまで働かなくて良いくらいの金が手に入るだろう。

問題は、売ることが出来ない事にある。

怪物(モンスター)の素材は、売却する場合、ERCか政府直属の買取場で取引する必要があるのだが、その場合は、何時の依頼で手に入れた物なのかを申告しなければならない。そこで馬鹿正直に合同依頼で倒した怪物(モンスター)ですなどと言えるわけも無い。あの島で僕は何も倒していないと伝えてしまったし、嘘を吐いても良いのだが、かたやSランク認定間違い無しの蟷螂とAAランク確実の熊の死体だ。面倒な事に『嘘を見抜く』能力持ちが買取に出張ってくる可能性が高い。高ランクの危険怪物(モンスター)がいた場所を把握しておかなければ保持者(ホルダー)の無駄な犠牲が増えるだけだからだ。そして何より、そんな高ランク怪物(モンスター)を倒した保持者(ホルダー)を野放しにしておくわけも無い。例えばこれがSランクの保持者(ホルダー)ならもっと簡単なお話なのだが、残念ながら僕はしがないC+ランクなのでややこしくなること必至である。『理想世界(イデア)』で誤魔化せるとは思うが、『誤魔化した』こと自体がバレるはずなので結局意味が無い。

あれだけ大変な思いをして、得た物は売れない高級品だ。まあ、現乃さんと会えた事はプライスレスかな。うん、自分で言っといてなんだけどキモいな。


つまるところ、地道に稼ぐ他無い。

特に予定があったわけでも無いし、軽い討伐依頼なら七時位には帰ってこれるだろう。


「さて、僕は帰ろうかな。仕事しなきゃ。お金欲しい」

「あら、ならついていくわ。お金は大事よね、ご飯が買えるから」

「お、仕事に行くなら俺も行くぞ。金が欲しい、新しい変換器(コンバーター)が買いたい」

「み、みんな欲望むき出しだね……」


お金は重要だ。

人が文化的な生活を送る為には金銭が必要不可欠なのだ。生きる為に金を稼ぐのか、金を稼ぐ為に生を続けるのか。人が働くのは大体金の為だ。僕が働いて居るのも金の為だし。今は現乃さんの食費に消えていくんだけど。

人って食べた物はどこに消えていくんだろうね。現乃さんの食べっぷりを見ると、何故か虎の姿が脳裏をよぎるんだけど、多分虎よりタチが悪いな。虎より食べそうだし。


最近知ったのだが、行きつけのスーパーでの僕の渾名は『園長』らしい。

従業員の間で名付けられていたらしく、レジに並んだ時に園長様と呼ばれたのが気付いたキッカケだ。

あの時のレジ打ちの人ほど「あっ、やべっ」という言葉が似合う顔も珍しい。て言うか実際に小さな声で言ってたしね。お客様の言い間違いだと思いたかったが、次の日も園長様と言われた時はカゴの中の大根で殴打したい気持ちに駆られた。


家に帰って思い至ったが園長ってアレだ、動物園のことだ。

そりゃ、像でも飼ってんのかと疑いたくなる位の量を毎日買ってるけど。

確かに餌付けっちゃあ餌付けなのかも知れないけど。


「じゃあ四人で行こうか。このメンツなら結構稼げるよ」


主に内宮さん頼りになるが。

討伐依頼を受けてその場所に行って、内宮さんに殲滅して貰う簡単なお仕事だ。

そうと決まれば直ぐに移動しよう。思い立ったが吉日だ。


「じゃあ二十分後に校門で集合ね」


そう言って、僕はグラウンドをあとにした。



読んで頂きありがとうございます



八雲海の炎剣(フレイムブレイド)は、近付かれたら爆発させて強制的に距離を取る戦い方なので、人を護りながら戦うには不向きです。



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