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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
32/79

リトリビュート

歩いてみんなの所へ戻ると、現乃さんが話しかけて来た。

その表情はとても満足そうではあるが、勝って当然とでも言いたげだ。


「勝ったよー」

「おかえりなさい。……その怪我大丈夫なの?ど、どうしたら……」


僕の腕の状態に気付いたのだろう。

途端にオロオロとし始めた彼女を見て、自然と笑みが零れてしまう。心配してくれるって、気分が良いなあ。

強化(ブースト)し続けて安静にしていれば、そのうち治ると言うと、不服そうだったが引き下がった。


「おい理崎、ちゃっちゃと保健室に行ってすぐ戻ってこい。チーム戦は最後にやってやるからよ」

「分かりました」


先生は授業を再開するようだ。

催促されるように言われてしまったが、自然回復をさせる必要もないのだ、当たり前のことである。

保健室の先生は回復魔法が使えるのだから。

骨折程度なら、ツバをつけときゃ治る、などというノリで軽ーく治してしまう。

流石に、複雑骨折レベルは時間が掛かるだろうが。

確か、『暫定9位』だっけか?うちの学校の保健医は。何気に凄い人だったりする。

四肢の切断程度なら、その場でくっつけられるらしいが真偽は分からない。生やす、と言われたら信じられないとは思うが。


「じゃあ、行ってくるね。すぐに戻るよ」

「分かったわ」


そう言ってグラウンドを出る。

クラスメイトの訝しむ様な視線には、気付かないフリをした。

能力の詳細はバレて無いはずだし、そこまでデタラメな事はやってない……はず。

たまたま相性が良かったのだと勘違いしてくれないかな。

あの赤髪の坊っちゃんがどのぐらい有名なのか知らないから、なんとも判断し辛い。





十分後。腕の火傷を綺麗さっぱり回復させて戻って来たグラウンドの様子を言葉で表すなら死屍累々だ。

これは酷い。またみんなして瞬殺されたのか。


グラウンド中央では、ちょうど六人組チームと先生が戦闘を開始しようとしている所だった。

前衛が三人、中衛が一人、後衛が二人だ。

とてもバランスが良い組み合わせだ。

基本的に、それぞれの技量が同じだと仮定して考えると、後衛は前衛と同じかそれ以下の人数なのがセオリーだ。

前の一人が後ろの一人を守る様に動くのが理想的である。


その点で言うと、僕らのチームも理想的な組み合わせではある。何より、個々の技量が高い。僕は強化(ブースト)しか使ってないから論外だけど、内宮さんは正に砲台のイメージだ。一撃の威力が重く、量が撃てるから広域殲滅も可能で、魔力が早々に尽きることは無いので継戦能力が高い。後衛役としてはこれ以上ないと言える。

特にこの継戦能力は非常に大事だ。

こればかりは僕の『理想世界(イデア)』でも敵わない。

今は授業だからあまり関係は無いが、例えば地球に怪物(モンスター)退治の仕事へ出た時に、敵が続々と現れる……と言ったことは往々にしてある。

僕の保持能力(ホルダースキル)は有り体に言えば燃費が悪過ぎる。

一対多数は出来ても、一対一の連戦が出来ない。

僕の『理想世界(イデア)』は起動時と発動時でそれぞれ個別に魔力を消費する。

理想世界(イデア)』を使えば、炎槍(フレイムランス)と同じことは出来るし、殆ど同じ魔力消費で使える。

ただ、『理想世界(イデア)』の発動自体が普通に炎槍(フレイムランス)を使うより何百倍単位で魔力を使うのだ。


簡単に言えば、『理想世界(イデア)』を発動して、その中で魔力を追加することによって炎槍(フレイムランス)を創るので、単純に考えて二回分の魔力消費がある。

最初から炎槍(フレイムランス)を使った方が早いし安い。

強化(ブースト)だけで勝てる相手なら話が早いんだけど、そうもいかないのが現実だ。


あの島だって、熊二体と蟷螂が一体ずつ五分おきに出て来られてたらヤバかったし。


そんなわけで内宮さんと組めたことは僥倖だ。戦っている間、常に強力な援護射撃が飛んで来るんだから。


そして、海。

こちらもかなり強い。

正直に言って、あの朱島明人よりも強いんじゃないだろうか。

まず、至近距離戦が凄い。

強化(ブースト)だけなら僕が上だが、海の強さは魔法系(マジック)を絡めた格闘戦にある。とにかく変則的で、実体の不確定な炎剣なので、剣なのに間合いが変わる。

もうね、どうしようも無いですわ。

魔法系(マジック)は発動後に変化させることは出来ないが、発動前ならいくらでも条件を付け足せる。

海は炎剣(フレイムブレイド)に改造を重ねて、至近距離から近距離までの範囲を全てカバー出来る様にしていた。

一度だけ、組手の最中に海の炎剣(フレイムブレイド)を潜り抜けて、勝ったと思っていたら、その場で炎剣(フレイムブレイド)が爆発して、そのエネルギーを利用することで高速移動して距離を離されたことがある。

その時は本当に驚いた。

後になって思い返してみると、あの島で内宮さんを助ける時も空中で同じことやってた気がする。


そして、現乃さんだが。

強化(ブースト)の質はまだ悪いし、武器を本気で振り回すのは今日が初めてだ。

現乃さんのリクエストに応えた武器は、練習している暇が無かったので殆ど握っただけ、と言った感じだ。かなりの大物なので部屋の中で少し振り回してもらったらテーブルが壊れた。今日の朝は、床に座って朝ごはんであった。


現乃さんがどれくらい出来るのかは完全に未知数だ。

だが、恐らくこの場に居る誰もが口をあんぐりと開けて驚くことになるだろうと確信している。


僕が戻って来たことに気付いた現乃さんが近くに来た。それにつられて海と内宮さんも着いて来る。


「想也、良くやったなお前」

「す、凄かったよ!」

「ねえ理崎君、腕大丈夫?」

「はっはっは、頑張った。腕は治してもらったから安心して」


内宮さんと海は僕の能力について少し知っていた、というか相手側から気にしないと言っていただけあっていつも通り接してくれた。

現乃さんは、僕の腕をペチペチと触ったりさすったりしていた。なんか恥ずかしい。

うん、大丈夫だからもう離れてくれないかな。いつまでくっついてんの。

でも声には出さない。嬉しいとか、そんなわけ無いんだからね!


腕に全神経を集中させて現乃さんの手の感触を脳に刻み込んでいると、海が耳打ちして来た。


(……周りの目は気にすんなよ)

(……ありがとう、でも大丈夫だよ)


心配してくれている様で、とても嬉しい。

でも、僕にはもう理解者がいるから、大丈夫。あるいは、海なら二人目の理解者になり得るかもしれないと思うと、つい期待しそうになるが、その感情を理性で抑え付ける。


要望は通らないものだ。

想望は叶わないものだ。

仰望は見間違うものだ。

待望は外れるものだ。

希望は裏切られるものだ。

渇望も切望も熱望も翹望も、他人に何かを望む事は等しく無意味だ。


理解を得られるのは一人で十分だ。『もしかしたら』に縋るのはもうやめた。

だから、精々期待しないで待つことにする。……待とうとしてるのは、それでも諦め切れないからなんだろう。


「おい、お前らで最後だ」

「行こうぜお前ら」

「う、うん」

「行きましょ、理崎君。……理崎君?」

「ふぇっ!?どうかした?」

「いえ、ぼうっとしていたみたいだから。先生が呼んでるわよ」

「あ、うんゴメン」


また取り留めの無い事を考えていた。

目先の事に集中すれば、そのうち忘れられるだろう。


先生と僕らは向かい合い、一列に並ぶ。

チームで戦うのは実に二週間ぶりだ。

この前は二人掛かり挑んで、先生に軽くいなされ内宮さんを抑えられてチェックメイトだった。

前回の敗因は、恐らく同時に先生に当たった事だろう。海が『炎剣(フレイムブレイド)』を使って戦えなかった事で、結果的に戦闘力を落としてしまったと言うことだ。

ここら辺の事をクリアする作戦は考えてある。

今回は前の様にはやられないぞ。

現乃さんも加わって、一人当たりの負担は減った筈だし。


「そういや、現乃が入ってやるのは初めてだったな。俺が戻って来たら始めるからな」


先生は瞬間移動(テレポート)で目の前から消えて、グラウンドの隅でたんこぶの出来た頭を摩るクラスメイトの元へ移動していた。多分、なにかアドバイスでもして居るのだろう。

今のうちに作戦会議しておけってことか。

四人で円を作る様に集まると、海が切り出した。


「どうする?前回と同じ様にやるか?」

「いや、それはやめよう。また頭を打ちつける未来が見える」

「ご、ごめんね、近くに来られると何も出来なくて……」

「それは仕方ねえ。俺らが頑張るしかない」

「それなんだけどさ、多分僕と海で一斉に掛かると炎剣(フレイムブレイド)使えないでしょ?」

「まあ、危ないしな」

「何とか出来る筈だからこの前よりは戦えると思う」

「何とかって、どうすんだよ」

超能力系(サイキック)を使うつもり。共有(シェア)って言ってね、あの島で海と内宮さんに使ったことあるよ」


現乃さんは黙ったままだ。

話に入って来れなくて当たり前か。

僕の『共有(シェア)』を使えば、意思の疎通がイメージ的に行える。さらにスムーズに連携が取れるはずだ。


「ならそれで行こう。後は……現乃だな。強化(ブースト)しか出来ないって話だよな。武器は持ってないのか?」


僕も強化(ブースト)しかしないから一緒だと思うけどね。


「持ってるわ」

「なら、出してくれないか?得物を見ないことには動き方も決められないからな」


現乃さんが、いいの?と僕に視線をよこしたので頷く。海の言っていることは至極真っ当な事だから、断る理由がない。

僕が丸一日以上かけて創った現乃さん専用の武器のお披露目だ。


「刈り取れ――『リトリビュート』」


現乃さんの宣言と同時、武器が顕現する。

その形状は、人の魂と命を刈り取ると呼ばれる死神とワンセットで描かれる武器そのものだ。

真っ黒な鎌――リトリビュートは現乃さんの身の丈程の大鎌だ。うむ、格好良い。

彼女が握り易い太さに調整された長柄の先に

陽の光を反射することなく、ツヤのない巨大な漆黒の曲刃が取り付けられている。

鎌と言うのは内側にしか刃が無いが、リトリビュートは先端部分から両刃で、峰は無い。

一切の装飾が無いそれは、ある種の不気味さと神々しさすら感じさせる。



これは僕が決めたのではなく、現乃さんが鎌が欲しいと言ったのだ。

先週の土曜日、僕は現乃さんにどんな武器が欲しいか尋ねた。


「現乃さん、どんな武器が欲しい?」

「武器?何故かしら?」

「現乃さんは保持者(ホルダー)だから、きっとこれから怪物(モンスター)退治の仕事をすることになると思うんだ。その時に武器があった方が素手より断然楽だからね」

「理崎君が創ってくれるの?」

「うん。大体のものは作れると思うよ」

「正直、何が良いのか分からないのだけど。理崎君が創ってくれたのなら何でも良いわ」

「んー、自分の動きをイメージしながら使うのが強化(ブースト)のやり方だって言ったよね?」

「言われたわね」

「だから、自分がその武器を使ってる姿がイメージし易い方が有利なんだ。一番心に残ってる武器とか無い?」

「…………鎌、かしら」

「なんで鎌……って、なるほど。蟷螂ね」

「何百年も蟷螂を見てたから、鎌の動きが想像しやすいわ」

「オッケーわかった!凄いの創るよ!丁度素材も有るしね!」

「素材って…………今、出て来たこれのこと?」


能力を発動し、虚空からある物体を取り出した。あの島で僕が一刀両断した蟷螂の腕部分だ。ゼロから物を創るより、元になる物があった方が簡単で強力なものになる。

しかもこの蟷螂はAAAランクはくだらない怪物(モンスター)だ。

きっと良い物が出来るはず。


そう思って全魔力と時間をかけて創り上げた一品が、あの大鎌だ。


完成したのは、昨日の夜。

ご飯は全て現乃さんが作ってくれたので、僕は鎌制作に全力で臨めた。


「…………よっし。完成!」

「本当にお疲れ様」

「完璧だよこれ。素材の時点で格が違った。概念封入してもビクともして無いし、まだまだ概念をぶっこめそうだ」

「……もう休んでよね」

「ああうん。流石にこれ以上は死んじゃう。っと、そうだ、名前つけてよ現乃さん」

「名前って……この鎌に?」

「その鎌に。僕の創ったものって名前をつけるって言うのが凄く大切でね。名は体を表すって言うの?名が体を現す、って言った方が良いかな。名前を決めると、存在が確定するっぽいんだよね。逆に、名前をつけないと大体二、三ヶ月ぐらいで壊れちゃうんだよ。名付け親との間に魔力で特殊なラインが出来るから、名付けないと魔力不足で壊れると思うんだけど……って、こんなこと言っても分かんないよね。ゴメンゴメン。とにかく、名前を付けないとそのうち壊れちゃうってだけ覚えておけば良いよ」

「じゃあ……『リトリビュート』」

「ん、良い名前だね。試しに振ってみてよ」

「了解、ってちょっと重いわね」

「まあ、強化(ブースト)して持つのが前提だからね。因みに、僕と現乃さん以外が持つとそれの10倍くらい重くなるんだ。正確には僕らが軽く感じてるだけだけど」

「じゃあ振ってみるわ、ねっ」


ヒゥン!(鎌が僕の鼻先を掠めながら空気を裂く音)


パン!(近くにあったテーブルがバターの様に真っ二つになる音)


「ご、ごめんなさい!」


僕に当たりそうになったことと、テーブルを現代アートみたいにしたことのどちらだろうか。正直、冷や汗が止まらないが振れと言ったのは僕なので責めるわけにもいかない。


「ううううん、大丈夫、うん」

「本当にごめんなさい。許して下さい」

「全然怒ってないから大丈夫。そうだ、その鎌――リトリビュートは戻れって念じれば消えるからやってみて」

「こ、こう?」

「そうそう、出す時は、出ろって念じるか、最初に決めた起動言語と鎌の名前を言えば好きなところに出てくるから」

「な、なるほど」



こんな感じで作られたのが、リトリビュートである。僕がさっき即興で創った打刀なんかとは概念強度も概念の量も武器自体の性能も段違いだ。



「私の武器はコレよ……なに?」

「い、いや随分と立派なモン持ってるなと思っただけだ」

「当たり前じゃない。理崎君が私の為に創ってくれたんだから」


珍妙なものを見る目で現乃さんを見ていた海に、素っ気なく返した現乃さんは、振り心地を確かめる様にリトリビュートを回した。


体全体を使い、武器の重さを利用して止まることなく流れるように振り回す。

まるで演舞を見ているようだった。


現乃さんはひとしきり運動した後、満足そうにリトリビュートを消した。


「……何かしら」


僕ら三人は完全に見惚れていた。

銀と黒が舞い、その中でチラチラと見える翡翠色が脳裏に浮かぶ。

三人に黙って見られ続けている現乃さんは居心地が悪そうだ。


「ご、ごめん現乃さん。あんまり綺麗だったから見惚れちゃってたよ」

「……綺麗。綺麗。綺麗。うふふ」

「ちょ、現乃さん?」

「見惚れちゃった。くふふふ」


なんか小声でブツブツ言いながらトリップしてる。初めてであんなに上手く武器を扱えたから嬉しかったのかな?ずっと家にいたから鬱憤が溜まっていたのかも。


海と内宮さんはどちらもまだ戻って来ていない。いつまで固まってんだ。


「おーい、戻ってこーい」

「ハッ、そうだな、あんだけ動けるなら問題ないだろ」

「す、凄い」


僕以外みんなして浮ついているから、一旦再集合してから、話を戻す。


「内宮さんは後衛だとして、僕らはどうする?」

「三人で前衛しても意味が無いからな。想也と現乃で前衛、俺が中衛、一葉が後衛で行こう」

「その心は?」

「現乃と想也が強化(ブースト)しか使わないからな。中衛にしてもやることなくなるだろ。かと言って、三人前衛だと先生の瞬間移動(テレポート)で後衛に跳ばれる。それなら、俺が後衛よりで魔法系(マジック)を使いながら一葉を守れば良いだけだ。苦手だが、遠距離攻撃手段が無いわけじゃ無いからな」

「それで良いと思うよ」

「私も」

「わ、私も」


作戦会議が終了したと同時に先生が戻ってきた。


「準備出来たか?」

「あ、ちょっと待ってください」


先生に断りを入れてから、三人に提案する。


「円陣組もうよ円陣」

「構わんが、なんでまた円陣なんだよ」

超能力系(サイキック)の発動条件を満たすため」


みんな納得してくれたようで、それぞれ手を重ね合わせて円を作る。

ここまでやる必要は無いけれど、なんだか、チームっぽいじゃないか。


「よっしゃ、打倒先生頑張るぞ!」

「「「おー!」」」



読んでいただきありがとうございます


現乃さんの武器はこの話を書く前から決めてました。大鎌持った女の子って良いよね!


理想世界(イデア)の概念封入の量のイメージとしては、銅の剣を聖剣にすることは出来ても、オリハルコン製の剣を聖剣にするよりは弱い……みたいなイメージです。

元が良いほうが強くなると思って頂ければ。



それにしても話進まないのぅ

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