先生対クラス
戦闘シーンを初めて書きました……。
戦闘なんて呼べるのか。
この世界には超能力と魔法がある。
どちらも火を作り出し、水を操り、雷を落とすなどの異常現象を引き起こせるものだ。
それこそ<人類史上最大の災害>の前ならそんな事が出来る人間は居ないといっても良い位の極々少数だった。そして、絶対数が少ないが故に決して表立って出てくることはない。
しかし、昔の呼称である西暦で言えば2263年――現在の呼称で言えば人類歴200年――の現在では絶対数はまだまだ少ないとはいえ、超能力と魔法は一般的であり、政府がその存在を認めている。
そして、超能力か魔法のどちらか、あるいはその2つを持ち、行使できる者をこう呼んだ。
――――保持者と。
そして、政府はそういった能力――保持能力と呼ばれている――を持った者の教育と強化の為に能力強化機関を設立した。
そして、能力が発現した者は保持者用の人材派遣会社に入ることが出来、十八歳未満の人に限っては能力者専用の学校に入学することになっている。
かくいう僕の通っている学校も保持者専用学校だ。
その名も能力技術高等専門学校。
惑星に蔓延る怪物達との戦いの為に。
<人類史上最大の災害>後から現在までの、二百年間続く危機に抗う為に。
世界政府が必要に迫られて創立した能力者達の為の機関だ。
「さーて。じゃあやるか!」
校庭の真ん中で一井先生は腰に手を当てながら話す。
僕たちは一井先生の言う「体育」とやらの為に校庭に出てきていた。
流石に火や水や電気や風やその他色々出す可能性のある保持能力を教室内で使う訳にも行かないからな。
壁をぶち抜いてドア要らずの開放的な教室になるかもしれない。
「今からやるのは俺との勝負だ。ルールは簡単、俺が降参するかお前らが行動不能になればゲーム終了だ。保持能力は使っても良いぜ。使わなくたっていい。つっても流石に身体能力向上の強化くらいは基本だからな。それぐらいは使っといた方が良いぞ」
なるほど。先生は僕達がどのくらいの能力を持っているのかを確かめたいわけだ。
能力を使わない奴なんて居ないと思うけど。
それにしてもこの先生は自信満々だな。
まあ、この学校で教えていくからにはこのぐらいでないとダメなんだろうな。
「そーだなぁ。時間はたっぷり有るしな。個人戦やった後にチーム戦でもやるか? もちろんこっちから組む相手を決めたりはしねえよ。自由に組みな。その代わり一人で誰とも組まずに一匹狼ごっこはダメだぜ? 仕事の時にソロでやる奴なんてほとんど居ないからな」
一井先生はズボンのポケットに手を突っ込んだまま気怠そうに言う。
つまり、先生はこう言いたいわけだ。
皆の前で一井先生と一対一をするわけだから戦ってる奴の戦闘スタイルが見れる。
自分の保持能力を全て出し切って手の内を晒すようなヤツは居ないと思うけど、ソイツの大体の戦い方は分かるわけだ。
他人の個人戦を見て相性の良いと思われる保持者を誘って一緒にチームを組む。
……友達作りへの足掛かりだ!
確かにコレは一井先生がしたり顔で提案するだけの事はある。
「じゃあ、準備の出来たやつからかかってこいよ~」
しかし、この先生のアイデアが有効となるのは自身の能力の有用性を示せた時だけだ。
しかもそれを見せ付けることが出来るのは個人戦の一回のみ。
おまけに絶対に誰かとは組まなければいけない。
もし、ロクに能力もないやつと組まなければならない状況があったとして皆はどうするだろうか、そして、それを回避する方法があったとして。
僕なら絶対に組まない。
……やばいぞ僕、絶対余る。余り物になる。
どうしようどうしようどうしよう。
なぜなら――
「ほいほい。最後お前だけだぞ~」
なんて考え込んでいると先生に呼びかけられた。
あれ? 40人以上居たはずなんだけど。
あたりを見回してみると、僕以外の全員は校庭に座り込んでいた。
人類歴二百年ともなった今ではめっきり姿を見なくなった砂を撒いたグラウンドである。
完全に制御された気候によって雨が降って砂の地面がぐちゃぐちゃになることも、強風で砂が巻き上がることもない。が、爆発などが日常茶飯事のこの学校では、ゴム製より砂製の方が都合がいい。
皆の視線が僕に集中する。
朝の注目とは少し違うけど、結局可哀想な目線を向けてくるんだろうな。
簡単に想像できるよ……。
「おーい。早くしろよ」
「はーい。すいませーん」
「よし。じゃあ始めっか。周りのヤツは一分も持たなかったからな」
「まじすか……」
おいおい化け物かよこの人。
でもそれだけ早い決着が続いていたのなら僕が考え込んでいる間に皆行動不能になってても仕方ないな。
「ちなみに保持能力使ってねえからな」
いよいよ持って人間離れしてるな。
校庭のあちこちで焦げてたり、穴が開いたり、水浸しになってる所があるけど先生は傷ひとつ負ってない。……能力無しで全部躱したのか。
周りに目を向けると、へたり込んでいるクラスメイト達は気まずそうに目を逸らした。
ああ、そうですか。一井先生の評価を改めないといけないな。
胡散臭いオッサンから胡散臭い化け物にランクアップだ。
ルールの再確認でもしておくか。
「えーと、僕の行動不能か先生の降参が終了条件でしたよね?」
足の健を伸ばし、腕を曲げて、準備運動をしながら問いかける。
「おう、そうだ。行動不能にしたらチーム戦どころじゃなくなっちまったからお前が終わったら今日は解散だがな」
「そりゃそうですよね。疲れてそれどころじゃないですね」
「ああ、もうちょい出来ると思ってたんだがなぁ。お前は、どうかな?」
肩をすくめ、笑いながらそう聞いてきた。
そこら辺に座ってる奴とそう変わらないと思うけどなぁ。
いや、でも保持能力使ってないなら30秒くらいは立ってられるかな。
「頑張ります」
「んじゃ、3,2,1」
先生のカウントダウンに合わせて腰を落とし、瞬時に動けるように体重を移動させる。
手を前に出して構え、そして、
「ドンッ!!」
地を蹴る。
一歩、二歩。
彼我の差はおよそ5m。
先生も僕と同じように走ってきている。
取り敢えず小手調べの為にジャブ――と見せかけてそのまま飛び蹴り。
先生は少し驚いたようだったが、ニヤニヤしながら体を捻り、飛び蹴りをひょいっと躱した。
着地し、振り向きつつ左足を軸にして右足を振り抜く。
後ろから殴ろうとしていた先生は身を沈め、僕の上段蹴りを危なげなく躱す。
「あっぶねぇッッ!」
上段蹴りを躱した先生は沈めた身を戻し、右ストレートを放ってくる。
それを横から左手を当てて逸らし、そのまま一歩踏み込んで右ストレートを打ち返す。
しかし、先生も僕の打撃を逸らし打ち込んでくる。
そのまま殴り合うが、互いに逸らし、受け止め、躱し、先生が態勢を崩している僕に蹴りを
放って来た所で、地面を蹴り大きく後ろに飛んで仕切り直す。
「ふぅッ」
息を整え、構えつつ先生を見据える。
15秒は経っただろ。最初の接触にしてはまずまずだな。
いやしかし、近距離格闘戦にはそれなりに自信があったんだけどなぁ。
まだまだ全力じゃないけど、先生も全力な訳がないしな。
「「「お~」」」
とクラスメイトの感嘆の声が漏れる。
どうやら他の奴らは格闘戦になった時点で勝負が決まったものだと思っていたらしい。
それもそうか。先生は能力無しで行動不能にしてるらしいから、結果的に格闘戦になっている筈だもんな。
「くっくっく!良いねえ!他の奴は近距離戦になった時点で終わってたんだがなあ!」
「そうですか」
「よーしよし。保持能力使って掛かって来い!」
「無理です」
「んん?」
「いや、使わなくても十分だとか思ってるわけじゃないんです。保持能力が無いわけじゃなく、使わないのではなく使えないんです」
「かっかっか!なるほどねぇ条件型の能力って訳か」
「まあ、そんな所です」
「強化もか?」
「それは使えるというか、そればかり出来ますけど……先生も使ってないみたいなので使いません」
「良いねぇ。言うじゃねえの」
そう、コレが僕が余り物になると思われる原因である。
個人戦で能力を見せ、それを元にチームを組む。
それが今回の流れとなる筈だったが、僕の能力の発動条件の一つに一人では使えないというものがある。
いや、発動だけならできるけど、使えても意味が無いと言うべきか。
どんな能力を持っているかも分からず、条件型能力という基本的に面倒くさい制約がある奴と組もうとする奴は少ない。それに他に組みやすそうな奴らが沢山居るのにわざわざ僕を選ぶような物好きはそうそういるまい。
ほら、周りの奴らの目の色が微妙なものに変わってる。
条件型の保持能力になぜ発動条件が架されているのかはまだ解明されていない。
発動条件は人によって千差万別だ。
指を鳴らす事だったり、声を発することだったり、足を組むことだったり、夜しか使えないなんてものもある。
頭に思い浮かべるだけで発動できる能力とは違って面倒くさい手順があるのだ。
「まあ、フェアちゃあフェアか。あと30秒したら今日は終わりな」
「分かりました……ッ!?」
第二ラウンドは一井先生の飛び蹴りによって始まり、ピッタリ三十秒後まで近距離格闘戦オンリーの激しい攻防は続いた。
結局勝負は着かずに引き分けという形になり、この日は解散となった。
読んで頂き有り難うございます