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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
15/79

理崎想也の保持能力

主人公のチートがやっと発揮されますね


ちょっと駆け足だったかもしれないです

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」


両手を地面に着いて荒い息を繰り返す僕。

背中の天国を感じていたら、いつの間にかゴール――砂浜に着いてしまった。

砂が掌にくっつくことなど、気にも留められないほど息が上がっていた。

完全にペース配分を間違えた。


「もう逃げなくていいの?」


地に伏せている僕の真上から訪ねてくるのは銀髪の女の子。

天国の体現者だ。

背丈は僕と一緒位なのにすごく軽かった。強化(ブースト)していたのもあるけど。


「ぜぇ、はっ、ぜぇ、はっ」

「……大丈夫?」

「ぜぇ、だい、大丈夫、ぜぇ」


会話もままならないので心肺機能を強化(ブースト)して空気中の酸素を効率よく取り込む。

いやー、やっぱり途中で心肺機能系に割り振っていた魔力まで背中と掌に回したのがいけなかった。

背中の感触で忘れていたが、掌の感触も素晴らしいことに気付いてからは抑えが利かなくなってしまった。そもそも、途中で女の子にも走ってもらえば良かったのだが、そんなことは頭からすっぽりと抜け落ちていた。

しかし、初めての事だったのだ。誰が僕の胸の高鳴りを抑えることが出来ようか。


「ふぅ……。完全復活」

「……で、もう走らないの?」


ぎくり、とした。まさか気づかれていたのでは、と。魔力の配分を変更までしていることがばれていたのでは、と。

すぐに、そうではないことを尋ねているのだと思い至ったけど。


「ああ、うん。これ以上は走っても逃げれるところないし、逃げようとしても森の中に入るしかないから、多分追いつかれちゃう」

「ふぅん、何気に絶体絶命ってやつじゃない、今の状況って」

「そうなんだよねぇ」

「私は貴方についていくわよ。貴方が駄目だったら私も死んじゃうだけだから」

「も、もちろん。大丈夫だよ。最初の予定は、ここで迎え撃って数を減らしながら逃げようと思ってたんだ」

「最初の予定?」

「……実は僕の他に二人、一緒にここに来た人がいるんだけど見当たらないんだよね。僕達より先にここについてるはずなんだけど。その人たちと合流するのが最初の最初の予定」

「ふーん。まあいいわ」


まあいいわ、て。


「まぁ、何とかなるって思ってるよ。いざとなったら最終手段もあるし。それに、君の事を助けないといけないからね、ここで死なせるようなことにはしないよ」

「死なせないように、ね。私も貴方を死なせたりはしないわよ。……あら、もしかして、一緒に来た二人ってあの人たち?」

「あ、そうみたい」


女の子が指差す先を見てみると灰の道からではなく、普通に森を掻き分けて出てきた男女がいた。

海と内宮さんである。


「海。内宮さん。なんで後から? 追い抜かしちゃった? それならどっかでぶつかる筈なんだけど」

「こっちとしてはお前の隣に居る女の事を聞きたいけどな」

「ん? この人? この人は生存者だよ」

「せ、生存者なんていたんだね! 私以外に居たなんてびっくりだよ!」

「え、ええ。まあね」


興奮した様子の内宮さん。自分で歩ける位には回復していて何よりだ。


「(……生存者? 俺たちの班に銀髪は居なかったはずだ。なら、あの海に落ちた一班の方か。……脱出できたのか?いや、それにしちゃ服が綺麗すぎる。魔法系(マジック)で綺麗にした可能性もあるから決めつけは出来ないが……)」


小声でぶつぶつと呟く海。小声過ぎて何言ってんのか全然聞こえない。

口の中でもごもご言われても聞こえないからきっちり発音してほしいな。


「まあいい。そんなことより聞いてくれ。あの熊よりヤバそうな怪物が居やがった。多分A+かSランクはあるぞ、あいつ」

「そんなの居たの?」

「それって、もしかして蟷螂じゃないかしら?」

「よく分かったな。遭ったのか?」

「ええ、まあ、ね」


銀髪女の子がピタリと言い当てて見せた。

あの時吹き飛んできたのは蟷螂から逃げてたから?

いや、そんな訳ないか。そしたら蟷螂はそのままこっちに来るはずだし、第一、海たちが遭遇した場所と距離が離れすぎている。熊の怪物の様に別個体である可能性は捨てきれないけど。


「で、だ。一葉が何とか動けるようになって、蟷螂の怪物をやり過ごしていたら時間がかかっちまったってわけなんだ」

「貴方、名前何ていうの?」

「ん? 俺か? 俺は八雲(やくも)(かい)だ」

「八雲。貴方、わざわざ案内してきただけよ、それ」


女の子が指摘したと同時に木々を切り倒して漆黒の蟷螂が、木々を薙ぎ倒して二頭の漆黒の熊が姿を現した。熊は先ほど見たばかりだが、蟷螂は初見だ。熊ほどの大きさではないが、3,4メートルはある躯体全てが鎧の様な鈍い甲殻に覆われている。体の半分は有る大きな鎌を振り回しながらゆっくりとこちらに歩を進めてくる。あいつ、蟷螂なのに斬り上げたぞ。関節の可動域どうなってんだ。


二頭の熊は低い咆哮を同時に二つ唸り上げる。同時に、影そのものが空間に飛び出てきたかと思うと、段々と形を成して赤い眼が怪しく光る。熊の周りの影から狼や虎、先に僕を囲んでいた怪物がにじり出てきた。

死んでも死んでも数が減らないと思ったらこういう事だったのか。

そりゃあ、熊の命令に従ってるわけだ。熊が作った怪物なのだから。


状況はおよそ最悪、これでは数を減らして逃げることは無理だ。

熊の能力で生み出された怪物なら、減るのかどうかさえ怪しいし、逃げるにも完全に包囲されている。

後ろは大海原。

じりじりと後ろに下がるものの、波打ち際まで来てしまった。

一瞬、海に逃げ込もうかとも考えたが、水棲系怪物がうようよいることを思い出した。何の為に空路でこの島に来たのかを忘れていた。まさか撃ち落とされるとは思っていなかったが。


「ううう……。八雲君……」

「……クソッ。ここまでか。C-ランクの依頼じゃなかったのかよ。なんでこんなことに」


憎々しげに呟く海。内宮さんは怯えきっている。

熊一頭でも海が勝てない相手。しかもそれが二頭でさらに怪物を生み出す能力持ち。

そして、その熊よりも凶悪な雰囲気を纏う蟷螂一匹。


冷や汗を流しながら諦め始めた海。うむ。普通ならもう無理だよね。普通なら。

仕方ない。僕もまだ死にたくは無い。


「ってことで、寝ててねー」


僕の言葉と同時に糸が切れた人形のように崩れ落ちる海と内宮さん。

海はともかく、内宮さんが砂まみれになるのは非常に申し訳ないので、受け止めてから海をカーペット代わりに下に敷く。これで良し。


「あら? 今のは貴方がやったの?」

「……!」


何で眠ってないんだ!?

僕の能力が効かないのか?

いや、そんなことあるわけないはず。

動揺を悟られないように、平常を装う。


「…………後ろに下がっててね」

「わかったわ」


……後で女の子の記憶を消そう。記憶を消すのはやったことないし、やりたくないんだけど、致し方ない。海や内宮さんと違って、記憶を消す時間が僕と会ってからに絞れるから、魔力もおそらく足りるだろう。

取り敢えずは目の前の障害の排除だ。


「――『理想世界(イデア)』」


人差し指を上から下にすぅっ、とただ動かす。

そよ風が、頬を撫でた瞬間。

目の前の怪物たちは全て死んでいた。

堅そうな鎧などお構いなしに、真正面から全て真っ二つだ。

断面から赤黒い血がとめどなく溢れ出し、砂浜が血の色に染まる。

呻き声も断末魔も聞こえなかった。聞こえたのは、風の音と、物体が砂に倒れ込む音だけ。


このままにしておくと、後で困るだろうから、僕の能力で消しておく。

指を振って目の前にあった死骸を一瞬にして消す。地面には、滴っていた血の一滴さえ残っていない。


後ろを見ると、女の子は翡翠色の瞳を真ん丸に見開いていた。

……やっぱり、怖がるよなぁ。

分かってた。分かっていたのだ。もう何回も見た表情だ。

解っていたけれどやはり慣れない。

この後、どんな表情に変わるかも、どんな言葉を投げつけられるかも判っている。

だから、顔を見ないようにして、淡々と作業の様に話を進める。

何も頭に入れないようにして。


「これから、君の記憶を消す。ここで起きた事は、君は何も覚えていない。そういう風になるんだ」

「ん……何故かしら」

「僕の能力を見ただろう? あの能力は、信用できる人にしか見せないし、信頼できる人にしか教えないんだ。君の事は何も知らないから、信用できないし、信頼も出来ない」

「私の事を知ってくれれば、信じてくれるの?」

「その頃には君は僕の事を知らないだろうけどね」

「ふぅん。一つ聞いていい?」

「何かな」

「私の名前は……現乃(うつつの)実咲(みさき)。覚えてね。貴方は?」

「僕? 僕の名前は、理崎想也(りざきそうや)だよ。きっと覚えてないから覚えなくていいよ」

「いいえ、覚えたわ。一生忘れない。貴方は私の理想だもの」

「じゃあね、現乃さん。次に会うときは、初めましてだ――『理想世界(イデア)』」


僕の指先からゆっくりと出現した光が、銀髪の女の子――現乃実咲の額に入り込み、彼女の体が淡く発光する。あの光が消えたとき、彼女は何も覚えていないだろう。全く、怖がっているのはどっちだか。

現乃さんの光を瞼で感じながら、僕は自分の体から力が抜けていくのを自覚する。

初めて記憶を消すってことをやってみたけど、上手くいったかな。


「流石に……力を使いすぎた…………」


瞼は重く重く、視界を黒に染めようとする。

波の音も、風の音も、全て厚いフィルターがかかったように遠く聞こえるようになっていき、体が重力に引っ張られて倒れ込もうとする。

腕はもう動かない。段々と近づく地面と体の間に腕を挟み込むことすらできない。

触覚も聴覚も、何もかもが消えていった。


「また会いましょう、理崎君」


だから、僕を抱き抱えるようなこの感触も、鼓膜を叩く、凛とした綺麗な女性の声もきっと気の所為だろう。



真っ暗になった世界で、僕は眠った。


読んで頂きありがとうございます。


一話分って何文字くらいが丁度良いのでしょうか。今回は3500字くらいで前話が6000字くらいでしたけど……。


主人公の能力が効かなかった理由はそのうち。

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