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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
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所謂、斡旋会社

 先生との初授業でメタメタにされた日から四日経った。

今日までに二回、体育の授業があったが負け越している。全て初日と同じように僕と海が後頭部を強打して終わっている。


 僕は今、一人ぼっちで制服を着込んで学校の校門前に居る。休みの土曜日になってやることが無くてぶらぶらしていたら校門まで来ていた……という訳ではない。

一人ぼっちなのは人を待っているからだ。


携帯端末を弄りながら、燦々と降り注ぐ人工陽を全身に浴びる。

午前の時間帯用に調整された少し涼しげな風を感じる。光が体を優しく温め、それを風が掠め取って行く。

今日もまあアタリの日だと言えよう。

休日である土曜といえど、学校の前は人通りも多い。

制服に身を包んだ若人が学校の門に次々と吸い込まれていくのを横目に、集合時間までの時間を潰す。

集合時間は十時半だが、二十分も早く来てしまった為に時間が余ってしまった。

人を待つ、という時間は有益な時間であって決して時間を浪費しているわけでは無いのだ。


十時二十分に差し掛かったあたりで制服姿の内宮さんが曲がり角から現れる。僕の姿を見るや否や、栗色の髪を揺らしながらぱたぱたと走って来た。


「ご、ごめんね。待った?」

「いやいや、今来たところだよ」


お、なんだかいい感じの待ち合わせじゃないか。

もうこの後の予定とかぶっちぎって二人で遊びに行きたいね。

後ろにいる海が居なければ。

意識的に視界から抹消していたが無視できなくなってきた。


「チッ、行こうか、海」

「舌打ちする必要ないだろ今の」



例えば、お金が足りなくなったとき。

皆はどうするだろうか。

お小遣いを貰うのもよし、借りるのもよし、自分で稼ぐのもよしだ。

しがない一学生にできるお金稼ぎと言えば、アルバイトだろうか。

働かざる者食うべからず、とは良く言ったもので何時の時代にも受け継がれ続ける名言と言えよう。

さて、アルバイトと言えば募集を見て面接を受けに行ったり、ツテを辿って働いたり、働き始める方法はいくらでもある。

そして、仕事を紹介する会社も勿論ある。

人材派遣会社と呼ばれる、登録した人間を必要なところに必要なだけ割り振る会社だ。


Earth・Recapture・Company。ERCと呼ばれる人材派遣会社がある。

紹介している仕事はコンビニのレジ打ちから化け物退治までと幅広く、雑用まがいのことから専門的な研究まで手広く扱っている。

ERCは現在の宇宙ステーション内、最大手の会社である。

それもそのはず、人材派遣と言うカテゴリーの中にERC以外の会社が存在しないからだ。

ステーション内シェア第一位を独占し続け、それゆえに旨味が無い事を分かっている為、他の企業の参入が無い。

独占禁止法はどこへ行ったやら。


ERCは保持者(ホルダー)の登録者数が非常に多く、また、保持者(ホルダー)が優遇されることも多いので『ホルダーズギルド』と揶揄されることもしばしばある。

保持能力(ホルダースキル)も無しでどうやって化け物と戦えって話だとは思うが、『持たざる人』から見れば、やっぱり耐えられないのだろう。

ERCへの登録条件は18歳以上であることだが、保持者(ホルダー)に限り中等生以上の満13歳から登録できる。


「――では、高等生になってからは初めての利用となりますので今一度、当社の運営方法のご説明をさせて頂きます」

「わかりました」

「まず、当社の契約内容についてですが――」


僕たちは、学校から15分程度歩いたところに佇む六十階建ての黒塗りのビル――ERCの居住区支部へと来ていた。

居住区庁、行政区庁、産業区庁、生産区庁にそれぞれ四つと宇宙ステーション中心にERC本社がある。

今回は一番近いからという理由で居住区支部に来た。

受付に行ったら、透明な板の向こうに居る男性職員が会社の説明を始めた。

中等生の頃に登録した時に一度聞いたんだけど決まり事らしいので止めては貰えないらしい。

諦めて聞き流すことにする。

隣の海も話半分でぼけっとしているが、内宮さんは真剣に聞いている。

人の話を聞くときって、姿勢で興味のある話かどうかが分かるよね。


「――また、三か月に一度の生存報告が義務となっております」


僕達のような保持者(ホルダー)が手っ取り早く稼ぐためにはERCで依頼を受けるのが一番良い。

上手くやれば自給900円で働くのが馬鹿らしくなるくらいの報酬が出る。

とは言っても、それ相応のリスクがあるのだけど。

命の危険と隣り合わせとかね。


「――よって、派遣先での事故、死亡等は全て自己責任となりますのでご了承ください」

「わかりました」


ERCで出される依頼で一番多いのは怪物たちが跋扈する地球の開拓関係だ。

そして、宇宙ステーションを潤す資源の多くは怪物たちの居た場所から奪い取った――奪い返した物がほとんどだ。

奪い返すといっても簡単ではない。

多大な犠牲を払った成果だ。

人類とて、無駄に死を重ねているわけではないが怪物たちは余りにも強力で凶悪な力を持っていた。

その昔、資源獲得の為に一軍を送り出した事があるという記述も残っている。

その軍はたった一匹の怪物に全滅させられたと、既存の兵器――銃、携帯式ミサイル――等が一切効かなかったとも。


その怪物に対抗できる能力が保持能力(ホルダースキル)であり、それを持って初めて対等に戦えるようになった。

一般人と保持者(ホルダー)を比較したとき、戦闘能力には十倍以上の差が出る。

これは魔法系(マジック)の基礎の基礎である『強化(ブースト)』だけを行使した場合だ。

攻撃能力を含めれば一騎当千、とまでは行かないでも一騎当百くらいの差となる。

『怪物退治』が依頼として存在する今、唯一対抗できる保持者(ホルダー)が優遇されるのは仕方のない事かも知れない。


「本日はカードをお持ちでしょうか?」

「あ、はい。持ってます」

「提出していただいても構いませんか?」


断る理由もないので、手のひらサイズの黒いカードを渡す。

海と内宮さんも職員に渡していた。


「はい。理崎想也様、八雲海様、内宮一葉様ですね。問題ありません、ようこそERCへ」


職員からカードを返してもらう。


このカードには氏名だけが記載されているが、ERCにある装置でスキャンすると、今までに完了した依頼が分かるらしい。

身分証明書とクレジットカードの代わりにもなるのでその為だけにERCに登録する人もそれなりに居る。

ちなみに、もう一つ素敵な機能が付いているのだがここでは見せることができない。その内見ることがあるだろう。


「御用の際はこちらの窓口までお越しください」

「ありがとうございます」


やっぱ話長いよな。一回で十分だよ。

受付窓口から離れて、壁一面に広がっている電光掲示板に煌々と映し出されている依頼を眺める。

このビルの一階部分だけは二階分をぶち抜いた高さがあるため、上の方の依頼書は見るだけでも首が痛くなる。


「どれ受けたい?」

「そうだな、あそこの依頼なんてどうだ?」

「ん、なになに……? ミッドガルド周辺の哨戒任務及び怪物の討伐?」


ミッドガルドとは地球の奪還拠点の名だ。

城の様な役所を中心に、まさに城下町といった感じで町が栄えており周りを高く厚く硬い金属の壁で囲われた城塞都市だ。

宇宙ステーションから地球に降り立つ場合、一度はこの都市を経由することになる。

 地球は常に雲で覆われていて、宇宙ステーションからはあらゆる観測機器を持ってしてもその先を見通すことが出来ない。これは、雲の中の魔力が反射板の様な役割を果たしているからだ、と考えられている。しかし、ミッドガルド周辺だけは何故か雲が大きく途切れているため地上の様子が判明し、人類の活動拠点を作るに至ったという訳だ。


「で、でもミッドガルドの周りはつい最近も討伐依頼でほとんど掃討されたはずだから、そこまで強い怪物は居ないと思うけど……そのせいで依頼ランクがDランクなんだと思うよ」


内宮さんが眼鏡をくいっと直しながら告げる。


そうなんだよね。

僕たちが依頼を受けるのはお金のためじゃなくて、戦闘経験を積むためだ。

チームワークを高めるためには、実践が一番だよね! と思ったので取り敢えず討伐系の依頼を受けたい。

かと言って強くない、自分たちより遥かに弱い敵と戦っても意味がない。

僕たちが倒そうとしているのはいまだ本気すら見せていない、遥かに強い化け物――瞬間移動する怪物(せんせい)なのだから、少なくとも僕らよりちょっと強いくらいの敵、三人で一緒に戦って勝てる位の怪物と戦いたい。




 依頼には難易度ごとにランク付けがされている。

下からF、E、D、C-、C+、B-、B+、AA、AAA、Sの順だ。

依頼ごとにポイントが割り振られており、達成するごとに加算されていく。

そして、その値が一定値を超えると、ランクアップする仕組みだ。

Fランクはコンビニバイトなど、街中の仕事だ。

保持者(ホルダー)ではない人の大半がFランク依頼を受注する。


Eがミッドガルドの防壁を越えた仕事になる。

とは言っても壁の外側から壁を綺麗に掃除する、とかその程度だ。

体力に自信がある人が良く受ける。


しかし、Dランクからは怪物との戦闘が主になってくる。

ここでのランク決定は依頼対象の怪物の強さ、希少性、生息環境、生息地域、依頼達成までの制限時間などで変わってくる。

上のランクに行けば行くほど難易度が上がる。

まあ、ここら辺は自分の持ってる保持能力(ホルダースキル)と相談しながら、と言う事になるわけだけど、保持者(ホルダー)では無い場合、Dランク以上は難易度が二段階レベルアップすると思った方が良い。DランクならC+といった感じだ。

ERCでは保持者(ホルダー)は自分の現在のランクの一つ上まで、受注することが出来るが、それ以外の登録者は自分と同じランクまでしか受けられない。

Dランク以上は保持者(ホルダー)の戦闘能力に合わせたランク付けとなっているため、一般人がしゃしゃり出たところで、墓地の墓石が一つ増えるだけだ。

助走なしで25mプールを飛び越えることが出来るような人類に合わせているのだから当たり前っちゃあ当たり前だ。


難易度に合わせてランク付けをして、安全に安全を重ねて、万全を期して、それでもなお、ERC登録者は毎日――今この瞬間にも死んでいる。

保持者(ホルダー)も一般人も簡単に死ぬ人間なのだ。

それは足を踏み外した落下死であったり、過酷な環境に耐えられなくなった衰弱死であったり、油断からくる大怪我であったり、死因など死んだの人の数と同じだけあるのだ。

それは一騎当百の人間も、一騎当千の化け物も、ただの一般人にも等しく降りかかるものだ。


「ん~。ちなみに、海と内宮さんは何ランク?」

「俺はB-だ」

「わ、私もC+だよ」


一般的な高専生――|能力技術高等専門学校《C    A    T》生の大体の平均がC-ランク位なのを考えると、内宮さんはちょっと高め位だ。

海が前衛系、内宮さんが後衛系な事を考えると、一人でもガンガン討伐依頼を受けられる海が上なのも頷ける。後衛系が一人で敵と戦うのってかなり力の差がないと無理だからね。


「お前は?」

「C+ランクだよ」


僕の場合は一人暮らしで、お金を稼ぐ必要があったから依頼を受けていたらいつの間にか上がってた感じだ。

その点、海のB-ランクは意識的にポイントの高い――難易度の高い――依頼を多くこなさないとなかなかたどり着けるものではない。


「じゃあ、今回はC+位でいいだろ」


そういいながら電光掲示板の一角を指差す海。

少し遠いので身体強化して視力を上げる。


「……新しく発見された島の調査かぁ。遠距離からの視認されただけでもB-レベルが二体らしいけど……ああ、合同依頼だからC-なのか」


新規に発見された島や新しい区画を調査、奪還する依頼は大体、合同依頼と呼ばれる四十人前後で一つの依頼を共同で行う。依頼受注人数で報酬を割るの一人あたりの報酬は少しだけ下がってしまうが、その代りに依頼ランクは下がる、といった感じだ。

人数が多ければ多いほど危険に対処しやすくなるので一長一短だ。


「みたいだな。地球に降りるのは一時間後みたいだが大丈夫か?」

「「大丈夫」」

「なら、三十分後にここに集合だ」


そういって、海は依頼を受注しに受付へと向かっていった。

島の調査と言う事は海路だろうか、空路だろうか、今回は何人受注するのだろうか、なんて考えながら出発までの時間を潰した。


読んで頂きありがとうございます



次こそ、ヒロイン登場


あと、主人公の保持能力初披露(できるかどうかわからない


タグの「チート」の名に恥じないような能力にしたつもりがあまりにチートすぎたので使用リスクを引き上げる作業に取りかかってます

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