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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第一章
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プロローグ

物書きは人生初です。

ご意見、アドバイス等有りましたらよろしくお願いします。

私は走っていた。

 





私は今どこにいる?

蒸し暑い森の中。

大木が倒れ他の木に寄りかかり、まるであやとりのように絡み、畝っている。

上を見上げれば、重なり合う梢の間から、白と青が入り混じる空が覗ける。

少し時間が経ったら雨が降るんじゃないだろうか。



私の後ろから木の倒れる音がする。

おっと。立ち止まってる場合じゃない。

逃げなきゃ。遠くへ。遠くへ。遠くへ!

横たわった木を飛び越え、水溜りを踏み、毒虫を避け、息が続く限り、足が動かなくなるまで走る。

剥き出しの足に葉や枝が当たって擦過傷になっているが、そんなことを気にしていられない。

右足で地面を踏みしめ、前に進む。

左腕で体を絞り、更に前へ。

手を変え足を変え交互に動かす。

思考を止め、腕と足を動かし続ける。





私は今何から逃げている?


虫から。蛇から。肉食獣から。

違う。そんな生易しい物じゃない。



ならば何から逃げている?


私は、異形から逃げている。

怪物から逃げている。

圧倒的強者。逃げることしか出来ない。



立ち向かおうとは思わなかったのか?

立ち向かった。

でも敵わなかった。

自作した木製の弓矢は傷をつける事すら出来なかった。

大きな鉄片を付けた槍は投げても当たる前に避けられてしまった。

まあ、例え当たったとしても弓矢と同じく弾かれていただろうけど。


こうして私はただ走る。戦いにすらならずに敗走する。

怖い。恐い。



バキバキバキッ!



 背後から木が他の木々を巻き込みながら倒れる音がする。

あの音の出処には怪物がいるはずだ。

追い着かれたら倒された木と同じように、私など簡単に切り倒されるだろう。

まだ死にたくない。




――何故こんな事になったんだろう。もっと良く考えてから行動するべきだった。





――事の発端は4時間前。


今朝、大きな音がした。

地震の様な地鳴りと共に鳥の鳴き声が聞こえてきた。

木の蔓で作ったハンモックで眠っていた私は、顔から地面に突き刺さって目が覚めた。


「あいたたたた。最悪」


落ちてしまった体を起こしながら、先程の轟音について思案する。

まずは音の原因を探らなければいけない。

原因を突き止めておかないことには、自身の身の安全が確保できないからだ。

ただの地震ならそれでいいし、そうでなくとも私の危険に結びつくようなものじゃないなら問題ない。



 背中に矢を背負い、弓を左手に、槍を右手に持ち拠点を出た。

拠点とは言っても木を組み合わせて屋根を作っただけのものだ。

重いまぶたを擦って持ち上げながら、音が聞こえてきた森の中へ進んで行った。

時間にして一時間が過ぎた頃だろうか。

運の良い事に一度も獣と出くわすことはなかった。

休憩の為に立ち止まり、ふと木々の隙間から上を見上げてみるといつも見えていたはずの巨木がなくなっていた。


(あれ……?凄いおっきい木があったはずなんだけど……)


昔、修学旅行で見た屋久島のそれよりも大きく高い木なのだ。見失うとは思えなかった。

ここで私は今朝の音が、巨木が何らかの原因によって倒れたのだと言う事に思い至った。

こうなると何故倒れたのかを突き止めないといけない。


(やっぱり、地震だったのかな)


休憩した後、巨木が有ったであろう位置に歩を進めた。

これまた一時間くらい歩いた時だろうか。ヤツに出会った。遭ってしまった。




巨木の真下というのは高い木が生えていない。

日の光を遮ってしまうため根本にまで光が届かず自生することが出来ないのだ。

サイズがサイズなだけに巨木の周り40mには木と呼べるものが芽吹いてすらいないが。

光が届いているはずの所も生えていないからそれ以外の要因が有るのかもしれない。

そして今、光の届いていないはずの巨木の真下は太陽の光に照らされていた。


なぜなら。

その巨木は切り倒されていたからだ。

巨木は根本から一メートル位の所から切り裂かれており、巨木の上部は私の来た方向とは逆方向に横たわっている。



土俵のような巨大な切り株の隣。

目を凝らすと、ソコに陽に照らされ、光を鈍く反射させている生き物が居た。

その姿は正に怪物。

遠目から一目見ただけで『木を切り倒したのはこいつ以外には考えられない』と確信できる。

怪物の姿形はただの昆虫。

蟷螂だ。しかし、ただの蟷螂ではなかった。

まず色が黒い。

ツヤのない漆黒の体表がまるで鎧の様に見える。

そして大きい。普通の蟷螂は精々10cmぐらいだろう。

だというのに目の前のこいつは軽く2mは超えている。


私は影に写したような輪郭の大きさに目を奪われ、足を止めてしまっていた。


その時だった。

怪物が、気に隠れて覗き見ていた私を見返し、何千個とある複眼の一つ一つがぎょろりと、此方を睨みつけた。


怪物との距離は目測で20mくらいはあったが、なにせ初めて見る怪物だ。安心はできない。

怪物の視線は重圧に変わり、緊張が体を縛っていく。

武器を持つ手のひらを汗が覆っていく。


「あぅ……」


息が漏れる。後ずさりしてしまう。手はガタガタと震え、歯の奥でカチカチと音がなる。

怪物が両手に持った鎌を振り上げ、体が一回りも二回りも大きく見える。

今思えば、ただの威嚇だったのだろう。


「きゃああああああああ!!」


私は左手に持っていた弓に、槍を持ったまま人差し指と中指を使って矢をつがえて、射った。

ヒュオン!という弓から矢が飛び出て行く音がした後、まっすぐ飛んだ矢は怪物の胴体に吸い込まれていき

チィンッ!!という缶を爪先で弾いたような軽い音がして、矢は弾かれてしまった。


「……え?」


矢を放ったのは反射的だったとは言え、弾かれるとは思っていなかった。



「キシィィィイィィィィ!!!」


ポトッと、草の上に矢が落ちたと同時に怪物が走ってくる。

矢を射ることで敵意を示してしまった為に、排除の対象になってしまったようだ。


「うひゃああああああああ!ごめんなさいごめんなさい!」


私は怪物相手に謝りながら、来た道を全力で走って戻った。





攻撃したことに後悔しながら逃げてくると、いつの間にか拠点にまで帰ってきてしまっていた。

森に逃げ込んだのは正解だったようで、怪物の走ってくる速度は驚異的だったが、木が上手く怪物の邪魔になっていて私の走る速度のほうが早かった。

そこまで考えて逃げていた訳ではないが。

お腹の中にぽっかりと空間が出来たような焦りが、体を動かしていただけだ。

走っている最中に邪魔になった槍は取り敢えず投げつけてみたが、ものの見事に避けられてしまった。

足止めぐらいにはなるだろうと思っていたが、まさか避けられるとは思っていなかった。

投げつけずにそのまま捨てた方が良かった。

とは言え、姿が見えなくなってから20分ほど走って、音も聞こえなくなったので撒けただろう。

こんなことになるとは予想外だったが、夜になる前にあの規格外の昆虫を発見できたのは幸運だったと言えるだろう。月明かりだけで、あの黒い蟷螂を発見できるかどうかは怪しいところだ。


「あぁ~死ぬかと思ったぁ~~」


拠点に帰って来たという安心感から、張り詰めていた緊張が解け、その場に身を投げ出す。

楽になった足から、疲れが抜けて行くような感じがする。

寝転びながら空を見上げると青と白の混じった空は暗い灰色に変わっていた。


一直線に走ってきたわけではなく、隠れたり蛇行して動いていたため帰る時は2時間近くかかってしまった。

時間的には昼ごろだろうか。

お腹の減り具合からそう判断する。太陽の位置で時間を推測しようと思ったが、太陽は雲に遮られて位置がよく分からない。


「ご飯……お腹へった……」


流石にあんなヤツに追いかけられた後に獲物を取りに森の中には入りたくない。

獣と一度も出くわさなかったのは運が良いのだと思っていたが、もしかしたらあの化け物に気付いたからなのかも知れない。

となると、獣を狩りに行くのは無理か。

獣を探しに出て、怪物に出くわさないとも限らない。

確か、昔作った代えの槍があったはずだ。

銛の代わりにでもして魚を取ろう。

空腹も限界だ。

それに雲も多く、厚くなって来ている。


「早くしないと雨が振――」


独り言を最後まで言い切ることは出来なかった。

槍を取ろうと重い体を持ち上げた所で思いっきり吹き飛ばされる。

5mほど吹き飛ばされて地面を転がされる。

砂が皮膚を削る。

木に当たったことで止まることは出来た。

吹き飛ばされた衝撃と、木にぶち当たった痛みが全身に染み込んでいく。


「うぐぅッ……ゴホッゴホッ……な、何が――」


肺が空気を欲しがっている。何が起きたのか解らないまま前を向く。

右目が見えない。多分転がされている最中に額を切って、血が入ったんだろう。


「あ、ああ……嫌……」


左目で見えた、霞む視界に写ったのは、

撒いたと思っていた蟷螂だった。




「ヴ、あ、あ、あ」

立ち上がり、逃げようとする。

木に手をついて体を支える。

逃げようとするが、腰が抜けているのか、ダメージで動けないのか、足は震えるばかりで、動かない。

蟷螂が少しずつ近づいてくる。

一歩。二歩。三歩。

怪物が一歩近づく度、心は絶望に染まり、体は恐怖に縛られる。

怪物が声にならない音を発する度、息が止まり、思考が切れる。

怪物が振り上げた鎌は、死神の鎌に見えた。


「ひぐっ……えぐっ……」


私は泣くことしか出来ない。

風を切り、体を突き刺し、命を刈り取る。

黒い怪物の鎌が振り下ろされようとしている。


「死にたくない……死にたくないよぉ……」


怪物が私の願いを聞き入れることなど無く。

黒い死神(カマキリ)の鎌が私を刈り取る。

上半身と下半身が別れ、上半身は刈り取られた勢いで飛んでいく。

熱い。熱い。痛みはもう無い。世界が黒くなってゆく。

暗くなっていく視界に写り込んだのは、死を押し付けた黒い死神(カマキリ)と、灰色の空から降ってくる雨だけだった。


読んで頂き有り難うございます。



メインヒロイン死にましたが、あんまり暗い話にはならないようにします。

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