少女と僕
彼女は驚いた表情で
「あの…夜分遅くに…えっと…始めまして。」
古風な、いや、昔からの馴染みのデザインのセーラー服。
それを着た彼女と僕は、数秒間睨み合うような、見つめ合うような形になった。
とはいえ、一目惚れよろしく、何時までも見つめ合う訳にもいかず、「えっと…初めまして」と半ば驚きを隠しきれずに挨拶を交わし、
「えっと…君は?」
取り敢えず名前を聞く。まずはそれからだ。
「えっと…あ…なんで? 貴方は…どうやって…?」
僕の質問は狼狽した彼女によってあっさりとかき消された。
質問が曖昧であまり意図はつかめないが、多分、「どうやって此処に来たのか」と聞きたいのだろう。とはいえ、此方も一切の事が分かっていない。
「僕は解らないよ、君は?」
現状が一切分かっていない所で、人に会えたという事自体ラッキーなのかもしれないが、何より、まず落ち着いてもらわないと話も聞けない。
「えっと…あ…私も、解らないんです。」
その後彼女が話した経緯は、理科室でうたたねしちゃって、起きたら此処にいた。と、そんな内容だった。「でも」と彼女は繋げ
「此処、沢山本あるじゃないですか? 私、本読むの好きだから…4年間程、此処で本読んでるんですよ」
と、微笑みながら言った。
四年前、彼女がここに来たのは四年前の事らしい。
「あ…それでさっき、本読んでたんだ。」
彼女は「はい」と微笑んで答えたが、やはり気に係る事がある。
「ん…でもなんでさっきは声に出して読んでたの?」
どうせ誰に聴かせる訳でも無いのだから、音読する必要はないだろう、と思う。
彼女は戸惑った様な表情をしてから
「えっと…声に出して読むと、登場人物と会話してる様に思えるんです。」
と、曖昧な笑みを浮かべて言った。
やはり、一人というのは寂しいのだろうか?そんな思いに駆られる。
「あ…あの、えっと…不思議の国のアリスなら練習したので…」
? なんの練習だろうか。 彼女は手にもっていた本を、つい、と少し上に上げ、微笑んで言った。
「なんどか読んだので大丈夫だと思います。折角なので朗読、聞いてくれませんか?」