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大切な人は貴方だけ

作者: 凛々

 僕は星沢知弘ほしざわともひろ。僕が今、何処にいるかと言うとカラオケ屋。ただ、カラオケしに来たんじゃない。僕の目の前に横に座っているのは女の子3人。女の子達は高校生。学年は2年生。お互い自己紹介をしたから。僕の他に2人の男子がいる。1人目は夏宮咲満なつみやさくま。彼は少しクールなんだ。2人目は相原真那斗あいはらまなと。真那斗は咲満の友達。僕達も高校生で学年は2年生。男子3人と女子3人って事は、つまり合コンなのだ。僕と咲満は真那斗に無理矢理連れて来られたんだ。僕と咲満は何度も、嫌だって言ったんだけど、いいじゃんかって真那斗が言うんだよなぁ。

「知弘、歌えよ」

「断る。真那斗が歌えばいいじゃんか」

「いいじゃねぇか。俺は歌うの下手なんだからさ」

 嘘つくな。本当は歌うの上手いくせに。冗談じゃないぜ。僕の本当の姿を知ってるくせに。僕が歌うとバレるんだぜ? 今の声は本当の声じゃないんだから。それでもいいってのか? 僕は絶対に嫌だからな。

「僕、もう帰る」

 僕が席を立った瞬間、誰かに手をつかまれた。僕は後ろを振り向いた。

「待てよ、知弘」

「さ、咲満!」

「せっかく来たんだしさ、盛り上がろうぜ?」

「あ、ああ」

 このクールさが好きなんだよなぁ。

 咲満は僕の彼氏なんだ。これば別にホモではない。僕の本当の姿は女なんだ。どうして女の僕・・・・・・じゃなくて、私が男装をしているのかと言うと真那斗のせいなんだよね。合コンに行く時だけ、私は男装をしているんだよね。私の本当の名前は美矩みくなの。名字はそのまま「星沢」なんだけどね。正真正銘、咲満の彼女ってわけ。この私の髪はカツラなの。私の髪はサラサラのロングヘアーだから、カツラかぶらないと女だってバレるからなの。服は咲満から借りました。私には大学1年のお兄ちゃんがいるんだけど、お兄ちゃんの服を着るとブカブカでサイズが合わないから咲満から借りたなの。咲満の服を着たらサイズが合ったから。男装して真那斗に見せたら、こう言われた。「お前って男装したら、女ってバレないよ! ちゃんと男に見える!」って。誰のせいだと思っているのよ! 

 私の今の声は、男の声で話しているから今のところは私・・・・・・じゃなくて、僕の事は女だってバレていない。だから安心なんだけどな。合コンに行くなら、他の男子を誘えっての。

「知弘君、どうしたの? 具合でも悪いの?」

 と、僕に尋ねてきたのは僕の目の前に座っている女の子だった。名前は何て言うんだっけ? えっと・・・・・・日野留亜ひのるあちゃんだ。

「大丈夫だよ」

 僕は彼女に笑顔で答えた。

「キャー! 知弘君の笑顔、可愛いー!」

 え? 僕の笑顔が可愛い?

「本当だ!」

「可愛いー! 女の子みたい!」

 他の女の子2人も、僕の方を見てそう言った。そんなに可愛いのか? 僕の笑顔が。

「知弘君の好きな女の子のタイプは?」

 留亜ちゃんは僕の隣に座って、僕に質問してきた。周りと見ると・・・・・・いつの間にか、咲満と真那斗も女の子の隣に座っていた。咲満の隣に座っている女の子は、留亜ちゃんのクラスメイトで明るい女の子なんだってさ。で、真那斗の隣に座っている女の子は、留亜ちゃんの小学校時代からの同級生だって。

 あ、さっきの質問に答えないと。

「優しくて明るい子が好き」

「じゃあ、誕生日は?」

「12月24日」

「その日はクリスマスイヴだね」

「うん」

「血液型は?」

 次々と質問されて、僕はその質問に全て答えていく。そんなに僕の事を知りたいのかな?


「見ろよ、あの2人を。仲がいいぜ」

「・・・・・・」

 お前があいつを男装させたからだろうが。あいつは女なのに、合コンに行くために無理矢理男装させたり、名前まで変えたり・・・・・・あいつは俺の彼女なんだぞ! 俺まで合コンに行くはめになっちまうし。

「まあ、お前も他の女と仲良くしなよ。あいつには内緒でさ。気に入った女とデートしちゃえよ」

「は!? そんな事出来るわけねぇだろ!」

「そんなに怒るなよ」

 真那斗の奴!

「怒るに決まってるだろうが! 俺はあいつの彼氏なんだぞ!」

「おいっ! 咲満!」

「あっ!」

 ヤバイ! つい大声を出してしまった。女の子達は俺の方を見ている。もちろん、知弘も俺の方を見ている。驚いた顔で。

「夏宮君って彼女いるの・・・・・・?」

「いるならショック・・・・・・」

「いや・・・・・・その・・・・・・」

 俺は知弘の方を見た。どうすればいいんだよ、俺・・・・・・。

「知弘・・・・・・」

 と、俺は呟いた。


「咲満・・・・・・」

 僕は小声で呟いた。

「夏宮君には彼女がいるんだね。知弘君は?」

「え、僕?」


 知弘・・・・・・どう答える。本当の事を言うのか?


「知弘君は好きな人いるの?」

「それは・・・・・・」

「いたら、留亜ショック・・・・・・留亜は知弘君の事が好きなのに・・・・・・」

「留亜ちゃん・・・・・・ごめんね。留亜ちゃんの気持ちは嬉しい。だけど、付き合う事は出来ないんだ。ごめんね・・・・・・」

「じゃあ、やっぱり・・・・・・」

「いないよ。僕達今日、知り合ったばかりだしさ」

「それなら、これからお互いの事を知ればいいじゃない。ねぇ、いいでしょ?」

「それは・・・・・・」

 留亜ちゃんは積極的だな。どうすりゃいいんだよー。やっぱり本当の事を言えば良かったのかもしれない。僕にも好きな人がいるって。でも、女の子を悲しめたくない。

 僕が迷っていたら、咲満と真那斗が僕のところに来て小声で言ってきた。

「まーいいじゃん?」

「でもさ・・・・・・」

「真那斗!!」

「2人の関係をバラしてもいいのか?」

 うっ。これは脅しか? それより、ここから早く出たい。

「帰る。この後、用事があるから。行こうぜ、知弘」

「あ、ああ」

 どうしたんだ? 咲満。

「えー、2人共帰っちゃうのー?」

「また、会おうね」

「じゃあね、知弘君」

 と、女子達に言われたので僕と咲満は、

「またな」

「じゃあな」

 笑顔で言って真那斗達と別れた。

 真那斗は帰らないのかなぁ、と思った。


 僕達はカラオケ屋から出た。街の中を2人で歩いた。

「知弘・・・・・・」

「どうした?」

「一旦家に帰ろうぜ。デートするのに、お前がその格好だと無理があるだろ? 手なんか繋げないしさ」

「分かった」

 僕達は僕の家に向かって歩いた。僕が男装した姿で街の中で手を繋いだまま歩いているとヤバイからだ。女の子の姿に戻れば、普通に恋人同士って思われるからだ。


 やっとで僕の家に着いた。玄関のドアを開けた。

「ただいま」

「お邪魔します」

 僕の後に咲満が挨拶をした。玄関のドアを咲満が閉めてくれた。靴を脱ぎ、僕の部屋がある2階に続く階段を上ろうとした時、台所からお母さんが出てきた。

美矩・・、お帰りなさい。あら咲満君、いらっしゃい」

 咲満はペコリと頭を軽く下げた。そして、階段を上って僕の部屋に入った。僕は正座で、咲満はあぐらをかいて座った。

「はぁー・・・・・・」

 思わず溜め息が出てしまった。

「疲れているのか?」

「そんなんじゃねぇよ」        

「もう、男言葉を使わなくていいんだぞ、美矩」

「あ、そうだった」

 僕・・・・・・いや、私はかぶっていたカツラを取った。カツラを取ってバサっと出てきたのは、私の自慢の髪、ロングヘアー。

「・・・・・・」

「どうした?」

「着替えたいから、部屋の外で待っててくれる?」

「あ、そうだな。分かった」

 咲満はスッと立ち上がり、部屋のドアを開けて部屋から出て、ドアを閉めた。

 私はタンスから服を取り出し、男服から女服へと着替えた。今日の服装は、オレンジ色の長袖でスカートは赤とピンク色の線が入ったチェックの模様。髪型は二つ結び、首にはハート型のネックレスをつけて、香水は少しだけ手首とかにつける。そしてバックの中に、財布と携帯電話を入れて部屋から出た。もちろん、唇にはピンク色のリップグロスをつけました。爪には同じく、ピンク色のマニキュアをつけました。ピンク色は女の子らしい色だし、私はピンク色が好きだからです。他にも、元気に見えるオレンジ色のリップグロス等もあります。

「おまたせ」

「か、可愛いな。女の子らしいよ」

「そうかなぁ?」

「そうだよ。俺の自慢の彼女だよ」

「ありがとう! 嬉しい! 早く行こう」

「ああ」

 階段を下り、玄関に行って靴を履き、玄関のドアを開けて、

「お母さん、行ってきます」

「お邪魔しました」

 私の言葉に続いて咲満も言った。台所からお母さんが出てきて、玄関に立っている私達の前まで来た。

「美矩、いってらっしゃい。咲満君、また来てね」

「あ、はい」

 咲満は笑顔で答えた。この笑顔は爽やかなのである。咲満の笑顔を見るとドキドキしてしまう。この笑顔を見た女子達は、イチコロで惚れてしまうのだ。

 私達は玄関を出て、2人で手を繋いで道路を歩いた。

「もう、合コンに行かない方がいいな」

 と、咲満はいきなりそんな話をし始めた。

「そうだね」

 私は頷いた。その話はどうでもいいんですけど。

「あの時、お前はあんな事を言ったよな?」

 あんな事って?

「留亜ちゃんが、『知弘君は好きな人いるの?』って質問されて断ったように見えたんだけど、お前は『いないよ。僕達は今日、知り合ったばかりだしさ』って」

 あ、確かにそう言った。

「どうして本当の事を言わなかったんだ? 本当の事を言えば、あんな事にならなかったんだぞ!」

 どうして怒るの? そりゃあ、私が悪かったよ。本当の事を言わなかったから。でも、泣かれたら困るし。

「ごめんね」

 私は咲満に謝った。ん? 待てよ。咲満ってもしかして・・・・・・

「・・・・・・いいよ。美矩は優しいからな」

 嫉妬してるのかなぁ?

「そう言えば、真那斗と2人で何を話していたの?」

 今度は私から質問した。

「え・・・・・・知りたいのか?」

「うん」

 だって気になるんだよね。咲満と真那斗の2人で何を話していたのかを。

「・・・・・・言いたくねぇよ」

「どうして?」

「言いたくないったら、言いたくないんだよ」

「咲満が教えてくれないのなら、真那斗から教えてもらうから」

「なっ! やめとけよ! せっかくのデートなんだからそんな話は無し!」

「咲満から言ってきたんじゃん!」

 もう、最悪・・・・・・。

「あ・・・・・・ごめん。俺が悪かった。許してくれるか?」

「・・・・・・うん、許してあげる」

「サンキュー! 愛してるぜ、美矩!」

「キャッ!」

 いきなり咲満に抱きつかれた。恥ずかしいよー・・・・・・。

「あれ? 美矩の顔、赤いぜ? 熱でもあるのか?」

 と、咲満は私の顔を覗いて言った。恥ずかしいから、とは言えなくて、

「な、なんでもない」

 と、言ってしまった。

「そうか? 俺は美矩の事が心配だからな。行きたいところはあるか?」

「うーん・・・・・・買い物したい」

「よし、行くか」

「うん」

 良かった。あ、そう言えばもうすぐ咲満の誕生日だ。何をプレゼントしようかなぁ。


            *


 俺と美矩は幼い頃からずっと一緒だった。学校に行く時も一緒に登校していた。俺達が付き合っているって噂になった事があった。俺はあいつの事が好きだった。けど、俺と美矩は異性にモテていた。何度も女子に告られた。俺には好きな人がいるから、その告白を断った。美矩も男子に告られていた。美矩にもちゃんと好きな人がいて、その人に告白されてOKした。あの時は凄くショックを受けた。自分が告白をしなかったからだ。何度も美矩の事を諦めようとした。しかし、諦められなかった。美矩の事が凄く好きで、大切にしたいって思っていたから。美矩は俺の事、友達としか見ていないって思っていた。美矩と美矩の彼氏が付き合い始めて1年6ヶ月。学校の放課後、美矩は泣きながら俺のところに来た。どうした?って聞いたら、彼氏が浮気したって言った。その時、俺達は中学2年で季節が夏。俺は許せなかった。美矩を悲しませた男を。俺は頭にきて、美矩の彼氏が所属している部活、サッカー部のところに行きそいつを思いっきり殴った。俺は奴にこう言った。

「美矩を悲しませる奴は俺が許さない! 彼女いるのに浮気するかよ! 最低だなお前。人間として最低だ」

 と。

 相手は驚いた顔をしていた。

「咲満・・・・・・」

 後ろから声がして、ふと後ろを振り返った。そこに立っていたのは美矩だった。

「どうして・・・・・・ここにいるんだ?」

 もしかして、俺の後をつけて来たのか?

「それは・・・・・・」

 と、言って美矩は下を向いた。

 美矩の彼氏は、美矩のところに行って、

「ごめん・・・・・・美矩」

 と、謝った。

「俺の好きな人は、美矩だけなんだ」

「・・・・・・」

「あの女は好きじゃないんだよ」

「・・・・・・」

 美矩は下を向いたまま、何も言わない。

「何か言ってくれよ・・・・・・」

 と、彼氏が言った。

「・・・・・・嘘つき」

 やっとでその一言を美矩が言った。

「私は本気で貴方の事が好きだった。翔君から告白してきて嬉しかった。けれども・・・・・・私は見ちゃったの・・・・・・帰りの会が終わって、私が渡り廊下を渡ろうとした時、渡り廊下の端っこで人の声がしたの。誰だろう? と思って覗いてみたら、そこには翔君と他のクラスの女の子の姿があったの。別に盗み聞きをするつもりじゃなかった」

「・・・・・・」

 美矩の彼氏の翔は黙って、彼女の話を聞いていた。俺も、美矩の話を黙って聞いていた。

「・・・・・・翔君、あの時、その女の子に告白されたでしょ?」

「見られていたのか・・・・・・」

 と、翔は呟いた。

「そして、女の子の告白をOKしたよね? 私が貴方の彼女なのにそれを無視して・・・・・・告白をOKしてキスをしたんだよね? 私とキスしたその唇で・・・・・・」

「・・・・・・ああ」

 最低な奴!! コイツ、どこまで最低なんだよ! もう一発、殴ってやりてぇ!

「私は浮気をする男の子って嫌いなの・・・・・・だから別れよ? 翔君はその女の子と付き合って・・・・・・私は別な人を探すから・・・・・・」

「・・・・・・分かった。別れよう。こんな俺より、コイツと付き合った方が幸せだろうな」

 そう言って、翔は俺の方に人差し指をさした。人に指をさすか?

「え!?」

 美矩は驚いた顔で俺の方を見た。

「コイツは幼い頃から、美矩の事が好きだったからな」

 何で知っているんだよ!? 俺は誰にも言っていなっ! あ、アイツに言ったんだった。俺の友達の真那斗に・・・・・・。

「本当なの・・・・・・? 咲満・・・・・・」

「・・・・・・ああ。俺は美矩の事が好きだ!」

 こんな事を言っても良かったのだろうか? しかも、告白した場所が学校の校庭で。しかも、サッカー部部員達がいる場所で。俺の声は響いたと思う。最後の「俺は美矩の事が好きだ!」って大声で言ってしまったから。

「美矩、答えてやれよ。今、お前は夏宮の事が好きなくせに」

 翔は人の気持ちを考えないでそう言った。

「・・・・・・翔君には関係ないもん! 人の気持ちを知らないで平気な顔でそう言うから! 私は、咲満の事が好きだから」

 これは、夢か? いや、夢ではない。現実だ。俺の気持ち、美矩に伝わったんだ。俺は美矩を守れる自信がある。泣かせたりはしない。

「嬉しいよ、美矩。もう、帰ろうか。家まで送ってくよ」

「ありがとう」

 美矩の表情は、さっきよりも明るくなっていた。良かった。元気が出たみたいだな。

 俺達が付き合う前の話。今じゃ、恋人同士だけどな。美矩と真那斗はこの頃を覚えてはいないと思うけど。

「咲満、あの頃の事覚えてる?」

「あの頃って?」

 何を言い出すんだよ。

「忘れちゃったの? 私と咲満が付き合い始めた日だよ」

 それかい。

「覚えてるさ」

 忘れるわけないだろうが。

「あの時の咲満はかっこ良かったなぁ」

 美矩は覚えていたのか。あの時の事。

「あの時、咲満がいてくれて良かった。咲満が私の元カレを殴ってくれたんだもん。咲満が彼を殴ってくれたおかげで、私はスッキリしたの」

「そっか」

 俺は美矩がてっきり、怒るんじゃないか、と思っていたんだけどな。

「最初から咲満の事を好きになれば、あんな事にはならなかったのにね・・・・・・」

「そうだな・・・・・・」

 なんか深刻になってきた。

「こんな話はやめよう。せっかくのデートなんだしさ。な?」

「そうだね」

 美矩は笑顔で頷いた。美矩には笑顔が一番似合う。辛い過去から乗り切ったのだから。

「俺は、美矩の事が大好きだ」

「うん」

「だから、幸せにしたい」

「うん」

「過去の事なんか忘れてやるよ、俺が」

「ありがとう」

「ああ」

 もしかして俺、今、いい事言った? 満面の笑顔で「ありがとう」って美矩が言ってくれた。最高に幸せだよ。

「公園によってもいいか?」

「うん、いいよ」

 公園によってどうすんだよ、俺。まあ、いっか。2人っきりになる時間が多くなるから。

 俺達は近くの公園によった。辺りを見回したらちょうど、2人くらい座れる椅子があったのでその椅子に行って2人並んで座った。俺の右側に美矩が座った。俺達は恋人同士だから椅子に座っても手を繋いだ。手を繋いでいないと恋人同士とは思わないんだよね。俺は美矩の方を見て、

「美矩……愛してる」

 と、言った。

「うん。私も咲満の事、愛してるよ」

 美矩も言った。そして俺達は……キスをした。公園にいるのは俺達2人だけ。だって、今の時間帯は夕方の5時。親子ずれや友達を連れて公園に遊びに来る子供達は皆、家に帰る時間なのだ。俺達高校生は夜9時までに家に帰らなくちゃいけないから、それまでは遊んだり、バイトしたりしていい。だが、各家庭で門限が決まっているところがあったりする。例えば、母親に「6時までに家に帰って来なさい」って言われたらその通りに決まった時間帯に帰らなくてはならない。門限が決まっていないところは、9時前までに家に帰れば親は文句は言わない。しかし、バイトをやっている人は仕方がないけどな。しかし、時間を守らないで夜遅くまで遊んで帰ってくる人もいる。その人達はバイトもしていないのに、「9時までに家に帰る事」を守っていないのだ。高校生が遅くまで遊んで、家に帰ってくるなんて非常識だ。守らない人は、「学校を退学」って事になってしまう。そうならないために、学校では全校生徒を体育館に呼んで呼びかけたり、夜は先生達でそれぞれ曜日ごとに見回りをするのかを決めているらしい。こんな事があれば当たり前そうしなければならないのだから。

 キスをしてから大体6分くらい経っただろうか。俺は、美矩の唇から自分の唇を離した。そして彼女を抱き締めた。

「君を離さない。どんな時があろうと、美矩から離れないからな」

「うん」

 美矩は頷いた。決してこの愛は離れないだろう。お互いが「好き」と言う思いがある限り。ずっとこうしていたい。買い物に行かなくてもいい。彼女と一緒にいれば俺は幸せなのだ。

「咲満、買い物に行くの辞めようか。私、ずっとこのままでいたいから……」

「ああ。俺もそう思っていたところだ」

 美矩もそう思っていたんだな。俺と同じ思い……嬉しいよ。これこそ彼氏彼女、そして恋人。

「私……もう、合コンには行きたくない……だって、合コンでの姿は『知弘』だもん……ずっとこの姿のままでいたい。留亜ちゃんには悪いけど……」

 そうだよな。「知弘」の姿のままだといつかは「女」だってバレてしまうからな。こうなる前になんとしても真那斗に言わなければならない。これ以上、美矩を男装させて合コンに連れて行くのは無理だ、と。

「俺だってそうしたい。美矩と一緒にこうやってデートしたい。合コンがあると、今日みたいに合コンを途中から帰って来て、美矩の家に行き美矩は元通りの姿に戻らなくてはならないのだから。そして、その後は今みたいにデートをしなくてはならない。俺もこういう状況は嫌だからな。俺達は恋人なのに、わざわざ真那斗の言いなりにはなりたくねぇし」

「うん、そうだよね。こんな事をして真那斗は平気なのかなぁ? 私達は嫌でも仕方がなく真那斗に言われて合コンに行っているだけ。本当は、こんな事をしてはいけないのに……」

 これ以上、俺達の邪魔をするのは許さない。たとえ真那斗に「合コンに行こう」と言われても、俺達は断る。その時、携帯が鳴った。どっちの携帯かと言うと……俺にだった。運が悪い。美矩から離れて電話に出た。誰だよ、と思いながら携帯を耳にあてて、

「もしもし」

 と、言った。

『あ、夏宮君?』

 どこかで聞いた声だった。あっ! 合コンの時の女子高校生。あの時、電話番号を教えたんだった。

「あ、うん」

『用事済ませた? 今から逢えないかなぁ。また話したいから』

「あ、その……今は無理なんだ。ごめん。また後でな」

『……うん。分かったわ。またね』

 そう言って電話を切った。電源を切っとけば良かったなぁ。俺は美矩のところに戻った。

「誰からだったの?」

 美矩が尋ねた。

「友達。今からゲーセンで遊ばないかって」

「そうなんだ」

「でも、断ったよ。そうしたら、彼女とラブラブでいいなって」

「あはは」

 ふう、なんとかごまかせた。今は彼女の方が大切だからな。

「私ね、咲満と結婚したい。咲満は?」

「もちろん、俺もだよ。俺も美矩と結婚したい。そして幸せな家庭を作りたい」

 まるでプロポーズじゃん! その言葉でも嬉しいけどな。また、抱き締めたくなるじゃんか! と思いながら美矩を抱き締めた。

「キャッ!」

 美矩は驚いている。やっぱり辞めといた方が良かったかも。いきなり抱き締めてしまったからな。そりゃあ、驚くよな。

 俺達の気持ちは一つ、お互いとも「好き」な気持ちがあれば安心。離れたりはしない。大切な人を手放したくない。

「俺は美矩を必ず守るからな」

「うん」

「彼女を守るのが、彼氏の役目だからな」

「ありがとう。私は咲満から離れたりはしないからね。ずっと咲満と一緒だもん」

「サンキュー」

「こうして、2人っきりの時間は大切だからね」

「ああ」

 いつまでもこうしていたい。


            *


 2週間後。またもや合コンに行く日になってしまった。今日は合コンに行くのは最後にしようって私と咲満で決めた。合コンでの女子のメンバーを真那斗に聞いたところ、この前やった合コンの女子高校生らしい。と言う事は、留亜ちゃんがいるって事。私はいつものように男装をして行った。合コンする場所は、この前と同じカラオケ屋だった。何故、また、カラオケなんだよ。カラオケ屋に入り、女子達が待っている部屋へと入って行った。

「あ、知弘君だぁ!」

 留亜ちゃんは僕に抱きついてきた。

「留亜ちゃん・・・・・・話があるんだ。そう、皆にもね」

 僕は咲満の隣に並んだ。

「実は・・・・・・僕と咲満は合コンには今日で最後にするから」

 僕達の方を留亜ちゃん達が、驚いたような顔で見てきた。

「えっ!? じゃあ、もう2人とも合コンに来ないの?」

「うん」

「どうしてー!?」

 決意をしたから言うしかない。

「実は僕は・・・・・・男じゃないんだ。僕の本当の正体は・・・・・・」

 僕はカツラを取った。

「女だから。私の本当の名前は『知弘』ではなく、『美矩』です。私と咲満は恋人です」

「騙していてごめん!」

「ごめんなさい!」

 と、私と咲満は女の子達に謝った。真那斗はと言うと・・・・・・バラしちまったのかよって顔でこっちを見ている。

「・・・・・・知弘君が女の子だったなんて・・・・・・しかも、彼氏が夏宮君だし・・・・・・」

 留亜ちゃんは残念そうに言った。

 本当にごめんね。留亜ちゃん・・・・・・。

「・・・・・・私、美矩ちゃんと友達になりたいなぁ」

「あ、私も!」

 と、2人の女の子が言ってきた。私と友達になってくれるの? 嬉しいなぁ。でも・・・・・・留亜ちゃんが・・・・・・。

「・・・・・・私も。美矩ちゃんと友達になりたい」

 わあー! 嬉しい!

「皆、ありがとう!」

 皆と仲良くしなくちゃ。本当の事を言えただけでも十分だよ。隠し事とかはやっぱりしちゃいけないからね。

「改めて自己紹介をします。星沢美矩です。高2で咲満の彼女です。留亜ちゃん達と仲良くしたいです。よろしくね」

 留亜ちゃん達に、本当の自分の姿で改めて自己紹介をした。彼女達は拍手と笑顔で受け入れてくれた。皆で歌を歌った。順番でね。

 私は最初に咲満とのデュエットをして、その後に留亜ちゃんと一緒に歌った。歌い終わって咲満のところに戻って彼の隣に座った。

「良かったな、美矩」

 と、彼が声をかけてきた。

「うん! 私ね、皆に何を言われるのかなぁって思っていたの。でも、予想とは違って受け入れてくれたから嬉しい」

「俺達はこれから、普通にデートしたり出来るから嬉しい。俺達の邪魔をする奴はいなくなったからな」

「うん!」

 私はとても嬉しい。それと幸せ。

「咲満ー! 歌おうぜ!」

「おう!」

 咲満は真那斗に誘われて歌を歌い始めた。咲満は明るい表情で真那斗と一緒に歌っている。

 大切は人は咲満だけ。彼と一緒にいると毎日が楽しいし幸せだから彼とは離れたくないって思っているの。誰よりも大好きだよ、咲満。私の前からいなくならないでね? 私を一人にしないでね? 貴方の事を愛しているから。


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