HERO
どうやって人はヒーローになってしまうんだろうね?
ヒーローはそれをヒーローだと認める他者がいて初めて成り立つと思うんだ。
そしてそれは本当にわかりやすい関係に依存していると思うんだ。正義に対する悪。強者に対する弱者。勇者に対する魔王。そんなわかりやすい関係だ。だから人はよくこんなことを言う。悪だったりそれに類する存在に依存するヒーローはなんだか皮肉だね,と。べつに反論はないさ。正解だと思う。だからいつもヒーローは物悲しい感情だったり,抑えきれない憤怒だったりを抱えて敵を断罪するんだ。そしてヒーローであることを喜べないんだ。だってヒーローである自分を肯定することは,それが依存するものをもまた肯定してしまうからだ。ふふ,ずいぶん使い古された考えだね。そうこれは使われすぎた「ぼろ雑巾」のような考え方さ。もっとも,そのぼろ雑巾はいま博物館に保管されているけどね。たとえがわかりにくいかい?それほど正しくて,一時期は物珍しかったって意味さ。いまでは客をとれないから倉庫の中で埃をかぶっていそうだけどね。
じゃあ,とても新しくて,それこそ世界が引っくり返るようなヒーロー論がこれから展開されるかといえばそうじゃないんだ。残念ながらぼくは新しいものを作り出すという行為が大変苦手でね。なんていうか吐き気がするんだよ。生みの苦しみではないよ。生まれる前に地面にのたうち回るだけさ。なんというか,本当にグロテスクなんだよね,何かを生むって。だってそうだろう。見たくもない内面の発露,聞きたくもない大言壮語。寒気がする自己満足感。そんなものが混ざったグチャドロなもの,苦労してでも見たくもないし,なおさら作ってる途中のモノなんて,まさにこの世のものではないね。物体Xだよ。
話がそれたね。ごめん。
僕は一度も生んだことなんてない。僕がするのは「なぞる」だけ。ただ,現実のヒーローをなぞって、それを言葉にするだけだ。一般化というね、それは。そう,一般化しかできないんだ僕は。そして一般化が得意なんだ僕は。そして,一度だって実物には近づいたことはないんだよ。世界には大小さまざまなヒーローがいる。世界を救うとか大層なやつじゃなくていい。人生の道を示す教師なんてのも,導かれた人からすれば立派なヒーローさ。ふふ,ここは少しおべっかが過ぎたかな。こんな文を書いていることが見つかった時の保険だよ。生徒は教師の評価を無視できない。でもおべっかでも間違いじゃないんだ。反論はないよね(なんせこれも使い古された価値観だからさ。)
そう,僕は教師から導かれたことも教えを受けたこともない。ふふ,君は僕を引きこもりか何かだと思っているんではないかな?違うよ,ちゃんと学校には行っている。だって学生だからね,学生の本分は勉強だよ。当たり前だ。
まぁ,僕自身はそんなこと自覚したことはないけれど。周りの学生を分析したらそんな結論が出ただけなんだ。
話を戻すよ。僕は教師から指導とかをされた覚えはないんだ。いや,傍から見たらしっかりと教師の指揮命令に従っているように見えるのかな。
うん,それはわかるよ。だってその様を思い浮かべれば確かにそういう風に見えるからね。間違いない。
まぁ,僕はそんなふうに他人に従った覚えなんて,ひとかけらだってないのだけれどね。
僕はこう考えているんだ,いや認識しているんだ。
教師という役割が,学生という役割に命令している。結果として学生という役割は指示に従う。ただそれだけさ。だから僕は教師にあったこともないし,言葉を交わしたこともない。
親もいなければ友達もいない。優しさを感じたこともなければ,優しくしたこともない。全部,僕ではなくて,息子が親に対して,友達が友達に対して,弱者が援助者に対して,善人が弱者に対してしたことで,僕はなにもしていないんだよ。
そう,纏めると僕は誰とも会ったことがないんだ。すべて僕の外面,役割が受け止めてくれるからね。
だから当然ヒーローなんてやつに会ったことはないんだよ。
ふふ,そんな一歩引いた見方をした奴に本質が見抜けるわけないって?確かにそうだね。そりゃ,一歩引いてみるより,その実態に触れてたほうが情報量は多いだろうね。手を沿わせて,足を絡ませて,舌を這わせて,耳を張り付けて,しっかりと見つめたほうがいいんだよ。
でもね,僕は変態な人間だからそれができないんだ。手を沿わせただけで,全身に怖気が走るよ。
無理無理,絶対無理。
そもそも僕は近づきすぎると逆に見えにくくなるんだ。おっと,誤解がないように言うとその人や物に情が移るとかそういうんではないよ。それは「盲目」というもので,僕の病気とは別のものなんだ。
僕のは遠視。わかるよね,近くが見えないんだよ。どうしようもなくぼやけてしまうんだ。いっそ完全に見えないのならすっぱり諦めて分析はしないんだろうけどね。なまじ少し見えてしまうから,不安を抱きながら,文字通りピントのずれたことを言ってしまうのさ。
だから僕は引き下がるんだ。一歩じゃないよ。それではだめだとさっき言ったよね。感覚的には百歩くらいは下がるかな,うん。
前置きが長くなったね。ごめん。
簡潔に言うとこれから話すのは,ヒーローを見たって話さ。そう,ただただ見ていたってだけ話だ。
前述のとおり,「僕」は何もしていないから,面白みに欠けるどうしようもない話なのだけど,面白みに欠けても,確認にはなると思うから,話すよ。
いうなれば答え合わせさ。
ヒーローは如何にあるべきかっていうね。