黒躑躅
PM6:01……
「ふっふっふっ……」
ついに、今年もこの時がやって来た。
今月に入ってから、どれだけこの日を待ちわびたか!
「ふゎーーはっはっはっ!」
思わず高笑いしてしまった。しかし周りはそんなの気にしないのでノープロブレム。問題無し。
さて、そろそろ行くとしようか……
毎年のように得ている称号、夏祭りの制覇者の名を取りに!
PM6:09……
まずは小手調べ、一番簡単なものから攻めるか。
この時の為に一年寝かせておいた勝負服―――白い布地に、黒で躑躅の柄が描かれた浴衣―――に身を包んだあーし、まず最初のターゲットは……
「わたあめひとぉつ!」
「はいよー、って、おぅ! 嬢ちゃんじゃねぇか」
「久しいなおっちゃん、今年もわたあめ屋か」
「まぁな、ここ数年はずっとさ」
「だな、来てるから知ってるぞ」
「ははっ、そりゃそうだな、ほれ、わたあめ」
「サンキュー」
「よかったらまた後で寄ってくれよ」
「おぅよ、必ず帰り前によるぜ」
わたあめを貰い、あーしは次の目標に向かった。
PM7:00……
さて、そろそろ食べ物は一周したか。
腹もこなれた。いよいよ本題に入るとしよう。
まずは一番に目に入った……
「射的いっかぁい!」
「あいよ! ってお嬢! 久しぶりだね」
「まあな」
射的銃を受け取る。一回、コルクは六個だ。
「今回一番難しいのは?」
「ふふふ、そういうと思ってね……あれを見よ!」
指を差される方を見ると、棚の一番上、しかもど真ん中に、金色に塗られた板に、赤い的がついていた。
普通に見れば、ただの的だ。だが、その大きさは、
「ちょうどコルク一個分の大きさの板。もしもあれに三つ当てることが出来たら、ここにある商品のどれかをプレゼントしているのさ!」
「ほほぅ……」
これはこれは、あーしに対する挑戦状以外の何物でもないね。
「受けてたとうじゃないか!」
PM7:44……
「ふっふっふっ……」
射的も、輪投げも、金魚すくいまで、全ておそるるに足らなかったな。
仕方ないさ、あーしは七年連続、この夏祭りの制覇者なのだから!
「ふゎーーはっはっはっ!」
高笑いもよく響く。
「ふーはっはっはっ!」
何故か重なって聞こえるような……ん? 重なって?
「どうかしたのかいお嬢ちゃん?」
真横に女の人がいた、紫色の蓮華柄の浴衣を着ている。
「ただの高笑いだ」
「なぜに高笑い?」
「あーしは夏祭りの制覇者になったからだ」
「なぬ? 制覇者?」
「そうだ、今年もまただ」
「ふーん……」
何だ? 妙に怪訝顔だな。
「文句があるのか?」
「いんや、たださ、お嬢ちゃん……もう…」
「ああ! しまった!」
「おおう!?」
「まだやってないものがあった! 早く行かなくては、制覇者を名乗れない!」
あーしは走り出した。
もちろん、本当にやってないものがあるのだが。
それ以前に、あの先を聞いてはいけない気がした。
PM7:58……
ふむ、堪能した。
やり残しもない、その為に同じ場所を二度は回った。
皆あーしを見て、またな、と言ってくれた。
今回はまた、浴衣の人物を多く見たな、さすが夏祭りか。
この一週間で一番多く見た、当たり前か。夏祭りなのだから。
そうして、今年もまた夏祭りの制覇者の座を獲得できた。
それに……アイツらにも、会わなかった。
……毎年、会えなくて悲しくもあるが、会えなくてよかったとも思うんだ。
会えば喜べるだろう、それと同時に悲しみも込み上げてくるが。
なぜなら、あーしは――――――
ドーーーーーーーーーーーーン!!
夏祭りのメイン。花火の打ち上げが始まった。
「……」
……そろそろ、最後の目的地に行くとするか。
PM8:57……
やはり、最後はここだ。というか、ここに来ないと行けないんだ。
「ふむ……」
回りには人だかり、それはそうだ。この河川敷は花火の絶景スポットだからな。
その河川敷の端っこに、あーしは用がある。
「よう、また見に来てやったぞ」
河原に無造作のように積まれた石。その前には、
「ん? 他にも誰か来たようだな?」
屋台で買っただろう食べ物を少しずつ―――たこ焼き一個とかわたあめ一口分とか―――が皿の上に置かれている。
「ほぉ……豪勢だな」
だがなコレを置いた誰か、さすがに食いきれないだろう。
「しかし……」
いつ見ても、これは妙な光景だろうな。
なにせ、自分の墓を自分で見ているのだから。
毎年毎年、花火大会が始まる一週間前から、花火が全て終わるまで、あーしはここに現れていられる。
神のきまぐれかとてつもない怨念か、あるいは何か特別な力のせいか、とりあえず、あーしはいれる。
生きているように、体は透けるが、歩き、話せ、見れる。普通の人と対して変わりない行動が出来る。
もちろん、相手にも見られる。始めてこうなった時に会いに行ったら、それはもう、かなり驚かれた。
事情を話すと皆あっさり受け入れてくれ、それ以来は金が無いので色々タダでもらえるようになった。
それからは、一年に一週間だけ、楽しみはこの花火大会。要はそれを大いに楽しむことだけを考えた。
毎年訪れ、全ての屋台を制覇、食べ物をもらい、射的とかは当てるだけ、どうせ持っていけないから。
そんなのがもう、かれこれ七年くらいか、あーしがここで亡くなった時から、もう七年も経ったから。
「……ふ」
毎年来ては居る。普通の人より歩き回っているだろう。
だが、必ずアイツらには会わない――――いや、会えないだな。
おそらく、アイツらにだけは見えてないのだろう。
そう、願いたい。
きっと、アイツらに会って、話をして、あの時のように花火大会を回ったら。
もう、制覇者にはなれないだろうから。
だから、毎年来ているというこの形だけを見て、花火を全て見て、また一年後まで、ここではない場所へと行く。それがあーしになってからの、七年。
今、最後の花火群が上がりだした。毎年同じで、もう後ろを向いていても分かるぐらいだ。
一際大きな花火達が、夜空を彩る。
赤、黄、青、さまざま色とりどり、夜空の黒を明るく照らす。
そして、一際大きな尾を残しながら空高く昇っていく、最後の一発。
さながらそれは、あーしが昇っていくため空を貫く紐ように、
伸びて、伸びて、伸びて―――――――――
最後の大輪の花が咲いて、
「――――――、だ」
空に暗闇が戻る時、河川敷の人々が帰路につき始めた時に、
誰もいない河原の端に積まれた石に近づく、一組の男女がいた。
4作目……かなり変わった物語となっています。
今までののはどこかにつながりがあった、けれどこれはそうではなく、しかし作品に出てくるある人物との関わりがある。そんな話になっております。
これを投稿した、ちょうど二時間後にエピローグを投稿します。
そこで知らされること、残る疑問。そして終わり。できればご覧になってください。
それでは、




