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青金魚

PM6:29……


「……」

人が集まってきている。

家族で、恋人どうしで、そして……友達どうしで……

ただ、それを見るワタシは一人だけ。周りに人はいっぱいいるがそのどれにも属してないワタシは、一人で花火を見に来たのです。

何か言いたいなら言えばいいです。

一人で来たの? 大きなお世話です。

一人で浴衣着て花火を見に来て何が悪いというのですか。

ここには見受けられませんが、きっと私以外にも一人の人はいるはずです、かといってそんな見ず知らずの個人と一緒に花火を見る気はありませんが……

「あれ? 光希(みき)?」

急に名前を呼ばれました。学校でもワタシを名前で呼ぶ人はいない、唯一両親と姉、そしてもう一人……

「光希、だよな? うわ久しぶりじゃん」

昔からくされ縁、高校でやっと離ればなれになれたと思っていた幼なじみだけです。

「……」

まぁ確かに中学卒業式以来会ってませんでしたが、かといって懐かしむ必要はありません。

なのでスルーで前に進みます。

「ちょ、無視はないだろ。オレだよ、覚えてない?」

しかし奴は諦めず隣に並んできました。

仕方ないので、

「お久しぶりです。さようなら」

それだけ言って加速、

「反応はしてくれたけどちょい待て!」

奴はツッコミと共に速度を合わせてきました。

そうそう、コイツはどちらと言えばツッコミでした。

「ひさびさに会ったのにつれないじゃんか」

「昔っからこうだっだと思いますが?」

「まぁそうだけど……」

「では」

更に加速、浴衣のせいでこれ以上の加速は不可能です。

「いやいやちょっと待てって」

あっさり追いつかれました。

「見た感じ一人だろ? よかったらオレと回らない?」

「回るなら一人ですればいいです。右回りでも左回りでもご勝手に」

「いやそういう回るじゃなくてな?」

「一人で花火を見て何が悪いんですか?」

「でもそれ、寂しくね?」

「……」

寂しくは…………ないです。

「寂しいわけないでしょう。こうして一人で来てるのですから」

「だよな……」

「……」

まったく、コイツは昔からそうでした。

「……着いて来るなら勝手にすればいいです。基本はムシしますが」

「そうさせてもらうよ」






PM6:31……


人が賑わい、色々な柄の浴衣を着た人が歩いている。

赤い蜻蛉の柄の女の人、揃って黄色い向日葵柄の双子、ふむ。

「基本的に浴衣は女の人が多いようです」

「そういうお前も浴衣じゃん」

まだいましたか。

「というか人の心を勝手に読むんじゃないです」

「いやいや声に出てたぞ?」

そういえば出していたかもしれません。

「その浴衣、昔と同じだよな?」

今ワタシが着ているのは、青地に金魚の柄がついた浴衣。裾を上げていた昔の物を今は上げずそのままで着ています。

「まだ着れるのだから当たり前です」

「ふうん、やっぱ似合うなその浴衣」

「……」

まあ昔は姉さんも含め3人で回ったこともありましたが。小学生頃の話です。

「そういえば、沙紀さんと一緒じゃないんだな?」

「今更気づきましたか。今年は姉さん、井沢さん達と回ると言ってましたです」

「そこに混ざらないのか?」

「年上に囲まれていては息苦しいに決まってるのです。そんなことも分からないですか」

「普通分からないと思うけど……」

「やれやれ、これだから――――は」

「ん? これだからなんだって?」

「さて、次はあっちの方に行ってみるです」

「おぅい! ここでいきなり無視かよ!」

なんか声が聞こえるような気がしますが、先ほど基本はムシすると言っておいたはずです。






PM6:45……


結局、どれだけムシしてもアイツはついてきますです。いったい何が面白くてワタシについてくるのですか。

「全く……」

一人で楽しもうと思っていた計画が台無しです。わざわざ姉さんの誘いを断ってきたというのに……

……一人で歩いていれば、ひょっとしたら、地域が同じだから、少なからず可能性が……

「なにを悩んでいるのだい、青い金魚のお嬢さん?」

いきなり声を掛けられました。多分浴衣の柄からワタシのことでしょう。

声の主はワタシの隣にいました。紫色の蓮華の花柄の浴衣を着た女の人です。

「ストーカーに追われています」

「ありゃ、意外に冷静。も少し驚いてくれるとお姉さん助かったのに」

「だからどうしたんですか?」

「ふむふむ、なら少しの間だけ姿を隠してあげよう」

女の人はワタシの後ろに立ちました。多分アイツから見えなくしているのでしょうが、多分見えているです。

「時にお嬢ちゃん、彼に伝えたいこと、あるんじゃないかい?」

「……」

なぜそれを……また声に出てたですか?

「ならいいところがあるよ、河川敷の方は人が少なくてね、そういう人が多いのさ」

「……」

この人、分かってて言ってるのですか……?

「あなたはいったい……」

「むむ! あそこに迷子っぽい女の子発見!」

女の人は急に走りだして行ってしまいました。

「……」

河川敷……ですか……






PM6:59……


ワタシは河川敷に着ました。

「なるほど、ここなら花火よく見えるもんな」

アイツもついてきたです。

「全く……なんでここまでついてくるんです? 一人計画が実行できなかったじゃないですか」

「え……そ、そりゃあ……」

なぜかアイツは、目をそむけました。

「―――だから、かな」

「……」

まあ予想はしていたです。

中学生となれば、普通同性でつるむものですが、アイツはよくワタシといました。

そうする理由は幼なじみ以外には……そうしかないでしょう。

はなればなれになってもとは、執念深いとはコイツのことを言うのです。

「……わかりましたです」

ワタシはアイツを正面に見ました。アイツもこちらを向いています。

「じゃ、じゃあ……」

「えぇ、今日から――――――です」

「……は?」

予想外の答えに、アイツは首をかしげました。

「だから、――――――です。意義は認めません」

それだけ言って回れ右、歩き出しました。

「ちょ、どういう意味だよ!」

「意義は認めないといいましたです」

「だからって……」

「いいではないですか、―――――。深く考えてみるといいです」

「まぁ…………そうか……そうかもな」

「ではいいですね、――――――で」

「あぁ、まぁ……いいや、うん……」

若干納得できてないようですが、まあそれでいいです。





いつか、こっちから言ってやるのですから。


三作目投稿いたしまた。

今までに書いたようなそうでないような、そんな感じの主人公目線のお話となっています。

実はこの人物、自分の別作品登場人物の妹です。なんの作品かは、分かる方には分かるかと思います。多少ヒントも出ていましたので。


この作品、後2、3作で終了を予定していますのが、いったいいつになるかは不明です。もしも読んでいる方がいましたら、お待ちください。


それでは、

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