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黄向日葵

PM6:14……


「お兄ちゃん、どうかな?」

「うん、似合ってるよ、春歌」

「どうかな? お兄ちゃん」

「春菜も似合ってるよ。2人共同じ浴衣なんだね」

姉さん達が学校等の用事で遅れる為、双子の妹、春歌と春菜を花火大会に連れていくことになった。

2人は昔からそっくりで、今もお揃いの―――黄色いひまわり柄の浴衣を着ている。本当に似すぎてて親兄弟でもたまに分からなくなることがあるぐらいだ。

一応の区別の仕方は、髪を右側に結んでいるのが姉の春歌で、左側に結んでいるのが妹の春菜。人の名前を先に呼ぶのが春歌で、後に呼ぶのが春菜だ。

それらを混ぜられたら、もう誰も分からない。

「でも、まだ花火が始まるまで時間があるよ?」

花火の開始は8時から、まだ2時間以上あるのに二人は浴衣を着ていた。

「だって屋台見たいんだもん。ね、春歌?」

「そうだよ、花火だけが楽しみじゃないだもん。ね、春菜?」

あぁそうか。

「というわけでお兄ちゃん」

「さっそく行こ~」






PM6:32……


家から歩くこと数十分、花火がよく見える場所に着いた。

それを示すように、多くの屋台が軒並み立ち並んでいる。毎年来ているけど、今年もとても賑やかだ。

「まずはどこを見るの?」

前を並んで歩く春歌と春菜に訊ねる。

「わたがし!」と春歌。

「りんご飴!」と春菜が答えた。

おや珍しい、二人の意見が別れた。

「じゃあ順番に行こうか」

「まずわたがし!」

「まずりんご飴!」

ここまで別れるとは本当に珍しいな。

「むむ」

「むー」

二人がにらみ合った。まるで鏡を見ている人を見ているようだ。

けど、二人は別に互いを怒っているわけではなかった。

「じゃあ同時に買いに行けばいいんだ!」

「そうだ! 同時に買いに行けばいいんだ!」

同時にって……

「じゃあ春歌はわたがしを!」

「春菜はりんご飴を買いに!」

決定したやいなや、二人は走り出して、春歌は右、春奈は左に曲がり、人ごみの中に消えていった。……って、二人とも見失っちゃった!

マズイ……二人の引率で来たのにいきなり離れ離れになってしまった。不幸なことに二人もバラバラだし。早く探しださないと。

二人の服装は覚えている。そして幸いなことに、二人が行く屋台は分かっている。春歌はわたがしで春菜はりんご飴、その屋台がどこにあるか僕は知らないけど、それは二人も同じだ。

僕が先にその屋台を見つけられれば、おのずと二人も見つかるだろう。

花火が始まるまで、2時間弱、春歌と春菜探し開始だ。






PM6:43……


いきおいよく走り出したのは良いけど、どこに売ってるのかぜんぜん分からない。

ここは、だれかに聞くのが良いかもしれない。

「すみません」

ちょうど目の前にいた、赤いとんぼの浴衣を着た女の人に聞いてみた。

「はい?」

「この辺りでわたがしの屋台見ませんでしたか?」

「わたがし……えぇ、見たわよ。もう何回も何回もここ回ってるからね……嫌でも覚えちゃったわ……」

「?」

何か疲れてるような顔をしている。何かあったのかな?

「だいじょうぶ、ですか?」

「え、えぇ、平気よ。わたがしは、この先言って右よ」

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げてから教えてもらった方向へ走り出した。

目指すはわたがし、

春菜よりも早く。






PM6:44……


いきおいよく走り出したのは良いけど、どこに売ってるのかぜんぜん分からない。

ここは、だれかに聞くのが良いかもしれない。

「すみません」

ちょうど目の前にいた、赤いとんぼの浴衣を着た女の人に聞いてみた。

「はい……って、あれ? アナタ、今さっき向こうへ……」

「この辺りでりんご飴の屋台見ませんでしたか?」

「りんご飴? さっきわたがしだったような……」

「?」

わたがし? ひょっとして同じ人に尋ねたのかも。

「だいじょうぶ、ですか?」

「え……えぇ、うん、平気よ。りんご飴は、この先言って左よ」

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げてから教えてもらった方向へ走り出した。

「きっと似た格好だっただけよね、浴衣と髪型と容姿が……って、それって似過ぎじゃ……」

目指すはりんご飴、

春歌よりも早く。






PM6:46……


赤とんぼ柄の浴衣を着た女の人の教えてくれた方へ行くと、わたがしの屋台を発見しました。

「わたがしください」

お金を払い、わたがしを入手。

後は春菜よりも早く……

「あ……」

今になって気付いた。色々と走り回ったせいで、どこにお兄ちゃんがいるか分からない。

あの時はつい春菜と言い合って走り出したけど、後の集合場所を決めてなかった……

「ど、どうしよう……」

わたがしを持って辺りを見る。見たことのない人ばかりの中、一人ぼっちで……

「……」

さびしすぎて、泣きそうになる……けど、


「どうかしたのかい、お嬢ちゃん?」


「おじょう……?」

妙な呼ばれ方をして、顔を上げた。

目の前には女の人が立っていた。紫色の、はすの花の柄がついた、女の人だ。

「ふむふむ、どうやらお嬢ちゃんは迷い子さんみたいだね」

何も言ってないのに、女の人は当てた。

「親御さんかな? それとも誰かお友達と来たとかかな?」

腰を曲げて同じ目線になって訊かれた。

「お、お兄ちゃんと……春菜と」

見ず知らずの人だったけど、つい答えてしまった。

「よし、お姉さんが探してあげよう」

胸をとん、と叩いて女の人は宣言した。

「お嬢ちゃん、お名前は?」

名前を訊かれて伸ばされた手を、

「は、春歌……」

わたがしを持ってない手でつかんだ。






PM6:46……


赤とんぼ柄の浴衣を着た女の人の教えてくれた方へ行くと、りんご飴の屋台を発見しました。

「りんご飴ください」

お金を払い、りんご飴を入手。

後は春歌よりも早く……

「あ……」

今になって気付いた。色々と走り回ったせいで、どこにお兄ちゃんがいるか分からない。

あの時はつい春歌と言い合って走り出したけど、後の集合場所を決めてなかった……

「ど、どうしよう……」

りんご飴を持って辺りを見る。見たことのない人ばかりの中、一人ぼっちで……

「……」

さびしすぎて、泣きそうになる……けど、


「良かった、見つかった」


前を見ると、

「お兄ちゃん!」

「まったく、急に走り出すにしてもちゃんと集合場所を決めてからにしてよ」

「う、うん……ごめんなさい」

しゅんと頭を下げると、お兄ちゃんの手が置かれた。

「もういいよ、でも、次からは気をつけてね」

「うん……」

「さて……後は春歌だけど、この時間じゃもう屋台にはついてるだろうし……一応行ってみて、そこから地道に探すしかないかな。行くよ、春菜」

名前を呼ばれて伸ばされた手を、

「うん!」

りんご飴を持ってない手でつかんだ。






PM7:00……


「なるほどなるほど、春歌ちゃんと瓜二つの恰好をした女の子なのね」

「はい、双子の妹です」

お姉さんに手を引かれて、お兄ちゃんと春歌を探して歩く。けど、ぜんぜん見つからない。

「しっかし、これだけ歩いて見つからないもんだね~」

「はい……」

「大丈夫だよ春歌ちゃん。お姉さんが必ず見つけて…」

その時、


「あっちから誘っておいてなんのよもーーーーーー!!」


とても大きな声が聞こえた。なんだか、聞き覚えのあるような……

「おおう? 今のはいったい何の声で……おや?」

お姉さんが立ち止まった。声がした方向を見ているみたい。

「どうしたんですか?」

「ふむふむ……なるほどね」

お姉さんは腰を曲げて同じ目線になる。

「春歌ちゃん、このまま真っ直ぐ進むといいよ。そうすれば、見つかるから」

「え?」

「お姉さん、ちょっと用事ができちゃったから、ここでバイバイするね」

「え、でもあの!?」

「大丈夫、お姉さんを信じて、真っ直ぐすすめ!」

ビシッ! と前を指さすお姉さん。

「それじゃあね!」

ぽん、と頭を撫でられるとお姉さんは行ってしまった。あちらは確か、さっきの大声が聞こえた方向。

「……」

本当に行っちゃった……でも、ここで立ち止まってるわけにもいかない。

お姉さんの言った通り、このまままっすぐ進んでみよう。

人の間を通って前へ、前へ、ただただまっすぐ歩いていく。


すると、




「春歌!」

名前を呼ぶ声、その先にはもちろん。

「春菜!」

走り出していた。春菜の隣にはお兄ちゃんもいる。2人は先に会ってたんだ。

「春歌……」

「春菜……」

ふと思い出して、春菜もぴたりと止まった。

「お兄ちゃん、これ持ってて」

お兄ちゃんにわたがしを渡す。

「はいはい」

「これ持ってて、お兄ちゃん」

春菜もお兄ちゃんにりんご飴を渡した。

「はいはい」

2人共両手が空いたところで、

「春菜!」

「春歌!」

2人して抱き合った。

「春菜にやっと会えた!」

「やっと春歌に会えた!」

「良かったよかった!」

「よかった良かった!」

ぐるぐるとまわり喜びを示しあう。

「良かったね二人とも」

お兄ちゃんに頭を置かれてぴたりと止まる。

「でも、今度からは急に走り出したりしないでね」

「はーい!」

「はーい!」

でも今は、二人に会えたことを喜ばないと!






PM7:50……

無事に二人を見つけて、僕たちは河川敷にやってきた。ここは地元民のみが知る絶景のスポットで、屋台などが無い分、人は少なく花火がよく見える。

僕たちは他にも屋台で買い足した物を持って、姉さん達との合流地点に向かう。

「それにしても、二人があれだけ違う行動するなんて珍しいね」

手をつないで前を歩く二人に訊いてみた。

「うん、なんでだろう」

「なんでだろうね?」

二人は顔を見合わせて互いに訊く、どちらも理由がないらしい。

「いつもなら一緒のものを選んで一緒に買いに行ってたのに」

「なんでかな?」

「うーん、もしかして」

春菜が呟いた。

「―――――かもね」

小声過ぎて聞こえたかった。

「あ、そうかも」

春歌には聞こえたらしい。

「―――――かな」

「―――――だね」

二人がお互いに、僕には聞こえない声で納得しているけど、訊いた僕が分かってない。

「ちょっと春歌、春菜、僕にも教えてよ」

そう言うと、二人はこちらを向いて、

「お兄ちゃん、それはね……」

「それはね、お兄ちゃん……」





そして、その理由を教えてくれた。

二つ目の物語、投稿しました。

しかし、今日は8月の終わり……活動報告に8月内の終了を考えていましたが、出来そうにありません、すみませんでした。もう少しじかんがあれば……

さて、『黄向日葵』ですが、双子とその兄が主役です。双子は小学生低学年くらい、兄は中学生くらいですかね。この二人は自分の別作品の登場人物だったりします。その昔の話、という感じでここに参上いたしました。

これを読んだ後、一つ前二つ前を読むと、若干のつながりを見つけることができるかと思います。見つけてくだされば幸いです。


それでは、

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