異世界で暇してたら ――ご令嬢と不運な俺のカジノ旅――
「ふあぁ……」
「クロガネ君、あくび禁止。せっかくのリゾートなのに、本当に風情がないわね」
「学園をサボってる時点で、風情も何もないだろ」
王立騎士学園中等部の俺――クロガネは、フランソワーズに連れられて、学園をサボって、王立カジノリゾートに来ている。
彼女と二人きりになれたのは、幸か不幸か……
薄暗いフロアに、豪華なシャンデリア、金色の装飾がギラつく。
そして、ドレスコードによる息苦しい正装。
「ほら見て。今日の私はツイてるのよ。金貨五千枚が、ほら、この山よ」
「いや、山ってレベルじゃないだろ……。これ、下手したら学園の予算より多いぞ」
「細かいことは気にしないの。貴族の嗜みよ」
「この世界の令嬢は、嗜みでルーレットをするのか?」
(……それに、クロガネ君となら退屈しないもの)
彼女はなにか小声でつぶやいたが、フロアの喧騒にかき消されて、よく聞こえなかった。
フロアの空気が、ほんの一瞬だけザラついた。こういう「違和感」には、妙に敏感なんだ。
「ちょっと、離してよ!」
女性の声だ。フロアの隅で、美女がチョビ髭男に絡まれているのが見えた。
「……フランソワーズ嬢、少し離れる」
俺は、困ってる人を見ると、放っておけない性分だ。チョビ髭男を引きはがし、美女を助ける。
すると――
「ありがとう、あなた……ステキ」
美女が俺の腕にしなだれかかってくる。
「ちょ、ちょっと近い……!」
「クロガネ君!」
背後から、氷点下の声。
「フランソワーズ嬢! 違うんだこれは誤解で――」
「誤解じゃなかったら、どうするつもりだったのかしら?」
「いや、だから誤解だって!」
慌てて美女から離れたが、ポケットに違和感。
「あれ? ……財布がない」
「クロガネ君の鼻の下、伸びてる……財布を抜かれたことに気が付かないなんて、情けないわね」
「え? いつ?」
「仕方ないわね……金縛り!」
フランソワーズが魔法を発動し、さっきの美女が、硬直した。このフロアは魔法禁止なのに、彼女は意に介さない。
「さっきのチョビ髭男!」
美女に絡んでいた男が逃げた。
「空間ゴムゴム魔法!」
俺が使える数少ない魔法――空間を伸ばしたり縮めたりできる魔法だ。チョビ髭男との距離をギュッと縮め、チョビ髭男を捕まえた。
美女のバッグを調べると……俺の財布が出てきた。
「呆れた……スリ夫婦かよ」
「助かったよ。ありがとう」
俺はフランソワーズに頭を下げた。
「別に。私は退屈しのぎに遊んだだけよ」
そう言って彼女はルーレットに戻った。
しかし――
「あれ? また外れた……?」
さっきまでの勢いがウソみたいに全部外れ、フランソワーズ嬢が、なぜか俺を睨む。
「……まさか俺のせいだと思ってる?」
「思ってるわよ。クロガネ君が近くにいると、どうも流れが悪いのよね」
「理不尽すぎる!」
ついには借金までして、最後の大勝負に出た。
「これで決めるわ!」
「やめとけって! 絶対嫌な予感しかしない!」
球が回り、空気が張りつめる。
そして――
「……貧乏神のせいよ!」
フランソワーズ嬢と俺の全額が、泡となって消えた。
「俺のせいにするなぁぁぁ!」
借金返済のため、俺は皿洗いや雑用のバイトをする羽目になった。
そして学園に戻ると――
「あ、試験、終わってた……」
「クロガネ君、あなたのせいで補習よ!」
「いやいやいや! サボりに誘ったの誰だよ?」
まあ、補習も一緒に受けれると思えば、悪くないか……
―― またね ――




