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異世界で暇してたら ――ご令嬢と不運な俺のカジノ旅――

作者: 甘い秋空
掲載日:2026/06/03


「ふあぁ……」

「クロガネ君、あくび禁止。せっかくのリゾートなのに、本当に風情がないわね」

「学園をサボってる時点で、風情も何もないだろ」

 王立騎士学園中等部の俺――クロガネは、フランソワーズに連れられて、学園をサボって、王立カジノリゾートに来ている。

 彼女と二人きりになれたのは、幸か不幸か……


 薄暗いフロアに、豪華なシャンデリア、金色の装飾がギラつく。

 そして、ドレスコードによる息苦しい正装。

「ほら見て。今日の私はツイてるのよ。金貨五千枚が、ほら、この山よ」

「いや、山ってレベルじゃないだろ……。これ、下手したら学園の予算より多いぞ」

「細かいことは気にしないの。貴族の嗜みよ」

「この世界の令嬢は、嗜みでルーレットをするのか?」

(……それに、クロガネ君となら退屈しないもの)

 彼女はなにか小声でつぶやいたが、フロアの喧騒にかき消されて、よく聞こえなかった。


 フロアの空気が、ほんの一瞬だけザラついた。こういう「違和感」には、妙に敏感なんだ。

「ちょっと、離してよ!」

 女性の声だ。フロアの隅で、美女がチョビ髭男に絡まれているのが見えた。

「……フランソワーズ嬢、少し離れる」

 俺は、困ってる人を見ると、放っておけない性分だ。チョビ髭男を引きはがし、美女を助ける。

 すると――


「ありがとう、あなた……ステキ」

 美女が俺の腕にしなだれかかってくる。

「ちょ、ちょっと近い……!」


「クロガネ君!」

 背後から、氷点下の声。

「フランソワーズ嬢! 違うんだこれは誤解で――」

「誤解じゃなかったら、どうするつもりだったのかしら?」

「いや、だから誤解だって!」

 慌てて美女から離れたが、ポケットに違和感。

「あれ? ……財布がない」


「クロガネ君の鼻の下、伸びてる……財布を抜かれたことに気が付かないなんて、情けないわね」

「え? いつ?」

「仕方ないわね……金縛り!」

 フランソワーズが魔法を発動し、さっきの美女が、硬直した。このフロアは魔法禁止なのに、彼女は意に介さない。


「さっきのチョビ髭男!」

 美女に絡んでいた男が逃げた。

「空間ゴムゴム魔法!」

 俺が使える数少ない魔法――空間を伸ばしたり縮めたりできる魔法だ。チョビ髭男との距離をギュッと縮め、チョビ髭男を捕まえた。


 美女のバッグを調べると……俺の財布が出てきた。

「呆れた……スリ夫婦かよ」


「助かったよ。ありがとう」

 俺はフランソワーズに頭を下げた。

「別に。私は退屈しのぎに遊んだだけよ」

 そう言って彼女はルーレットに戻った。

 しかし――


「あれ? また外れた……?」

 さっきまでの勢いがウソみたいに全部外れ、フランソワーズ嬢が、なぜか俺を睨む。

「……まさか俺のせいだと思ってる?」

「思ってるわよ。クロガネ君が近くにいると、どうも流れが悪いのよね」

「理不尽すぎる!」


 ついには借金までして、最後の大勝負に出た。

「これで決めるわ!」

「やめとけって! 絶対嫌な予感しかしない!」

 球が回り、空気が張りつめる。

 そして――


「……貧乏神のせいよ!」

 フランソワーズ嬢と俺の全額が、泡となって消えた。

「俺のせいにするなぁぁぁ!」


 借金返済のため、俺は皿洗いや雑用のバイトをする羽目になった。


 そして学園に戻ると――

「あ、試験、終わってた……」

「クロガネ君、あなたのせいで補習よ!」

「いやいやいや! サボりに誘ったの誰だよ?」

 まあ、補習も一緒に受けれると思えば、悪くないか……


  ―― またね ――


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