5 好きの意味
「私たちも行こう。」
花がそう言って前を走り、蓮は荷物を抱えてその後を小走りで追う。私は自分の剣を握りしめ、蓮の後ろについていった。
どれほど走ったのか分からない。両脚は最初は痛み、やがて痺れ、最後には感覚が薄れていった。花と蓮は意図的に障害物を払ってくれていたが、それでも全身は枝に切られ、あちこち傷だらけだった。
「花、もう十分よ。一旦止まりましょう。」
蓮が声をかける。
「そうだね、これだけ走って追ってこないなら、Saliveの群れは詩玖たちに引きつけられたかな。」
花が足を止め、私はその場で力尽きるように倒れ込んだ。
「速度落としてたとはいえ、よくついてきたね。さあ、治療するよ。」
花が近づく。
「待って、花の権能も残り少ないでしょ。何が起きるか分からないんだから温存して。」
蓮が制し、箱から白いケースを取り出す。
「我慢して。」
蓮は色々なものを取り出して私の傷に塗り、最後に細長い白い布で巻いた。塗られたとき少し痛みはあったが、耐えられないほどではない。
「声も出さずに耐えるなんて強いわね。」
蓮はそう言って片づけた。
「今、私たちはリプルの北西百キロ地点。二日あれば戻れるわ。」
蓮は端末を見ながら報告する。
「朝から何も食べてないし、食べ物探してくるね。二人は休んでて。」
花はそう言って森の奥へ向かった。
「花は大丈夫?」
私は蓮に尋ねる。私はもう動けないのに、花は元気だった。
「彼女は私たちとは違う。“地球に選ばれた適応者”よ。権能っていう魔法みたいな力を使える。」
蓮は枝を拾いながら答える。
「けんのう?まほう?」
「すごい力のこと。速く走れたり、力が強かったり、手から火を出したり。」
「すごい。」
「レイアも選ばれてるかもしれない。帰ったら検査しましょう。」
「そう……でもそれより、自分が誰で何をすればいいのか知りたい。」
「きっといつか分かるわ。」
そんなふうに話していると、花が両手いっぱいに何かを持って戻ってきた。
「これで一食は何とかなるかな。」
左手には桃色の丸い実が山ほど、右手には昨日見た大きな尾の生き物。
「ねえ、大丈夫?」
私は声をかけるが、返事はない。
「……もう、死んでる。」
花が少し躊躇しながら言う。
「そう。」
“死”の意味はまだ完全には分からない。ただ、もう返事をしない状態のことだろう。
「レイア、知ってたの?」
蓮が聞く。
「昨日、同じ生き物を見た。」
会話したことや蓮のテントへ案内されたことは言わなかった。
「これはリス。これから私たちの食べ物になる。つまり、食べるために殺したの。」
「うん。」
「悲しくない?」
蓮が問う。
なぜ悲しいのか分からない。関係のない存在だ。花や蓮が死んでも、私は悲しくないと思う。……いや、二人がいなくなったら、私は何をすればいいか分からなくなる。それは困る。
「お腹を満たすためなら、普通だと思う。」
「それならいい。弱肉強食は自然の摂理。でもそれ以外では大事にすべきよ。」
「矛盾してる。」
「そのうち分かる。」
「よかった……嫌われたらどうしようかと思った。」
花はほっとしてしゃがみ込み、リスを蓮に渡す。
「よく分からないけど、花を嫌いにはならない。」
「いい子だね。でも……」
花の頬が少し赤い。
「どうしたの?」
「その……今、直接“花”って呼んだよね?」
確かに、初めて名で呼んだ。
「何か問題ある?」
私は蓮を見る。
「この国では、名前は姓と名に分かれるの。氷宮詩玖なら“氷宮”が姓、“詩玖”が名。花の本名は白夜花。」
蓮は続ける。
「普通は親しい人だけが名で呼ぶの。あなたが直接“花”って呼んだから、照れてるの。」
蓮は花を見た。
「しかも花はあなたのこと好きだから、余計にね。」
「蓮、変なこと言わないで!」
花が飛びつき、蓮の口を塞ぐ。
「好きって何?」
「その人ともっと近くなりたい、優しくしたいって気持ち。」
蓮は花の手を外しながら言う。
「そう。それなら私も花が好き。」
一人より、彼女たちと一緒がいい。それも“好き”だろう。
「わあ、ほんといい子!」
花は叫び、蓮の胸に顔を埋めた。
「蓮は?」
「私は星月蓮。レイアは今まで通り“蓮”でいいわ。あなたは私にとって子どもみたいな存在だから。」
「分かった。」
「レイア?蓮がつけたの?」
花が聞く。
「うん。花もレイアって呼んで。」
「うん!」
「そろそろ昼ご飯にしましょう。まだ進まなきゃ。」
蓮が話題を切り替え、二人は準備を始める。私は座ったまま見ている。何をすればいいか分からないからだ。
焼けた食べ物を一緒に食べ、再び歩き出す。
「桃、食べて。水分補給になるよ。」
花が桃色の実を差し出す。
「ありがとう。」
私は受け取り、蓮に支えられながらまた歩き続けた。




