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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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22 死に向かいながら、生を掴む

「レ……レイア!」


 朦朧とした意識の中で、誰かが俺の名を呼んでいるのが聞こえた。ゆっくりと目を開けると、氷宮詩玖ひみや しぐが俺の傍で身体を揺さぶっていた。どうやら俺の意識を呼び戻そうとしているらしい。


 隊の最後尾にいたはずの氷宮でさえ、髪は埃まみれで、相当な衝撃を受けたことが分かる。


 俺の無事を確認すると、彼女はすぐに他の者たちの安否を確かめに向かった。


 視界に入る限りでは、他の皆も地面から立ち上がろうと必死に身体を起こしているが、足取りはふらつき、俺と大差ない状態だった。


 俺は自分の衝突で崩れた壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。他の者の様子を見に行こうとしたが、その前に舞が先に駆け寄ってきた。俺の身体をあちこち触りながら、怪我の有無を確かめているらしい。


 触れられるたびに痛みが走るが、彼女の焦りとわずかな自責の色を帯びた表情を見ると、どう反応すればいいのか分からなかった。


 幸い、花を除けば全員が致命傷は負っていない。


 だが花は、蓮を庇うために自らの身体で衝撃を受け止め、今は口から血を吐いていた。


「内臓の一部が損傷してる。今は権能で維持してるけど、基地に戻って治療すれば問題ない。ただ、もう戦闘には参加できない。」


 再編の合間に、蓮が手元の機器で簡易診断を下す。


「まだ……戦える……」


 花は反論しようとしたが、蓮に厳しく制止され、それ以上は言わなかった。


 衝撃の影響か、周囲のsaliveは今のところ接近してこない。わずかながら、息をつく時間が与えられた。


 その間、俺は衝撃の発生源へ目を向ける。


 地面に半ばめり込んだ巨大な岩。直径はざっと見積もっても十数メートルはある。


 なぜか、氷宮と蓮はその岩を険しい表情で見つめ、言葉を交わさずに何かを考えている。


「これ……まさか……」


 寡黙なバージョン・ジンがいつの間にか俺の隣に立ち、岩を見つめながら呟いた。


「ええ。おそらく、あれは“あいつ”の攻撃。」


「でも高階saliveは、三年以上も人類に対して積極的な攻撃をしてなかったはずだろ?」


 荒塚悠あらつか ゆうが口を挟む。


「その通り。でも、私たちの判断が誤っていた。」


 氷宮は唇を噛み、両手の指を組んで胸元に垂らしながら答える。


「私たちは、ただの“移動”だと思っていた。」


「でも実際は――攻城作戦だった。」


 蓮が後半を引き継ぐ。


 その瞬間、場は死んだように静まり返った。


「攻城って、どういう意味だ?」


 俺が問いかけ、沈黙を破る。


「正確には攻城じゃない。saliveによる人類殲滅作戦。」


 蓮の代わりに舞が答える。


「saliveが現れた当初、人類は完全に蹂躙されてた。今みたいな基地を築けたのは、数年前に高階saliveが一斉に人類拠点への攻撃をやめたから。眠りにつくか、一定の周期で各地を移動する“移動行動”に移った。理由は不明。でも、そのおかげで人類は息をつけた。」


 少し間を置いて、舞は続ける。


「その後、Sprobeが権核融合技術を開発して、人類も多少は対抗できるようになった。Zeroみたいな例外はsalv6すら斬った。でも戦力差は、まだ埋められない。」


「それなのに、今は高階saliveが攻撃してきている。」


 氷宮が舞の説明を断ち切る。


 状況が悪いのは、俺にも分かる。


「じゃあ、どうすればいいんだよ……?」


 荒塚悠が苛立ちを露わにする。


「攻城なら、撤退地点は既に包囲されている可能性が高い。向かうのは危険。」


 氷宮は言いながら蓮を見る。


「通信不能。撤退地点とは連絡が取れない。」


 蓮が肯定する。


「これほど久々の攻撃行動なら、機関も黙ってない。偵察部隊は必ず来る。合流できれば、生き延びられる。」


「最寄りはグルヤ。撤退地点の方向。」


 蓮が地図を確認する。


 それも、撤退地点をあの位置に置いた理由の一つだ。


「フキョウへ。四級適応者が二人、こちらに向かってる。」


 舞が球形の装置を掲げて言う。


「意念通信能力を持つ適応者の通信機? それを持ってるとは……さすが雛原舞、雛原軍工の会長だな。」


 蓮は装置に興味を示す。


「蓮、フキョウの方角。」


 氷宮の問いで、蓮は名残惜しそうに視線を地図へ戻す。


「東南東30度、直線距離110キロ強。salv4とは方角差15度程度。直行すれば正面衝突。」


「迂回すればいい。salv4を越えれば安全。」


 舞が補足する。


「……いや。」


 氷宮はしばらく考え、首を振る。


「低階saliveはsalv4の半径一キロ外に分布している。迂回すれば、最も密集した群れに突っ込むことになる。今の権能残量では突破できない。途中でsalv4に捕捉されたら、権能を使い切った私たちは確実に死ぬ。」


「どちらの都市も無理なら、横へ逃げて野外へ出るしかない。でも包囲下じゃ補給もできない。結局、緩やかな死。」


 舞が最後の道を塞ぐ。


「……いや、もう一つある。」


 その言葉は、最も意外な人物から発せられた。バージョン・ジン。


 氷宮は彼を見て、同じ結論に至っていたかのように頷く。


「salv4の首を取る。」


 氷宮は、そう宣言した。


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