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迷子のあったかさ

 古いベンチのそばに、小さな犬がいました。

 首輪はあるのに、ひとり。

 雪の上で丸くなって、ふるふる震えています。


「……迷子だ」


 しもっこが、そっと言いました。


「あったかいものが迷子って……この子のこと?」


「うん。あったかい毛布がない。あったかい声もない。

 だから、地図が出た」


 サクはしゃがんで、犬に声をかけました。


「だいじょうぶ?」


 短い言葉。

 でも、あったかい言葉。


 サクは自分のマフラーを外して、犬にふわっとかけました。

 それから、ポケットから銀のしるしを取り出します。


 銀の糸。

 光玉。

 霜の粉。


 サクはそれらを、そっと犬のそばに置きました。


 きらり。

 ふわっ。


 光が広がって、雪の上に小さな輪ができました。

 犬の目が、ぱちっ、と開きます。

 サクを見て、ふる、と鼻を鳴らしました。


 サクはもう一度、言いました。


「だいじょうぶ。いっしょに帰ろう」


 犬が、ちいさくしっぽを振りました。


 ふり。

 ふり。


 その瞬間、犬のまわりに、きらきらが舞いました。

 まるで雪が、星になったみたいに。


 しもっこが、ふうっと息をふきました。

 銀の粉が空へ上がっていきます。


「宝はね、これだよ」


「これ?」


「元気になるときの、きらきら」


 サクは犬を抱きしめました。

 あったかい。

 ちゃんと、あったかい。


 ふと、サクは雪道の上に、うっすら線が見える気がしました。

 霜の窓の銀の地図が――今度は、外の道につながっているみたい。


 しもっこが笑いました。


「地図は窓だけじゃない。

 やさしくすると、心の中にも出るんだよ」


 サクが小さく言いました。


「……ありがとう」


 すると犬の首輪が、きらり、と光りました。

地図の終点に、宝箱ではなく迷子犬がいる。

ここがこのお話の“いちばん大事なところ”です。


「だいじょうぶ」みたいな短い言葉や、マフラーをかける行動は、特別な魔法よりもずっと強い“あったかさ”だと思います。


宝は「手に入れるもの」ではなく、元気になる瞬間のきらきら。

それを見つけられたサクは、もう地図がなくても歩けるようになります。

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