霜の窓にあらわれる、銀の地図
冬の朝は、音が小さい。
しん。
しん。
その「しん」の中で、窓がきらり、と光っていました。
サクは布団から顔だけ出して、窓を見ました。
ガラスいっぱいに、白い霜。
銀のレースみたい。森みたい。羽みたい。
「わあ……!」
サクが近づくと、台所からおばあさんの声がしました。
「触ると消えちゃうよ。見るの。見るだけで、きらきらは育つんだよ」
サクは手を引っこめて、息をそっと窓にかけました。
はぁ。
霜の模様がふわっと白くなって――その中から、細い線があらわれました。
道みたいな線。くねくね、のびる線。
角には小さな星のしるし。
ちかっ。
ちかっ。
矢印まで光ったのです。
「……地図だ」
「おばあちゃん! 霜が、地図になってる!」
おばあさんが窓を見て、ゆっくりうなずきました。
「霜の窓に地図が出る朝はね、町のどこかで“あったかいもの”が迷子の日なんだよ」
「迷子?」
「うん。あったかい笑顔。あったかい声。あったかい気持ち。どれかがね」
サクは地図をじっと見ました。
線が、ゆっくり動きます。生きているみたい。
矢印が、右を指していました。
そのときです。
霜の結晶が、ぽろっ、とひとつ落ちました。
サクの手のひらに乗って、きらり。
きらり。
結晶が、ちいさな顔になりました。
「おはよう!」
銀の帽子の、ちいさなこびと。
息をふくと、きらきら粉が舞います。
「ぼく、しもっこ。銀の地図の案内人だよ」
「ほんとにいるんだ……!」
しもっこは胸を張りました。
「急ごう。太陽が出ると、霜は溶ける。地図も消える」
そして、指を一本立てました。
「ルール、言うね。短いよ。
息を『はぁ』ってかけると、道が明るくなる。
笑うと、星のしるしが増える。
『ありがとう』って言うと、矢印がはっきりする。
触りすぎると、地図がうすくなる。やさしく、見る」
サクは大きくうなずきました。
はぁ。
はぁ。
地図の線が、ちかっ。ちかっ。
「行ける!」
サクはコートを着て、マフラーを巻いて、外へ飛び出しました。
冬の朝の霜って、ただ冷たいだけじゃなくて、よく見ると本当にきれいです。
このお話の「銀の地図」は、宝の場所じゃなくて、やさしさの場所を示す地図にしました。
“触ると消える”というルールは、きらきら(小さな気づき)も、乱暴に扱うとすぐ消えてしまう、という気持ちの表れです。
まずは「見る」「気づく」――そこから物語を始めたかったのです。




