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2 男子生徒「森川」

「なあ、今日も勉強しているのか。たまには遊びにいこうぜ」

「・・・ほっといてよ」


 放課後の教室。そこには2人の男子生徒がいた。時計の針が16時半を示していて、日の光が陰り始めていた。もうすぐ日没の時刻になる。外からは、野球ボールが金属バットに当たって飛んでいく音、掛け声、テニスボールがポンポンと跳ね返されていく音、吹奏楽部の演奏の音、この高校の生徒達が何らかの活動をしている音が聞こえてきた。教室には他には誰もいない。

「おまえこそ、部活はどうしたんだよ」

数学の副教材を開いて課題となっているページを開き、シャープペンシルをもったまま、顔を上げずに、彼は隣に立っている男子生徒にそういった。男子生徒は右腕を彼の机の上に乗せて、片足で立っている。

「そうだなあ。今日は自主的な休みって感じ?」

男子生徒は黒板の上にかかっている時計を見ながらそう言った。

「なんだよそれ。ただのサボりかよ」

彼はイライラしながらシャープペンシルを動かした。

「シュンこそ、何で部活に入らないんだ?」

男子生徒はそう言った。時計を見上げたままで、表情は分からない。

「あのさ、いつも言っているだろ。勉強をしに学校にきているんだから、部活には興味がないって!」

彼は口調を強めてそう言った。しかし、シャープペンシルの動きを止めることはなかった。

「部活には興味がない・・・か。」

男子生徒はそう言った。彼の顔を見ることなく、頭上の時計を見上げていた。

「勉強・・、本当にしているのか?」

目線を彼に向けることは無い。

「・・・。うるさい・・。頼むから黙ってくれ・・・。」

「わかったよ。悪かった」

そして男子生徒は、そのまま教室を出て行った。教室を出る際、一瞬振り返ったようにも見えたが。

教室は、外の部活の音を除けば、本当に静寂な空間となった。シャープペンシルが、副教材の紙を擦る音が聞こえる。あと数問だけ解き終えれば数学の課題は終了となる。彼は時々解答解説の該当ページを開き、読み込んでから、自分で解くことに努めた。数学は嫌いではない。頑張って解いて答えを導き出した時の面白さというものは何度か味わったことはある。得意であれば、どのくらい楽しいものであるだろう。世の中の仕組みは数学があってこそ成り立っていることが沢山ある。そのようなことを研究し、世の中に役に立っていくことができれば、それもいい人生かもしれない・・・。けれど、いくら勉強をしてみても、よく分からない。公式そのものは暗記したとしても、それがどう使えるのか、どういう意味を持ち合わせているのか。そんなことを考えているうちに授業は次々と進み、結局何をしているのかもよくわからなくなる。

・・・そんなこと以外にも、理解しようと努める自分を愚弄する自分がいる・・・

「なあ、シュンジさ」

彼は全身が飛び上がるくらい驚いた。机を膝で勢いよく押し上げ、ガタンという音が教室内に響いた。先ほどの男子生徒が彼の目の前に立っていたのだ。

「なんだよ」

彼は不機嫌そうに男子生徒の顔を見上げた。

「聞いたか?昨日のニュース。火星が数分間だけ自ら発光したらしいぜ。太陽光の反射ではなくてさ。おかしいよな。生命体でもいるんじゃないかって、SNSでバズってるらしいぞ。」

「聞いたよ。でも何かの間違いじゃないかな。」

「なんでそう思うんだい?」

「自ら光るってことは、恒星ようなの何かしらの爆発のようなことが起きないとだし・・・。火星はそもそも惑星だしね・・・。」

「そうか。でもさ、もしかしたらこんなこともあるんじゃね?」

「・・何?」

彼はさらにイライラしてきた。男子生徒はニヤッとして言った。

「実は宇宙人がさ、火星に住んでいて、何かしらの爆発を行った・・とか?」

「・・・・。」

彼はため息をつく。

「・・・火星は、太陽からの距離的にはめぐまれているけれど、重力が足りないせいで十分な大気や水を留めることができなかった。大気と水が無いと生命は誕生できない。そんな中、いきなり宇宙人がいるだなんて、無茶苦茶だ」

「・・・ごめんよ~。そんなに怒らないでくれよ。ただの俺の空想だってさ」

男子生徒はおちゃらけてそう言った。彼は相変わらずイライラしている。

「あっ・・。おいシュンジ。合奏が終わったみたいだぞ」

彼の動きが一瞬止まる。確かに、先ほどまで聞こえていた吹奏楽部の合奏の音が消えている。そろそろ顧問による総括が行われ、各部員は帰宅の準備を始める。

「・・・。しまった。きょうは早終わりで、完全下校の日か。もう帰ろう・・・」

彼はそう言うと、教材と筆記用具を鞄の中に入れた。男子生徒は時計をちらちらと見ながら彼の様子を見ていた。

 彼の名前は森川俊次という。高校一年生。そこそこの進学校に進学をし、勉強に一応励んでいる。出身の中学校の校区からは30km以上離れており、電車で通学をしている。この学校は県内の端の方であるため、その他の高校からも距離が離れている。彼の校区の中学校から進学をする人はそんなに多くはないため、一緒に入学をした同級生は数人しかいない。その数人もそこまで交流をしたことはなかったためか、入学当初は話をしたものの、もうとっくに新しい級友のところへ行ってしまった。もっと勉強ができる人達は、彼の校区から5kmほどの距離しかない県内で上位に入る進学校に進学して行った。勉強ができることと性格がいいことは必ずしも比例はしない。彼はそう思っている。俊次の隣にいるのは、コウスケという男子生徒だ。別の中学校から来て、たまたま同じクラスになった。あることがきっかけで知り合うことになり、何故か俊次の近くにいることが多くなった。明るい性格でもっと他の陽キャ達とつるんでもいいようにも思うが、本人はあまり興味がなさそうである。サッカー部に所属しているのだが、あまり行ってはいないようだ。部活くらいちゃんといけよ。と俊次は思うが、人のことを言える立場でもない。

 俊次は、昇降口に着いた。まだ17時ではあるが、辺りは暗くなり始めている。ここ数年の暑すぎる夏がようやく終わり、涼しさを感じられるような季節になった。

今日は週一回設定されている、部活動の早終わり日であった。教員の負担軽減のために設定されたもので、本来は部活動の休養日となるそうなのだが、学校内で早終わりという形で活動実績をそれなりにごまかしている。部活外の生徒も17時半には完全下校をしなければならない。働き方、世間の目、色々と難しい時代になっているようである。彼は、この日のことをつい忘れてしまっていたので少し焦り気味で靴を履き替えた。コウスケはどこに行ったのか分からない。まあ、いつものことだ。足早に昇降口を出て足早に校門に向かって行く。・・・しかし、懸念したことは起こってしまった。

「森川くん!」

後ろから声を掛けられる。彼は動きを止めた。しまった。普段はそのようなことが無いように帰っているのだが、今日は完全に駄目だ。逃げてもおそらく追いかけてくる。だから、断念した。

「あ、いや、どうも。川端さん」

たどたどしくそう言いながら振り返る。昇降口に彼女は立っていた。スクールバックを右手に持ち、とても姿勢よく立ちながらまっすぐこちらを見つめている。白いコートを着ており、綺麗に磨かれたローファーを履いている。膝が隠れる程度まで伸びたスカートを履いており、タイツは履いていない。肩までかかる髪が秋風によってなびいている。まあ、なんというか・・、顔立ちやスタイルは悪くはない。清楚系っていう表現が当てはまるだろうか。事実、男子にはその容姿から、人気がある女子生徒である。ただ、少し不思議なのである。大多数の女子は、学校生活が慣れてきたタイミングを見計らい、校則があるのにも関わらず化粧やスカートを膝上まであげるといった行動をはじめていく。思春期特有の現象ではあるようである。世間の女子はみんな「かわいい」という行為や見栄えに必死になっている。彼はそんな話をネット記事で見たことがあったことを思い出した。まあ真意に関しては他人だから知ることはない。ましてや異性なんて生物学的には別の生物と考えてもいいと思ったことさえある。それに反して、彼女はそのようなそぶりは全く見せない。化粧もさることながら、まつ毛、爪に手を加えている様子はなく、スカート丈も入学当時のままだ。スカートを短くするために折り曲げた跡も全くない。

「演奏の音は聞こえた?」

そう話しかけてくる。

「ま、まあね。放課後の教室だからね」

なるべく素っ気なく答える。

「どうだった?」

「どうだった。って・・・」

返答に困ることを聞いてくる。彼にとっては関わりのないことだ。というか関わりたくないことだ。

「まあ、いいんじゃないの?」

彼はとりあえずそう答えることにした。

「・・・そう」

彼女は下を向きながらそう言った。そして顔を上げる。

「あの・・。一緒に部活やらない?部員募集中でさ・・・」

「・・・。前も言ったけど、入らないよ」

彼は再び素っ気なく答える。なるべく素っ気なく。

「・・そうだよね。・・・うん。じゃあね」

彼女はそう言って、後ろに向きを変え、なぜか昇降口の中へと戻って行った。彼はしばらくそのまま立っていたが、やがて校門へと歩き、帰宅をした。

 彼女の名前は川端美奈という。吹奏楽部に所属している同級生。トランペットを中学校から続けており、今はセカンドとして演奏に参加している。実力はどうかというと、あまり実績は残していない。続けている理由は、トランペットが好きだから。であるそうだ。それは彼にとっては理解に苦しむ理由でもある。男子にはちやほやされることもあるようだが、友達はあまり多くないようでもある。ちょっと変わっていると周りの人が言っていることを聞いたことがある。確かに、周りの女子のようにオシャレや流行りには興味が無さそうではある。なのでそういった集団の中に入ることは無いことも納得できる。だけど、それだけなのだろうか。それだけでも無いような気がする。ただ、接触の機会があるたびに部活に勧誘してくるのは勘弁してほしい。そんなことを考えながら、彼は自宅までの道を歩いていた。

「・・・・ん?」

見上げていた空は夕方である。日が沈み、星の光が少しずつ増えてきている。その中一つの星に、彼の目が釘付けになった。

星の動きがおかしい。

流れ星か?それとも人工衛星か?いや、人工衛星は一定の速度で地球を周回しているため、このような動きはしないはずだ。その明るい光は、速くなったり遅くなったりを繰り返し、円を描くように動いていた。最近流行りだしたドローンショーの一部では無いかと考えてもみたが、高度が半端なく高い。ドローンは対流圏どころか数十kmの上空も飛行はできないだろう。それは2分ほど続き、やがて消え去った。周りに人はいなかったので、自分の目が正しいか確認することはできなかった。そういえばさっき、コウスケは火星が発光したニュースを言っていたな。何か関係しているのだろうか。でも、今は検証のしようがなさそうだ。もし本当にあったとしたら、今日のコウスケが言っていたように、SNSやテレビニュースになるだろう。場合によっては。オカルト系の雑誌で話題になるはずだ。

彼はそのようなことを考えながら自宅へと再度向かった。バスと電車を乗り継ぎ、1時間半はかかる距離を進み始めた。



「・・・フェーズ1、送信完了。受信者が存在していることを、祈る」

誰かは、そう囁くように見せた。


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