第五話 切る
「なつきさん、あなた憑いてるわよ」
四限目が終わり、日直のきみつきが先生に付いていったのを見送って少し後。お弁当の準備をしていたらクラスメイトに話しかけられた。
「竜胆さん。ついてるって何? ゴミ?」
「……分からないの? あんなに……」
僕が怪訝な顔をしていると彼女は続けて言った。
「まあいいわ。あなた、いつから彼と一緒にいるの?」
きみつきのことだろうか。
「中学生のとき」
「そう。彼は変わった?」
「どうしてそんなことを聞くんだよ」
「いえ、気になっただけよ。最近だけでも、考えてみてほしいの。それと……これ、あげる」
「何これ。飴?」
渡されたのは、親指の爪くらいの大きさをした透明な飴だ。
「すぐ食べきってね。誰にも言わないでよ」
竜胆さんは何かを気にするように辺りを見回すと「じゃあね」とポニーテールを翻して去っていった。飴は少し塩気があって美味しかった。
帰り道、竜胆さんに言われたことを考えた。
きみつきが変わったか、って? 変わってないさ。彼はずっと――彼だった筈だ。
だけど、何故だかちらつく神社のあの人。昔彼のことを話したら、きみつきにやきもちを焼かれて、今は君だけって言ったのを覚えてる。初めて会った時からずっと変わらないあの色で、僕はきみつきが大好きで。薄くなっていく世界で、一つだけのその色は僕の世界の道導だ。
いつから一緒にいるかとか、なんで一緒にいるかとか、考えるまでもなく当たり前で。気付けば隣にいて、ずっと一緒で。
――いつかの帰り道、不意にきみつきが言った。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
頬を緩めて僕を見つめる、恋慕う顔がとても美しかった。
「僕の方こそ、一緒にいてくれてありがとう」
繋ぐ手が絡まると、周りが一層鮮やかになって。
「ずっと一緒にいたいね、なつき」
「そうだね、きみつき」
交わした約束、結んだ手。温かかった。
僕の世界にはきみつきだけ。それでいい。彼には当たり前みたいに好きが言える。つき合おうって言ったかどうか記憶にないけど、僕達はそういうもの。もうずっと一つだ。それがいいんだ。いつまでも一緒にいたい。
――その日の晩。僕は寝ていた筈なのに気が付くと天井を見つめていた。
やけに落ち着かなくて、何かするべきだという感情が増幅する。それでも、その何かは分からない。ただ、何かが違う。間違っている気がするんだ。
曖昧な世界から離れようとしたのか、無意識にもがいたのか、僕は……分からなくなってしまった。
世界は、僕は、本当は何だった?




