第十七話 これから
あれから鬼見月は学校を辞めた。クラスで彼の名前が出ることはないし、机も何もかもなくなって、初めから誰もいなかったみたいだ。どうやらみんなは彼との記憶を忘れたらしい。
ただ
「夏気く〜ん。それからどうなんよ、仲は」
左側から烏丸さん。
「べ、別に。良好だよ」
「こら烏丸、そう人の恋愛事情について細かく聞くものではないわ」
右側から竜胆さん。
「夏気さんにも言いたくないことがあるかもしれないのに」
「でもいつも夏気くんが喋り出したら色々聞いとるやん。興味あるんやろ?」
「そ、それはっ……」
この二人は違う。
あの事件で仲良くなって、今では一緒に昼食を摂るのが日課だ。一階の渡り廊下の階段がいつもの場所と決まっている。もう風が寒くなってきたから場所を変えてもいい気がするんだけどな。……いや、まだ少し残っている秋の色を眺めるのも悪くないか。
「じゃありんちゃんの恋バナ聞かせてや〜」
「えっ、わ、私⁉︎ わた、私は別にそんなの……」
口籠る彼女に
「嘘吐きぃ。夏気くんも気になるやろ? なっ?」
とウキウキした目で身を乗り出した烏丸さんは言う。
「いつも僕の話ばーっかりだもんね。竜胆さんのも聞かせてよ」
「そんな、な、ないわよっ。烏丸のを聞きなさいよっ」
「うちないもーん」
「だってさ?」
「な、なんでよ〜っ」
今日もちょっと騒がしくて、明るくて、楽しい僕の世界は、あの日みんなと取り戻したもの。彼女達にはとても感謝している。それから、消えないでくれた鬼見月にも。
もう、彼だけが一番であることを望もうとは思わない。それに、一番なんていくつあってもいいんだ。ハンバーグも、友情も、愛も、季節も、色も……。好きなものを好きなだけ「好き」と言いたい。だから、それを望めるこの穏やかな世界が、ずっと続くことを願ってる。
第二章まで読んでくださりありがとうございます。
次話から終章です。




