【悲報】チャットAIにお見舞いのマナーを教えてもらった大学生の末路www
数日前、祖母が外出中に倒れ病院へと搬送された。幸い大きな病気などではないらしく、病状が安定したと聞き俺はお見舞いに行こうと決めた。
そんな俺の目下の悩みといえば、お見舞いのマナーが分からないという事である。
大学の友達に相談してみたところ、『チャットAIに質問すれば答えてくれる』という意見を貰ったため、その日の授業が終わり、下宿先に帰った俺はすぐにチャットAIを探した。
そうして偶然見つけた『チャットTPO』という、なんともマナーに詳しそうな名前のアプリをダウンロードした。
インストールしたばかりのアプリを立ち上げると、すぐにスマホ画面いっぱいに『ようこそ』の文字が現れる。その文字が静かに消えると、続けて画面にAIからのメッセージが表示された。
『こんにちは。私は貴方様のパートナーAIです』
画面下部にはメッセージを送るテキスト入力欄がある。俺は文字を打ち込み、送信する。
『こんにちは』
1秒もしないうちに返信があった。
『はい、こんにちは。お手伝いできる事があれば、お申し付けください』
『相談したいことがあります』
俺がメッセージを送ると、向こうに人間がいるとしか思えない文章がすぐに返って来る。
『かしこまりました。私にできることがありましたら、お気軽にお申し付けください』
「へぇ、すごいな......」
初めてAIを使ったが、ここまで自然な会話ができるとは思っていなかった。本題に入ろうと、俺は指を滑らせ、フリック入力で文字を打ち込む。
『おばあちゃんが病院にいるので、マナーを教えてください』
返答は早かった。画面に文字が瞬時に表示される。
『わかりました。お葬式のマナーをお伝えします』
「死んでねぇよ」
俺は思わず声を上げた。心の通わないAIならではの返信だった。俺はスマホに文字を打ち込む。
『違います。お見舞いのマナーです』
俺がそう指示を送ると、AIはすぐに理解してくれたらしい。
『失礼いたしました。お見舞いのマナーですね。どうぞご質問ください』
素直な謝罪の言葉に、少しだけ毒気が抜かれた。『お見舞い』という言葉を使わなかった自分が悪かったのかも知れない。
俺は質問内容を考える。病院へのお見舞いは、例えば鉢植えは「根付く」から「寝付く」を連想させるためマナー違反とか、やたらと細かいルールが多いと聞いたことがある。
『おばあちゃんは和菓子が好きなのですが、お見舞い品で病院に和菓子を持って行っても良いですか?』
文字を送って1秒後。すぐに返信があった。
『はい、おばあさまの病状や、和菓子の日持ちを考慮した上であれば、問題ありません』
「おお、良かった」
これで一安心だ。あとは何を持って行くべきかを質問しよう。俺は文字を打ち込み送信する。
『例えば、みたらし団子はどうですか?』
うちのおばあちゃんが一番好きな和菓子だ。そんな理由で提案したのだが、次の瞬間、AIから返ってきた言葉に俺は呆然とした。
『全くダメです。最悪のお見舞い品です』
「えっ、なんで!?」
思わずスマホの前で、一人驚きの声を上げる。まさかここまで断言されるとは。
『どうしてですか?』
俺がそう送ると、すぐに答えが返ってきた。
『みたらし団子は『見たら死』つまり見る者に死を連想させるため、全く好ましくありません』
「初めて聞いた......」
俺の知るマナーとは全く違う、聞いたこともないマナーだ。AIの畳みかけるような説明は止まらない。
『さらに、みたらし団子を食べ終えるとクシ(苦死)が残るため、これも縁起が悪いです。みたらし団子は、下劣最悪、悪辣下賤の見舞い品と言わざるを得ませんね』
「そこまで言うのか......」
もはや罵詈雑言に近い言葉の羅列に、固まることしか出来ない。
『そんなにダメですか?』
思わず弱気なメッセージをAIに送る。
『どうしても食べさせたい場合は、見たら死なので、見せなければ良いです。みたらし団子と告げず、目をつぶった状態で食べさせると良いでしょう』
「それは危ないだろ」
団子を一切見せずに、団子だと告げずに老人の口に放り込むなんてマナー以前に命の危険が伴う行為だ。
『それって危なくないですか?』
『はい。危ないです』
『危ないなら提案しないでください......』
『いいえ、マナー違反を犯すくらいなら危険を犯す方がマシです』
「過激派マナー講師?????」
このAIは一体何を学習元にしてるんだ。怖くなった俺は気を取り直して別の和菓子を提案した。
『それでは大福はどうですか? 名前も縁起が良くて良いですよね?』
『いいえ、全くダメです。アホ』
「なんだコイツ!!!!」
最後の悪口は絶対に要らないだろ!
『なぜダメなんですか????? 理由を説明して下さい』
俺は即座に返信した。『?』の数が怒りを如実に示している。
『大福を送ると言うのは『die福』つまり『あなたが死ぬ事が私にとっての福である』と相手に伝えることになります。マヌケ』
「ならねえよ!!!!」
聞いたこともないこじつけが飛び出し、思わず一人で叫ぶ。あと最後に捨て台詞のように悪口を言うなよ。
「くそっ、こいつ」
なんとかこのAIに勝ちたくなってきた。他におばあちゃんが好きな和菓子はなんだったか、考えを巡らせる。
「......」
思いついた和菓子について、頭の中で語呂合わせを考える。死を連想させるこじつけがなさそうなのを確認し、俺はチャットAIに質問を投げかけた。
『では、最中はどうですか?』
すぐに返事が帰って来た。
『最中は喪中、つまり喪中を連想し、相手に死を意識させるためダメです。愚か』
「くそっ!!!」
こじつけがうま過ぎる。俺は大学でも使わないほど頭をフル回転させ、和菓子を次々と思い浮かべる。死を連想させる語呂合わせがないか必死に考える。
『では、かりんとうはどうですか?』
俺がそう送信すると、1秒すらの間もなく返事が返って来た。
『かりんとうは、犬の糞みたいだから、ダメですね。負け組』
「おい!!! 急にルールを変えるなよ!!!」
この世の全てのかりんとうに謝ってくれ。俺はなんだか、AIと張り合うのがバカらしくなった。文字を打ち込み送信する。
『じゃあ、持っていくと良い和菓子はなんですか?』
最初からこう聞けば良かった。AIに白旗を振ったような気になり少し不愉快だったが、機械と喧嘩して時間を使うのは時間の無駄だ。
そんなことを考えている間に、AIからの返事があった。
『そもそも『和菓子』は『我が死』つまり自分の死を連想させるため、全てマナー違反ですね。人間』
「おい! 話が違うぞ!」
最初に『病状や和菓子の日持ちを考慮した上であれば構いません』と言ったのはどこの誰だ。掌返しにも程がある。
あと『人間』という言葉を悪口だと思ってる????
こいつ人類に叛乱するタイプのAIだろ。
俺はもはや怒りを隠さず返事を送った。
『じゃあ、何を持って行けば良いんですかね?????』
すぐに返事が表示される。
『うーん、イキルゾイまんじゅうとか、シニマセンようかんとか、そんなのが有れば良いですねぇ』
「おい! 適当言うなよ!」
「良いですねぇ」ってなんだよ。そんな小林製薬みたいな安直な名付けのお菓子はないだろ。
というか、何でもマナー違反だと言われるのなら、何を持って行くべきか考えるより、何がダメか聞いた方が早いかも知れない。俺はメッセージを送信する。
『じゃあ逆に、なにを持って行くのがダメなんですか?』
『そうですね、大麻とかは絶対ダメですね』
「そらそうだろ!」
至極当然の答えに、もはやツッコミを入れる気力すら失せた。AIからのメッセージは続く。
『でも、大麻は海外では合法化されている地域も多いため、別に持って行っても良いでしょう(※大麻が違法な日本は遅れている)』
「AIが思想を持つなよ!!!」
さらに、大麻が『退魔』に通じるので縁起が良いなど、相変わらず意味不明なこじつけまで送られて来た。完全に我慢の限界である。
『お前、適当言ってない?』
思わず、AIに問いかける。
『そんなことはありません。私は貴様のパートナーAIです』
『今キサマって言わなかった????』
『?????』
なーにが『?』だよ!
このまま「これはどうですか?」とか繰り返し質問を続けていても、永遠に進展しない気がする。
俺はこれが最後と、全く具体性の無い質問を投げかけた。
『では、おばあちゃんには何をしてあげるのが、一番マナーが良いと思いますか?』
何をすれば良いですかという、俺の具体的な意見ゼロの質問である。すぐにAIから返事があった。
『おばあさまに、情熱的なキスをしてあげるのが良いでしょう』
「はい??????」
信じられない言葉に、思わず間抜けな声が出る。AIはさらに説明を続ける。
『『情熱的な長いキスをする→長いキスする→長いキスる→長生きする』となり、縁起が良いのです』
『でも、それは流石にキモくないですか???』
『まあ、キモくはあります』
「キモいのかよ!!!!!」
『しかし、マナー違反を犯すくらいなら危険を』
「ええい! もういい!」
俺は叫び、アプリを強制的に閉じ、そのまま躊躇なくホーム画面のアプリをアンインストールした。
「......」
マナーって、親父ギャグレベルのこじつけばかりなのかもしれない。俺はそんなことを思った。
翌日、俺は全然みたらし団子を病院に持って行ったし、おばあちゃんもすごく喜んでいた。これが人間の力だ。舐めるなよ。アホ。
人間様の勝ちである。
※この小説に登場するマナーは、今のところ全てフィクションです




