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4.ディアン様

 就寝前の祈りの時間になった。私はフンと気合を入れて、背筋を伸ばして漆黒の扉を開く。いつもの通り、蜜蝋燭の温かな灯火が迎え入れてくれたが、ディアン様が項垂れて手を組んでソファに座っていたので慌てて駆け寄った。


「ディアン様?!」


 俯いてブツブツと何かを呟いているので、耳を近づける。


「もう駄目だ。お終いだ。レイラに嫌われた」


 どうやら私が泣きつかれて眠ってしまったことを、自分が傷付けたと勘違いしているようだった。あなたは悪くないの。私は腹に力を込めてありったけの声でディアン様を呼んだ。


「ディアン様!」


 ビクリとディアン様の体が跳ねる。漆黒の髪の間から覗く虚ろな金の目と視線が合い、私はにっこりと笑いかけた。


「レイラが参りました」


 組んでいるディアン様の手に自分の手を重ねると、段々とその目に生気が戻ってくる。ディアン様はゆるゆると両腕を伸ばすと、私を抱き寄せた。


「あぁ。レイラ、レイラ……」


 祈りの言葉のように私の名を呼ぶディアン様を愛おしく思いながら、その背に手を添えて抱きしめ合う。


「ディアン様。私のために怒って下さったんですよね?」


 戸惑った様子で長い髪をさらさらと鳴らしながら、ディアン様はこくりと頷いた。


「ありがとうございます」


 身体を少し離して感謝の言葉を述べると、ディアン様は首を傾げながら私の話に耳を傾けた。


「自分のせいで王都の民が苦しんでいると責任を感じました」


 静かにそう言いながら、甘えるようにディアン様の膝に頭を預ける。ディアン様の手に優しく髪を梳かれながら話しを続けた。


「でも、父と母から私のせいじゃないって。殿下の発言のせいだと」


「あぁ。奴は我が伴侶を貶めた」


「世界の半分を滅ぼさず、王都のみで我慢しているのは立派だと母が褒めていました」


 顔を上げていたずらに成功した子供のような笑顔を向けると、ディアン様は一瞬面食らった顔をしたが、直ぐに口元に弧を描く。


「父には殿下の発言で民が苦しんでいるのだから、その責は彼にあると言われて心が軽くなりました」


「レイラ……」


「今後、50年は王都に夜は訪れないのですね」


 私の質問にディアン様は頷いた。もし、王都を移したとしても、次はそこに夜が訪れないのだろう。50年。人間には長い時間だ。

 夜の神に関する疑問は解消されたが、太陽の神に関してはどうなるか分からず不安な気持ちは変わらない。 


「姉上の件だが」


 ディアン様の声に顔を上げると、顎に手を添えてこちらを見下ろしていた。


「近々、ベネットがここに訪ねてくるらしい」


「ベネット様が……」


 ベネット様から今回の殿下たちの沙汰を聞くのは正直怖いが、王都からこの神殿は大分離れているので心の準備をしておかないとと考えていると、ディアン様は私をひょいと抱き上げて横抱きで膝に乗せる。


「まぁ、直ぐには殺さんだろうから安心しろ」


「ころ……?!」


 物騒な単語に思わず飛び上がると、ディアン様は人を食ったような笑みを浮かべた。


「レイラは優しいな。そこが好きだ」


「こ、殺しちゃ駄目です!」


「ははは。一応、姉上には我が伴侶の要望を伝えておこう。簡単に殺さずじわじわ苦しめろと」


「いいいいい言ってません!!」


 私の慌てふためく様子に、ディアン様は楽しそうにくつくつと笑う。父と母が私の笑顔を好きなように、ディアン様の笑顔が好きだわと考えながら、その身体に頭を預けた。 

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