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王太子殿下にお譲りします  作者: 蒼あかり
恋を知らない氷の令息(マルクス編)
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5 マルクス視点

婚約者であるアリーシャ・ハミルに会ったのは、ハミル家へ婚約の契約を結びに訪問したときだった。

俺が王国学院を卒業後、家名同士の政略結婚として両家で結ばれたものだ。


2歳違いの彼女の存在を知ったのは学院在学中のことだった。


王太子殿下の側近として近くに侍る以上、爵位のある貴族の家族構成は概ね頭には入っていたが、さすがに子供である令息、令嬢の顔と名前は一致しない。

なので、学院在学中は違う学年でも学生に関しては全て掌握していた。

その中にアリーシャの存在も確認していたのだ。


アリーシャは特段目立つ容姿でもなければ、侯爵家という高位貴族ではあるが派閥で群れることもなく問題行動もない。成績も上位下部くらいで、特別優秀でもなければさして問題にするほどでもない。ただ、令嬢にしてはかなり頭の良い部類に入るだろうくらいの印象でしかなった。

俺が3年生、彼女が1年生での1年間を同じ学び舎で過ごしたわけだが、たぶん会話を交わしたことはないと思う。

なので、婚約の話が出た時も「ああ、そんな子もいたな」くらいの感じでしかなかった。

ただ、ハミル侯爵家の強い押しがあったとは聞いた。


ハミル家は侯爵領地の他に隣国などとの貿易商もしており、かなり羽振りの良い家系であることは貴族間の中では夙に有名である。

我が家は王家の血筋に由来する公爵家であり、現ジニア公爵である父は、貴族議員をしている。

俺はと言うと王太子殿下の旧知の仲であり宰相候補であることから、貿易などの利点から我が家との縁を結びたいのだろうと考えた。


初めてハミル侯爵家へ父上と赴いた際、ハミル侯爵と侯爵夫人の隣で恥ずかしそうにしているアリーシャに会い、その時もやはり普通だなという印象しか持てなかった。


派手で浪費癖のある妻は後々問題になるし、社交的過ぎるのも派閥などで揉める原因になるので遠慮したい。ただ、公爵夫人ともなれば、社交の付き合いは必須であり、その中でも貴婦人同士の付き合いなどは才覚のある人間でなければとてもじゃないが勤まらない。

あまりにも彼女は普通すぎて、それができるのだろうか?といささか心配にはなった。


二人でハミル家の庭を散策していた間も、終始恥ずかしそうに俯きながらたどたどしい会話しかしていない気がする。

やや不安を感じないわけではないが、父が良しとした令嬢である。

俺に異論はなかった。



俺は元々異性に対して強い興味があったわけではない。

アルバートの側にいるようになり、政治に興味がでるようになるとそちらの方に生活や勉強の重心が移り、令嬢からの誘いも面倒くさいと感じるようになっていた。


たぶん、親の決めた相手になんの疑問も待たず結婚し、子どもを何人か作り責任を果たした後はそのまま流れるように生活をするのだろうと漠然と考えていた。

俺は仕事をし、妻は子供を育て公爵家を守ってくれさえすれば後は何をしても良い。

醜聞の声が聞こえないようにしてさえくれれば、自由にしてもらって構わない。

そんな人生を想像したいたのだ。



初めての訪問の後、最初の心象が肝心だと母親にせっつかれ、次の週にはハミル家への訪問の打診を送っていた。


2回目に訪問した時、玄関の前ですでにアリーシャが待っていてくれた。

その日は庭の中央にある四阿でお茶をすることになり、中央のテーブルの上には軽い軽食や、焼き菓子などが置かれている。

紅茶を飲みながら近況報告や、自己紹介に値するような会話をする。

前回とは違い、彼女も気を使っているのか会話が途切れることはなく、彼女のことも少しは理解できたような気がする。


しばらくして庭を散策していると、アリーシャは自分の両親のように仲の良い夫婦になるのが夢だと話し出す。政略的な結婚であるのは承知しているが、それでも心を通わせた夫婦になれれば良いと思っていると、耳まで赤くしながら恥ずかしそうに話す姿は年頃の令嬢らしく可愛らしいと好感を持った。


「私の両親も仲が良い方だと思います。私たちは家同志の縁組とはいえ長い人生をともに歩く以上、労りあえる関係を築けたらと思っていますよ。」

そう言うと、赤らめた顔を笑顔でいっぱいにして顔を覗き込んでくる。

ゆっくりと関係を築けていけたら良いと思い始めていた。



そうして何度か顔を合わせるうちに、アリーシャはおとなしそうな印象とは違い、明るく芯の強い女性であると知った。

侯爵令嬢として派手さや傲慢さなどは全くなく、むしろ控えめであるにもかかわらず自分の考えをちゃんと持っている。素直でしっかりとした教育受けていると感じさせられる。

父の見る目は確かだった妙に感心した。


何回目かの顔合わせの時、ハミル侯爵と夫人とともにサロンでお茶をする機会があった。

いつもよりも若干大人し気味なアリーシャだったが、ハミル侯爵はそれを面白がり、からかうように

「マルクス殿、うちのアリーシャは侯爵令嬢らしくできておりますか?」


ん?たぶん、思うところがあるのだろうと無難な返答をしてみる

「はい、素敵なお嬢様と縁を結べて感謝しております。」


「そうですか、それは良かった。安心しました。家の中と同じように令嬢らしからぬ振る舞いをしてはいないかと心配だったのですよ。なあ?アリーシャ?」


「お、お父様、、、何を?そんな、私は、、、もう、マルクス様の前で言わなくてもいいではないですか。もう、口をききませんからね。」

そう言って父親に向かってポカポカと拳を振り上げる。


「おいおい、それが令嬢らしくないと言うんだよ。参った、まいった。」


そう言われて「は!」としたのか、急にしおらしく姿勢を正し、顔を赤らめて俯いた。


なるほど。今の姿が本当の姿で、今までの姿は猫をかぶっていたわけか。と、理解した。

まあ、親子間でのじゃれ合いなど普通だろうし、そこもまた若い娘らしくて良いのではないか?と思えてしまうくらいには、彼女に好意を持ち始めていた。


とんだたぬきに化かされたと言うわけか。ま、それも悪くはないな・・・



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