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王太子殿下にお譲りします  作者: 蒼あかり
恋を知らない氷の令息(マルクス編)
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3

「いつもマルクスが忙しくてすまない。奴が忙しいのは俺のせいでもあるから。

アリーシャ嬢にはいつも申し訳なく思っているんだ。」

「そんな、殿下のせいではありません。執務が忙しいのはお立場上当然のことです。」

「そう言ってもらえると少しは気も楽になるかな。」



「婚約者としてちゃんと時間は取れている?二人の時間はあるの?」

「マルクス様とは婚約してまだ1年ほどですので、お会いする時間が多いわけではありませんが、それでも大変よくしてもらっていると感謝をしております。」

「そうか、なら良かった。二人の邪魔はしたくないからね。」


庭園の中を少し距離をおきながら二人歩く姿は、それはそれは初々しいものだった。

二人とも視線を合わせないように俯きがちに歩く姿は、恋が始まりかけの恋人たちに見えたかもしれない。


「アリーシャ嬢、今日は突然に申し訳なかった。こんなつもりではなかったんだが。

なんというか、突然でこんなことになってしまって。」

「アルバート殿下のせいではありません。お気になさらないでください。」

そう言ってアリーシャは俯きがちに無理に作り笑いを浮かべる。


「殿下、せっかくですから庭園を案内していただいてもよろしいですか?

私まだ奥の方へは行った事がありませんの。まだ見たことのない花があると聞いております。一度見てみたいのですが。」

顔を上げ、アルバートの顔を覗き込むように視線を合わせる。


「ああ、キレイな花がまだまだたくさんある。ぜひ、見て行ってほしい。

足元が少し悪くなるから、良ければ手を・・・」

そう言ってアリーシャに手を差し出す。

「ありがとうございます。」

そう言ってアルバートの手を取り、庭園をゆっくりと散策するのだった。


「まったく、なにやってんだか?」ルドルフは声に出さない言葉を発した。


二人が庭園をゆっくりと歩いている。時間も過ぎ辺りは少し薄暗くなり始めた頃


「殿下、辺りも暗くなってまいりました。そろそろ・・・」

ルドルフが声をかける


「ああ、そうか。アリーシャ嬢、楽しくて時間を忘れてしまいました。申し訳ありません。

馬車までお送りしましょう。」


そう言って宮殿に戻ろうと踵を返そうとすると

「あの、殿下。」アリーシャがアルバートに強い口調で声をかける

「アリーシャ嬢?」何事かと振り返ると


「今日のこの場はマルクス様のご意思なのでしょうか?」

俯きがちな今までの視線とは違う、強い意志を持った目でアルバートを見つめる。


どうしたものかと思案したが、嘘をついても仕方ないと腹を決め


「どうやらマルクスはあなたと私の仲を取り持とうと思っているようだ。もちろん私はそんな事は考えていないんだが。」

「仲を?それは、どういう?私はマルクス様の婚約者なのでは?」

アリーシャは淑女らしからぬ、眉間にしわを寄せ納得のいかない顔をする。


「隠しても仕方ないから正直に言うと。実は、私はアリーシャ嬢の事を気に入っているのです。」


「?・・・私を?」


「あ、いや、なんというか、憧れのようなものです。ご令嬢方が恋愛小説の挿絵の絵姿に憧れたり、舞台俳優の男優にときめいたりするのと同じで、あなたの容姿が私には好ましいのです。もちろん、それ以上の思いはありません。

いつも執務室でマルクスとふざけながらそんな話をしているものだから、彼はどうやらこんな大それたことを思い立ったらしい。私のせいだ、申しわけない。」


「そういうことですか・・・」


「これからマルクスにあったら、ちゃんと言っておく。今後このようなことは必要ないと。

だから、どうか心配しないでほしい。」


アリーシャは少し考えこんだように視線を下にずらしたあと


「殿下、マルクス様へは何もおっしゃらなくて大丈夫でございます。

マルクス様がそのようにお思いなら、私はそれに従うまで。いかなる未来も受け入れるつもりでおりますので。」

アルバートの瞳を見据えて強い意志を持って告げる


「いや、それではあなたの気持ちが・・・マルクスを想ってはいないのですか?」


「私たちの縁は政略的なものでございます。それは重々承知しておりました。でも、それとて長い年月夫婦であるのならば情を通わせられればと思っておりましたし、私はマルクス様をお慕いしておりました。でも、当のマルクス様にその意思がないのであれば、早いうちに考えなおした方がお互いの為ではないかと思い始めてきました。」


「いや、それはちょっと待って。あまり思い詰めて早まらない方が良い!!

私はアリーシャ嬢とどうのとは思っていないのだから。」


「あら?私の容姿を気に入ってくださっているとの、あの言葉は嘘でございますの?」


「え?いや嘘ではないが、その、なんだ、だからと言って一緒になりたいとか、そんなことは全然、いや、全くではないが、その、あの、、、」


「全然可能性がなくはないのであれば、どうか私とのこともお考えくださいませ。

私はアルバート殿下の事は尊敬に値するお方だと心より思っております。」


「ああ、うん。そう、ですね。はい。」


「殿下!本当ですか?私との事も真剣にお考えくださいますのね。光栄でございます。

そうだわ、お手紙をお出ししてもよろしいですか?」


「え?手紙?ああ、うん、良いんじゃないかな?」


「では、お手紙を出せていただきます。よろしければ殿下からもお返事をいただけると、嬉しいのですが。」


「ああ、うん。返事、出し、ます。」


「嬉しい!!殿下ありがとうございます。お待ちしておりますね。ふふ。

まあ、そういえばもうこんな時間でしたわね。私すっかり長居を致しまして申し訳ございません。殿下、それではここで失礼させていただきます。ごきげんよう。」


「あ、うん。ごきげんよう。気を付けて。」


アルバートは呆気に取られて呆然と返事をするだけだった。


「殿下、ご令嬢をお送りしてまいります。」ルドルフが声をかける

「うん、ルド、頼むよ。」

「かしこまりました。」




アリーシャはお茶会で何度か通いなれた宮殿の廊下を少し急ぎ足で歩き出す。

その少し後ろをルドルフがついて歩く。


すると突然、

「ルドルフ様でよろしかったでしょうか?」前を見据え、歩きながら声をかける


「はい。アルバート様付の護衛騎士にございます。」何を話す気だ?と身構える


「マルクス様にお会いしたらお伝え願えますか?」

「はい、何なりと。」


「しばらく、距離を置かせていただきたい、と。」


「・・・・・・・確かに、お伝えいたします。」


「ありがとうございます。」


(あー、あー、どうすんだよ。これ。俺は知らんからな。)

腹の中でマルクスに向かって叫ぶルドルフだった。


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