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庭園で王妃主催の茶会が開かれている。
王妃関係のご婦人方がほとんどだが、中には王太子であるアルバートの妃候補の令嬢も含まれる。
その中にマルクスの婚約者であるアリーシャも参加することが多い。
そろそろ茶会も終わるなと思いアルバートに声をかける
「アル、そろそろ茶会も終わる頃だ。息抜きに庭園の方に行くか?」
「え?いや、それはさすがに・・・だって、ストーカー・・・」
一国の王太子が何をもじもじしてるんだか。まったく。と言うのは腹に置き
「俺は婚約者殿に顔を見せに行く。お前もついてくるか?」
「いいのか?」満面の笑みで返してくる
「少しくらい息抜きしてもいいだろう?じゃあ、行くぞ。」
そう言って机の上を少し片づけて席を立つ。
「いや、ちょっと待ってくれよ。おい。」
そういいながらアルバートの顔がにやついている。
ドアを開け執務室を出ると、王太子付近衛兵のルドルフが出迎える。
「お二人でお出かけですか?」
「殿下と庭の方に行ってくる。護衛を頼む。」
「かしこまりました。」
ルドルフは左手を胸に当て一礼する。
「ルド、急にすまない。頼むな。」
「はい。もちろんでございます。」
マルクス、アルバートが並び、その後ろをルドルフが少し後ろをついてくる。
ルドルフは二人よりも1歳年上で、デアル伯爵家の次男であり、アルバートの乳兄弟になる。
ゆえに三人は幼いころから一緒に過ごすことが多く、三人寄れば軽口で話す。
「今日は庭園で茶会があったかと思いますが。」ルドルフの問いに
「ああ、俺の婚約者殿に挨拶に行く。そのついでに殿下もついてくるらしい。」
「え?ついでって何言ってんの?お前が誘ったんじゃん。」
「ん?そうだったか?ま、どっちでもいいじゃないか。」
「いや、そこは重要なとこじゃないか?なあ、ルド?」
後ろを歩くルドルフに問いかけるも、投げやりな顔つきで
「いや、どっちでも良いけどね。ただ、なんでマルクスと婚約者の逢引きに俺も付き合わされるのか訳わかんないわ。」
「まあそう言うな。まだ残っているご令嬢もいるかもしれないだろ?」
「え?そうなの?それを早く言ってくれよ。」ルドルフは途端に上機嫌になり顔を緩める。
ルドルフは美男子で大変持てる上に、本人も女好きであり幾多も浮世を流している。
よくもまあ頑張るもんだと思いながら感心していたが
「ルドはなんでそんなに軽いんだ?それに比べてマルクスは氷だし。
間を取った俺が一番まともってことだな。うん。」満足そうにうなずくアルバートに、
『いや、それは違う。お前は男のくせに初心すぎて心配になる。』
そんな思いを口には出せずに、俺とルドルフは顔を見合わせ肩をすくめた。
庭園近くまで来ると茶会も終わり、パラパラと参加者にすれ違う。
すれ違い様にご婦人、ご令嬢方と挨拶を交わしながらアリーシャを探す。
「マルクス様?」
令嬢の輪の中から不意に声を掛けられ、その方向を見るとアリーシャが笑みをこぼしながら小走りで駆け寄ってきた。
「うわー、走る姿もかわいい。」アルバートのささやきが耳をかすめる。
「ああ、なるほどね。そういうこと。」その後ろからルドルフの声。
「アリーシャ、茶会は終わりましたか?」
「はい。今しがた終わりまして、これから皆様方と帰ろうかと思っておりました。」
紳士的に声を掛ければ、周りのご令嬢方から「婚約者殿のお迎えだわ。」「すてきねえ、うらやましい」などと声が聞こえる。
しかし、一緒にいたアルバートやルドルフの方に興味があるのか、令嬢方はそちらにターゲットを向け挨拶を始めていた。
「アリーシャ、これから少し時間をもらっても?殿下も一緒なんだが。」
「はい、もちろん大丈夫です。」
それを確認すると一緒にいた令嬢方に
「いつもアリーシャが仲良くしていただいて、感謝いたします。
アリーシャは少し寄り道をして帰りますので、皆さんはどうか気を付けてお帰りください。」
氷の令息よろしく声をかけると、アルバートも「気を付けてお帰りくださいね」と会釈をしてその場を離れる。
名残惜しそうな声が聞こえるが気にしない。
「久しぶりに庭園の散歩も良いかと、殿下と息抜きに来たんですよ。ねえ、殿下?」
「あ?ああ、そうなんだ。アリーシャ嬢。たまたま来たらお茶会が終わった所で、ばったりと、な?マルクス。」
しどろもどろでアルバートが答える。
「そうでしたか、マルクス様もいつもお忙しそうにしていらっしゃいますし、たまの息抜きも必要ですわよね。
今は庭園もバラが咲き始めているところで、もう少しで満開とのことでした。」
「ほお、薔薇が?満開の折にはぜひまたいらしゃってください。咲き誇る花はきっとキレイでしょう。」
「そうでございますね。王室の庭園は類を見ない美しさです。ぜひ、拝見させていただきたいと思います。」
「ええ、ぜひいらしてください。ところで、アリーシャ嬢は薔薇はお好きですか?」
・・・・・・・・・・・
心配していたが、アルバートとアリーシャの会話も案外弾んでいるようだ。
女性にあまり免疫がなく、理想が高すぎるきらいがあるアルバートにしては上出来じゃないか?
さて、そろそろ、
「殿下、申し訳ないのですが急ぎの書簡をまとめるのを忘れておりました。戻り準備をしたいと思います。」
じゃあ、俺も戻ると言いかけた言葉を遮り
「殿下はもう少し休まれていてください。私一人で大丈夫です。アリーシャ、殿下のお相手をまかせても?」
是の返事しか受け付けないと言う含みを込めた声で問いかければ
「・・・承知いたしました、マルクス様。私が殿下のお相手になるかはわかりませんが、精一杯務めさせていただきます。」
「ありがとう。では、お願いします。殿下、帰りは馬車留までアリーシャをお送りいただいても?」
「あ、うん。わかった。ちゃんとエスコートするから心配しなくても良い。」
「では、失礼いたします。ルド、後は頼んだ。」
「かしこまりました。」
そう言って執務室へ向かう。
小一時間はかかるだろう。その間に溜まった仕事を片付けてしまおう。
なんとなく後ろ髪を引かれるような気がするが気のせいだ。
そんなことをぼんやりと考えながら歩を進めた。