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王太子殿下にお譲りします  作者: 蒼あかり
恋を知らない氷の令息(マルクス編)
14/23

14 アルバート視点

王妃の茶会の後、アリーシャ嬢と庭園を歩いていた。


先の茶会でマルクスに置いてけぼりをくらったことで、当初、彼女はマルクスに愛想をつかされたと思ったらしい。

しかし、王太子である自分が好んでいるから気を利かせたのだと告げると、嫌われたわけではない?と、少し安心したらしい。

最初こそ怒りも覚えたらしいが、冷静に考えてみてもやはり自分はマルクスが好きなのだと思い、相談に乗って欲しいとの手紙を受け取っていた。


日を置かずに交わす手紙の回数に徐々に焦りを覚えてきたマルクスは、色々と干渉をしてくるが知ったこっちゃない。

焦りを隠し切れなくなったマルクスは、面白いくらいにうろたえるようになる。

ルドルフが心配するくらいに。

だからって彼女との秘密を教える謂れもないし、仲を取り持つこともしない。

自分が蒔いた種だ、自分でなんとかしろ。



「最近のマルクスは面白いくらい焦り始めているんだ。アリーシャ嬢にも見せてやりたいくらいにね。」

「え?マルクス様がですか?ちょっと想像もつきません。あの方でも焦ることがあるんですね。」

「ふふ。あいつが焦ってうろたえるのはあなただからだと思うよ。」

「・・・そんなことは。」

そう言って少し頬を赤らめて俯く姿は、やはり可愛らしいと思ってしまう。親友の婚約者なのに。


「そろそろ許してやってはどうだろう?あいつも相当に参っているようだ。

ま、自分が仕出かしたことだから、あなたが決めることだけど。

しかし、そろそろ仕事にも支障をきたしかねないんでね。できれば穏便にしてもらえるとありがたいのが本音です。」

「まあ。」

そう言って二人笑い合う。そんな穏やかな時間が心地よく思える。


ふと執務室を見上げると、窓辺に佇んでいるマルクスと目が合う。

黒い感情が沸いてきたような気もするが蓋をして、アリーシャ嬢に話しかける。これ見よがしに。


ふと、彼女の足元に蝶が止まっているのに気が付くと、咄嗟に彼女の肩を掴み自分の方に引き寄せてしまった。咄嗟のことで、彼女も驚いていた。


「殿下、ありがとうございました。全然気が付きませんでした。」


そんな風に会話をしながら、マルクスの方から謝らせるにはどうしたらいいかと談笑していると、突然マルクスが現れた。


マルクスはいきなり彼女の手を掴むとズンズンと元来た方へと進みだす。

一瞬驚いたものの、堪らず駆けつけたのだろと半ばあきれる気持ちで苦笑する。


二人が去ったあと警護していたルドルフが側により、「寒いから中に入ろう」と訴える。

「そうだな。熱いお茶でも飲もう」そう言って執務室へ向かう。



執務室のソファーで向かい合いお茶を飲んでいる。

他愛もない話をしながら、明日の予定や仕事の話をする。いつもの日常。


ルドルフが一瞬真顔になると、貯めていた思いを俺に問うてくる


「なあ、お前はこれで本当によかったのか?」


「ああ、これが最良だ。」


「今のお前なら手に入らない物はない。そうだろう?」


「・・・そうかなぁ?本当に欲しい物で手に入った物はひとつもないよ。

所詮俺は国の駒でしかない。結婚相手や親の愛、ほんの少しの自由すら俺には許されない。願って叶うことはないと知っているから、欲することはやめたんだ。」


「それじゃあ、あまりに寂しすぎるだろう。」


「それでもお前たちがいる。それだけで十分だよ。」


「俺はともかく、あいつは結局裏切ったぞ。お前より婚約者殿を選びやがった。」

ふふん。とルドルフが鼻で笑う。


「ま、そう言ってやるな。氷の令息の心に初めて灯った明かりだろう。大事にしてやらんとな。」


「お前の方が本当は氷の王子さまだよ。いい加減、自分の明かりを見つけろ。」


「こればかりはなぁ、一生見つかる気がしないんだがな。」


「ばーか。そんなことだからダメなんだよ。もっと貪欲になってみろ。お前が欲しいと言えば見つかるものも必ずあるさ。」


「うーん、そうだな。そのうちな。」


「そのうちって、まったく他人事みたいに。」


いくらかの時間沈黙が続く。



「本当に良いんだな?」


「ああ。妃の代わりはいくらでもいる。だが、側近として宰相の役目ができるのはあいつ以外にはいない。国のためになる方を取る、それが国王になる者の務めだよ。」


そう言って残りの紅茶を飲み干す。


黙ったままルドルフも紅茶を飲み干すと、「今日はもう寝ろ。」そう言い残し室を後にした。




誰もいなくなった部屋で一人残される。

国王の息子として産まれてから今日まで、一人には慣れてきた。

慣れているはずなのに、今日はやけに部屋が広く感じてしまう。


暖かい部屋で、熱い紅茶を飲んだはずなのにとても寒く感じてしまう。


ルドルフの言うような明かりを見つけることができるだろうか?

国王の息子であり王太子という地位のある自分ではなく「アルバート・セナン」を、ただ一人の男として愛してくれる人はいるのだろうか?

誰にも愛されず、誰も愛してこなかった自分が、愛を乞うのはおこがましいことは十分承知している。

それでも、こんな日は誰かに側にいて欲しいと思ってしまう。


何の忖度もなく、純粋に婚約者の親友として向けられる微笑み。

そう、あの笑顔が欲しい。唯々、一人の人間として見てくれるあの瞳。


欲しいと願い手に入らない物はない。と、本当は知っている。

ただ、そこには本当に欲しかった感情が含まれていないだけ。


どんなに切望しても手に入らない笑顔。親友の名を呼ぶ声。熱いまなざし。

そして、触れてはいけない肌のぬくもり。


これこそが国を守り、民を導く者が受け入れなければならない孤独。



「苦しいと言えたら楽になるんだろうか?」



ソファーの背もたれに倒れかかり天井を見上げる。

瞼を閉じると頬を生暖かい物が一筋つたう。


こんな感情もまだ残っていたんだなと、アルバートは苦笑するしかなかった。




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