久方ぶりの冒険
そういえば言ってなかったんですけど、まだまだ本編には入りませんね。まだ前日譚です。気長に見守ってください。
そうして門をくぐり抜けた先にあったのはだだっ広い平原だった。1キロ先に森の木たちが見える。今からそこを目指して歩いて行くのだ。まあ、森に入ったとしても洞窟のある場所までは5キロほどあるのだが。彼らのような時代の人間はどちらかと言うと知より体力が求められる傾向にあったので、普段の稽古で10キロは普通に走り切れる程度の体力を持ち合わせていた。だからと言って走って行くわけではない。途中で獣に襲われるかもしれないので、体力は温存しておきたいのだ。
そうして歩き出した二人は少し雑談を話しながらどんどん門から離れていく。会話の内容は、噂話の詳細や彼による知識の自慢大会というところだ。
そんな風に話しながら歩いて門からある程度離れたところで二人は足を止めた。そうしてそれぞれ自分の持っているカバンを地面に置いた。
そして次の瞬間、二人同時に剣を引き抜いた。彼は鞘から直接友の体を着るように右上に切り上げた。そして友は剣を引き抜いて一旦頭の上に持ってきてから振り下ろした。二人の剣はちょうど真ん中で脳に響くような音と火花を出して止まった。ギリギリと刃と刃が音を鳴らしながら両者の剣は拮抗している。彼と友はその時にお互いを嬉しそうに睨み合った。数秒その状態が続いた後に友の方から動き出した。拮抗していた剣を右にはらったのだ。そして相手の首を搔き切るように大振りで右から左へ振り切った。それに対応するように彼も薙ぎ払われた剣を動かした。左に払われてしまった剣で迫り来る友の剣を回避しようとした。そうして頭を少し低い位置に動かして、左にある剣を首の高さにある相手の剣に当てて右に弧を描くように振った。
そうすると二人とも後ろに距離を取るように跳んで下がった。
その後は少しの間静寂があったが先に口を開いたのは友の方だった。
「知識を詰め込むだけでこっちは全然本気でやってなかったのかと心配してたが、その必要はなかったみたいだな」
そう言った友はニッコリと笑いながら力が抜けたように構えていた剣をおろして鞘に収めた。
その一連の動作を見た彼は落胆して、ため息をつきながら剣を収め、口を開いた。
「はあ、やめてくれよ・・・・・あんたの言動を見てれば何をしようとしてるかわかるけどさ、それでもすごっく心臓に悪いんだよ‼︎真剣を振るのは久しぶりだからさ。まあ僕たちはさ、実力が同じくらいだから本気でやっても拮抗するけど、もしあんたが少しでも強かったら俺は切られてるんだぞ?それに久しぶりだから寸止めとかできるかわかんないだろ?ほんっとに心臓に悪い・・・・・・」
彼がこういうのも無理はないだろう。だって実際の剣を持てるのは年に一度の大会でしかないのだから。それに冒険自体が何年ぶりなのかすら曖昧なほどだ。だから彼は少しずつ剣に慣れようとしていたのだ。
そしてそんな思惑を壊すように友が言葉を返してきた。
「まあまあ、今回は俺が悪かったな。先に言うべきだった。」
「いや、先にやるとかそこじゃねえって。」
そういって二人は数秒睨み合った。そうしたら二人は急に何かを感じたようにくしゃっと笑った。とうに二人の間には言葉なんていらないような絆があった。それこそ何も言わずに仲直りができるほどに。
そうして一連の心のやりとりが終わったら二人はカバンをおいてある場所に向かって歩き出した。
カバンの元に着いたらもう一度背負ってまた、森の方向に歩き出していた。
二人が道中に剣を合わせたのはこれが最後ではなかった。戦うことを面倒くさがる彼に対して友は何度も変な理由をつけて剣を引き抜こうとした。ある時は荷物を背負った状態で戦えるかとか、戦えるだけの体力があるのかとか、ともかく数が多かった。彼は嫌がっていたが断ることはしなかった。友が言うことに一理あるからだ。それなりの覚悟で街を出た彼には戦う覚悟も当然のようにあったのだ。だから友が言うことを理解できた。
そんなことをしながら歩いていたらたったの1キロでももうすでに日が落ちかけていた。なので彼がここで野宿しようと提案した。友はそれに素直に従い、良い場所を探す彼に着いていった。それもそのはずでこのような生活のための知識などは彼の分野だからだ。
日が沈みそうな頃にちょうど森の入り口についたので木の下辺りで泊まることにした。
そのことを彼が友に伝えると、周りの木々の葉っぱやら草やらを集め出した。そう、それらを寝床にするのだ。出発する時に言ったが、持ち物にキャンプ道具なんてものはない。だからそこらへんにあるもので代用するのだ。
そしてひとしきり準備が終わったところで日は完全に沈んでいた。
彼は集めてきた木の枝と持ってきていた火打ち石で焚き火を起こした。日が落ち着いて燃え出したことを確認したら彼は焚き火の前に座った。そうして少し経った頃に、あちらも準備を終わらせたようで友が焚き火に近づいてきた。
歩いてきた友は彼の隣に座った。
二人は何も喋らずただ焚き火を眺めていた。
まるでこれまでの人生を、思い出を、今は失ってしまってもう取り戻すことのできないものを悲しい目で見ていた。
大人が青春の日々を思い出すように、彼らを照らすほのかな炎を見つめていた。
もっと書きたいけど時間がぁぁぁぁ