表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

ザガブリア帰還編

世界観としは、実際に存在した中世のヨーロッパに魔法の要素が混じった感覚です。

(ハリポタがわかりやすいイメージ)

‐暗く汚い地下室。


 回りに人が寝転んでいるのを感じる。二人。。。いやもっとか。


 汗と埃が充満している空気を吸い込みながら、


 硬い枕に横たわる身体をゆっくり動かす。


 どうやら時間は早朝のようだ。石壁の上に小さく見える窓から、

 

 うっすらと入ってくる空の蒼さがはっきりしてくる。


 驚くほど小さな体になってしまったな。


 それが、私が二番目の人生を始めた日になった。


 ~ ~ ~


「キビキビ歩け!」


 私は今、畑を耕すために同じ格好をした者たちと歩いている。


 ボロボロのズボン、よれよれのシャツ、硬い皮の首輪。


 周りの奴隷たちと同じ格好だ


 「お前達は五人は、医務室でたっぷり休んだだろう?

 今日は昨日の分もみっちり働いてもらうぞ」


 俺の名前はスナイブ・グル・ガルガメル。

 

 帝国随一の大賢者。若い頃は帝王でさえ、私の助言を仰ぎに来ていた程だ。


 フン。その私がこんなところにいるとは。


 現実味がないな。


 あたり一面に広がる畑。


 目の前に無造作に置いてある農具を観ながら私はほくそ笑んだ。

 

 今はピッケル。奴隷の少年だ。


 「大丈夫そっだな。昨日は畑のど真ん中でぶっ倒れて心配したっぞ」


 この男はユウクと名乗っていたな。今朝、起こしに来てくれた青年だ。

 

 ピッケルと友達なのであろう。


 「ありがとうユウク。心配かけてごめんね。実は昨日、頭をぶつけたみたいでね。

 

 記憶に靄がかかってるみたいなんだ」


 他の奴隷たちと交流する前に、情報を集めなければ。


 「大丈夫っぜ、ピッケル。しんどかったら俺からマーカスさんに話してみっから、


 遠慮なく言うんだぞ」


 マーカス。この農園の上奴隷の一人。この班のリーダーだ。


 周りを観察して分かったことはいくつかある。


 太陽の上る方角、北にそびえる三つ頭の山脈。奴隷たちの喋る言葉に交じる訛り。

 

 ここは帝国領土内の南に位置するネレトバ地方だろう。


 クロセルスラ帝国より遠い所へ飛ばされなくて良かった。


 自分の国だからこそどうとでもなる。


 


それにしても若い体は良い!


 お陰で、畑の反対側にそびえ立つ門が見えた。

 

 書いてあった名前はクレアモント男爵領・ラード家野菜農園。


 この農園の規模は広い。数キロはありそうだ。だが人手は少ないな。


 私やユウクのいる班には二十人ほどしかいない。


 他の各班は方々に散らばり、数百メートルは離れた場所で作業している。


 ネレトバの奥地。未開に近い部分か。


 「ユウク、一応聞いておきたいのだけど、日付はわかるかな?」


 「もちろん。帝歴610年九月の十一日だ。


 俺より馬鹿になっちまったんじゃないか?わはは」


 私が儀式を行ったのは九月10日。魔法で時間が飛んだという事も無いようだ。


 「ありがとう。昼の休みまで仕事に専念するよ。後で話そう」


 「。。。チビなんだから無理すんなよ!」

  

 確かに私の体は小さい。14から15歳だろうか。17歳ほどであろうユウクとは頭一つ


 以上違う。


 体に武者震いが走る。百年以上生き、その大半を魔術の研究に注ぎ込んだ私は、

 

 生命力のみなぎる体を動かすこと自体が久しく忘れていた感覚だったのだ。


 鍬を地面に打ち付ける。その動作だけで脳内の化学物質が快楽を生み出してくれる。


 体を奮い、筋力を使うことがこれほど気持ちいいとは!


 ザクザクと畑を耕していると、マーカスが寄ってきた。


 「なんだピッケル。病み上がりかと思ったらはしゃぎやがって。しかも

 

 掘り方はでたらめじゃねえか。落ち着かないなら鞭でも持ってきてやろうか?」


 「すみません、マーカスさん」


 「わかったら集中してはたらけ」


 クッ、恥ずかしいな。奴隷に注意されるとは。


 落ち着かなければ。とりあえず目の前の事に集中しよう。


 なに、どうせ後ほんの数時間の辛抱。


 そしたら弟子達が迎えに来るだろう。


 それまでは奴隷の身分を体験してみるのも悪くない。


 若い体に酔いしれていた。



今思えば、私の儀式が失敗することにより、

 

 帝国を根底から揺るがすほどに大きな問題と繋がっていたのだが、


 その時の私は知る由もなく、にじみ出る笑みを抑えながら鍬を奮っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ