大魔王は肉屋にゆらされる
大魔王の玉座の間は荒れ果てた。
突入の後、ほんの数分の事であった。
勇者パーティの五人のうち、一人を除いてみな倒れ伏している。
大魔王は玉座に座ったまま、つまらなそうに冷たい目で広間の惨状を見ていた。
「君たちは魔王城に来るレベルではなかったようだ」
勇者は床を拳で叩いた。
戦士はバラバラになっている。
聖女の首は落ちた。
魔術師は静かに燃えて消し炭になる所だ。
一人だけ無傷で立つ男はエプロン姿である。
手には大きな肉切り包丁を持っていた。
「君の職業はなに?」
「肉屋ですよ」
「そうだね、武道の気配もないし、魔力もない、君は、ただのお肉屋さんだ」
「ただの肉屋ですよ」
肉屋が被害を受けていないのは大魔王の苛烈な攻撃を避けたからではない、単に後から入って来たからだ。
「どうしてこんな所に来たのかね」
「クソ勇者に強要されて、あなたを肉にするためですな」
「どうやって」
「もうやってます」
肉屋は前に歩いた。
大魔王はいぶかしむ。
「ゆれてませんか?」
「え?」
めまい。
のような揺れが大魔王を襲い、彼は玉座から前に倒れ、膝をついた。
「な、なにをっ!」
大魔王は慌てて詠唱し火球を撃つ。
火球はすっぽぬけて天井を焼き溶かし空へと飛んだ。
「なにっ? な、なんだ一体っ!!」
「あっしはね、ほんの少し物をゆらす事ができるんでさあ」
「ま、まさかっ!」
「水面でも、金属でも、脳でもね」
肉屋は大魔王の後ろに回り牛刀を振りかざした。
「や、やめろーっ!!」
「肉になりなせえ」
牛刀が何度も何度も振り下ろされて、魔王は肉となった。
勇者は喜んだ。
「や、やったぞ! 肉屋!! お前を連れてきて正解だ!!」
肉屋は勇者の後ろに回り込んだ。
「に、肉屋?」
「あんたも、肉になりなせえ」
肉屋は躊躇無く牛刀を振り下ろした。
勇者は肉になった。
その後、魔王と勇者は相打ちとなって死んだと伝わり王国は平和になった。
肉屋は職場に戻った。
彼の偉業は歴史には残らなかったし、名前も伝わってはいない