第1章 真実 ⑦
小屋の1階にある居間で、ターメリックとカメリアはクランの作った昼食を食べた。
アサリのクラムチャウダーはまろやかで美味しく、焼き立てのロールパンは日に当てた布団のようにやわらかかった。
人里離れたクリスタニアでは、自給自足の生活が当たり前だった。
「…えっ、クラン君って、ぼくとひとつしか違わないんですね。もっと小さい子だと思っていました」
勧められた紅茶を注ぎながら、ターメリックは目を丸くした。
その表情を見て、カメリアは楽しそうに笑っている。
「ここに来る人は、たいてい驚くよ。クランは童顔で、背も低い。得意料理を披露しようものなら、小さいのにえらいねと褒められる…いいことだと私は思うのだが、本人にとっては余計なお世話らしい…何か言うと不機嫌になるから、気をつけなさい」
「はぁ…」
幸い、不機嫌になるという本人は席を外していた。
カメリアに頼まれて、地下にある物置へ向かったらしい。
…そこから、何かがひっくり返る凄まじい音と盛大に咳き込む声が聞こえていた。
探し物をしているのかな…咽喉を痛めなければいいけど…
ターメリックはクランを心配しつつ、紅茶を一口飲んだ。
……?
なぜだろう…
この味を、知っているような気がする…
……
「叔父さん、あったよ。フィリア辞典の中に埋まっていた。これでいいんだよね」
奥の廊下から服にわたぼこりをつけたクランが飛び込んできたので、ターメリックも思考を中断して顔を上げた。
クランの手には、銀色に輝く小さな羅針盤と古びた羊皮紙が握られている。
「おお!よく見つけたなぁ、どれ見せてごらん」
カメリアはクランから羅針盤を受け取り、懐かしそうに眺めた。
「最近、見かけないと思ったら、フィリア辞典の中にあったのか…それにしても、ひどいほこりだ。地下の倉庫を最後に掃除したのは、いつだったかな」
「8年前だよ。叔父さんとふたりきりになってから、一度も入っていなかったから。あと、これも一緒に持ってきた」
クランは、羊皮紙をテーブルの上に置いた。
何やら、かすれた文字が書いてあり、カメリアは「懐かしいな」と目を細めた。
「これを書いてから、かなりの年月が経ったようだね。いったい何年」
「さぁ。僕に聞かれてもわからないよ。それくらい昔からあるんじゃない」
「なるほど…私も年を取るわけだ」
カメリアは大声で笑ったが、クランは表情を変えず、服についたほこりを払って椅子に腰かけた。
3人は、小さなテーブルを囲んで羅針盤と羊皮紙を見つめた。
「クランが気を利かせて持ってきてくれたことだし、この紙のほうから説明しよう」
カメリアは、今にも破れてしまいそうな羊皮紙をターメリックに差し出した。
…そこには、カメリアが書いたらしいクセのある文字が躍っていた。
☆クリスタン神が授けし三振りの剣☆
・希望の剣 …………エメラルド
・愛の剣 …………アメジスト
・光の剣 …………トパーズ
☆クリスタン神が創りし四振りの剣☆
・真実の剣 …………ガーネット
・勇気の剣 …………カーネリアン
・平和の剣 …………ペリドット
・叡智の剣 …………アクアマリン
~竜の王イゾリータの封印破られしとき…
…伝説の剣、その持ち主とともに現れん~
「…これが、伝説の剣と呼ばれる7振りの剣だ。隣に書いてあるのが、柄で輝く宝石の名前だよ」
「この赤い宝石、ガーネットっていうんですね…知らなかったです」
ターメリックは、腰に差していた真実の剣の宝石を確認した。
光の加減によって桃色に見える、とても綺麗な宝石だ。
そこで、ふと鞘の銀細工に目をとめた。
茨と王冠の銀細工は、テーブルに置かれた羅針盤と同じものである。
「世界に散らばる伝説の剣とその持ち主を見つけるためには、この羅針盤を使う必要がある」
カメリアは、羅針盤を手のひらに載せた。
中央の磁石と方位の書かれた円を囲むように、7つの小さな宝石が丸く並んでいる。
色とりどりの宝石の中で赤く輝いているのは、真実の剣の宝石と同じガーネットである。
「…面白いから、見ていてごらん」
カメリアが中央の円に手をかざした。
すると、7つの宝石が一斉に輝きだし、それぞれが光を発した。
…そして、ガーネットから放たれた赤い光は、ターメリックの胸元を指していた。
「まぁ、剣の持ち主のいる場所がなんとなくわかる程度のものだ。遠すぎると光が届かないんだよ。しかし、持ち主のフィリアは確実にわかる…この文字、読めるかね?」
宝石から発している光の中に、うっすらと文字が浮かび上がっている。
そして、赤い光の中には…
『真実 ジュスト』
と、描かれていた。
ターメリックは息を呑んだ。
「ぼくのフィリアだ…!」
「はは、私が作ったものではないが、そこまで感動してもらえると嬉しいね。それから、この羅針盤を使って神殿にいる私と会話をすることもできるんだ…困ったときは、いつでも私に相談しなさい」
「は、はい!」
ターメリックは、じっと羅針盤を見つめた。
つづく