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第8章 正義 ②

神の使いとなる以前のムロンは、スパイス帝国のオレガノとは骨董品を愛する友人同士だった。


しかし…とある高価な釜が原因で、ふたりは仲違いをしてしまった。


オレガノはムロンに釜を渡さないつもりで、見せしめのためにその釜とともに爆死したという。



「確か、君は伯父の死の真相を探っていたそうだね…納得していただけただろうか」


「はい…しかし、伯父からムロン殿のことを聞いたことはなかったので、驚きました」


「まぁ、そうだろうね…それから、友人の死に責任を感じた私は、友情を司る神クリスタンに懺悔しようとクリスタニアを訪れた。割愛させてもらうが、クリスタニアではいろいろあってね。私は神の使いになったのだ…そして、私は念じた。自分のようなクリスタン教信者でもない人間が神の使いでいるために、罪を償いたいと。すると…クリスタン神様が私に使命をお授けになった」


「使命?」



ムロンはクィントゥムたちの注目を集めた後、口を開いた。



「それは、計画的に竜の王イゾリータを復活させ、消滅させるという使命だ。そのために、私は娘を連れてこのプレルーノ王国へやって来たというわけだ」



プレルーノ王国には、竜の王イゾリータが封印されている。


しかし「計画的に」とは、どういうことなのだろうか。


クィントゥムはムロンに尋ねようとしたが、ムロンはターメリックの顔を真っ直ぐに見据えていた。


そして…厳かに告げた。



「ターメリックよ。ジュストというフィリアを持つ君を待っていた…君は、生まれてすぐに使命を授けられたのだよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……」



ターメリックには、ムロンが何を言っているのかわからなかった。



「…ぼくに、生まれたときからの使命が…?」


「ああ、そうだ。聞いたことがあるかもしれないが、君の父に子どもが生まれたらジュストというフィリアを授けるよう告げたのは…私なのだ」


「……」


「君は知らないだろうが…これはすべて『予言の書』に書かれていることなのだよ」


「『予言の書』…?」


「クリスタン神話における幻の章であり、竜の王イゾリータが復活した後の未来が書かれている書のことだ」


「そんなものがあるんですね…」


「しかし…唯一その内容を知る青年が亡くなったことで、予言の書は消滅した」


「あぁ、それなら私も聞いたことがあります。『はじめてのクリスタン神話』という本が絶筆になっていたはずです」


「そのとおりだ。青年は、クリスタニアで神の使いからプレルーノ王国にいる私のことを聞き、はるばる会いにやって来た。私は、クリスタン神話を研究しているという彼に『予言の書』を託した…しかし、青年はスパイス帝国で帰らぬ人となってしまった…『予言の書』は、そのときスパイス帝国で兵士団長をしていた男に燃やされてしまったらしい…ターメリックには、このふたりがだれなのか、わかっているだろう?」


「…ノワール先生と、クレソンですね」



彼らと関わりのあったクランとノウェムが息を呑んだ。



『君が、ターメリック…ジュスト、なのか』



ノワールと初めて会ったときの言葉の意味が…ようやくわかった。


そして…クレソンが『予言の書』を奪うためにノワールを亡き者としたことも。



「私は、君にジュストというフィリアを授けた。それが起爆剤となってカイエンは世界征服を企み、竜の王イゾリータの復活が近づいた…何もかも、最初から決まっていたことなのだよ」


「どうして…ジュスト、なんですか?」



ターメリックの素朴な疑問に、ムロンは弟そっくりの笑みを浮かべた。



「ジュストというフィリアには、聖なる力が宿っているんだ…ジュストにしか、正義の剣は正しく扱えないのだよ」


「…正義の剣?」



伝説の剣は、すでに7振り集まっている。


ということは…まただれかが創った剣なのだろうか…



「おや?一度発動させたというのに、覚えていないのかね」



首を傾げるターメリックに、ムロンは目を見開いている。


そのとき…



「あ…」



何か心当たりがあるらしいアクアが、ムロンに確認した。



「その正義の剣というのは…8つの光でできた宝石が飾られている大剣ではありませんか」


「おお、まさにそれだよ…そうか、あのとき剣を目撃したのはアクアだけだったか」



ムロンは納得して説明を始めた。



「正義の剣は、伝説の剣とミール・ミゲルの創りし夢の剣、そしてジュストというフィリアを持つ者の強い怒りが集結したときにのみ現れる、無敵の剣だ…8つの剣の宝石をすべて吸収した宝石、虹色に輝くアンモライトが飾られている」


「え?8色で虹色ですか?普通、虹といえば7色だと思うんですけど…ね?ノウェム」


「そうだな…でも、それはマスカーチ公国だけだろ?」


「ヌフ=ブラゾン王国では、6色っていわれてます!」


「パン王国では赤と紫の2色よ」


「スパイス帝国では、10色以上が普通だといわれている…ほかの国に比べて、色数の多いのが特徴だね」


「虹の色ってのは、国によってばらばらなんだよな」


「どの国が何色というのは、なんとなく知っていました。でも…8色っていうのは初耳です。プレルーノ王国での虹の数なんですか?」


「…8色っていうのは、クリスタニアに伝わる数だよ。クリスタン神様が伝説の剣の7つの色に、ご自分の好きな青色を足されたんだ。それが天に昇って、8色の虹になった…そうだったよね、父さん」



今まで黙っていたクランがムロンを横目で見ていた。



「素晴らしい、よく覚えていたね…大正解だ」



顔を綻ばせるムロンに、褒められたクランは少しだけ表情を和らげた。


よかった…


ターメリックは、いつもどおりのクランに胸を撫で下ろしていた。



「…さて、先ほども言ったとおり、正義の剣は無敵の剣だ。これさえあれば、イゾリータを消滅させることができる。そこで…ターメリックに約束してもらいたい…正義の剣を、決して私利私欲のために使わない、と」


「……」



ずっと、このままならいいのに…



ムロンは、クリスタン神のお告げを通してターメリックの心の声を聞いていたらしい。


正義の剣は、なんだって自分の思い通りにできる無敵の剣…


もちろん、このまま使命を投げ出して仲間たちと逃げることもできる…世界が闇に包まれるまで。



「…何をおっしゃっているのですか、ムロン殿」



そのとき…アクアが呆れたように口を開いた。



「こんなに頼りないリーダーが、そんなことするはずないでしょう」



『俺たちには、その意志を継ぐ義務がある…息子のお前を、俺が支えてやる』



ターメリックがスパイス帝国の宮殿で泣いていたとき、慰めてくれたのはアクアだった。


…迷っている暇はない。



「心配いりませんよ」



ターメリックは、ムロンに向かって微笑んでみせた。



「ぼくには、大切な仲間がいます。もしも、ぼくが正義の剣を悪用しそうになったら、彼らはぼくを全力で止めてくれます…頼りないリーダーを信じて一緒について来てくれた、かけがえのない仲間たちですから」


「…そうか」


「仲間ではありません」



フィオが眉を寄せている。



「あたしたちは仲間じゃなくて…お互いを心の底から思いやる、大切な親友です!」



その力強い言葉に、仲間たちも頷いていた。


ターメリックは「ありがとう」と、満面の笑みを浮かべた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて…それじゃあ行こうか」



話が落ち着いたところで、ムロンが椅子から立ち上がった。



「今から君たちを、イゾリータ消滅のために必要な人物のところへ連れて行く」


「必要な人物…?」


「プレルーノ王国の時期国王、アスル・ルーナル=クレッシェーナ王子…クラン、君の実の弟だよ」


「…えぇっ!?」



仲間たちが驚きの声を上げる中、クランは凍りついたように動けなかった。


ようやく口から出た言葉は、



「…は」



だった。


実の弟が…


プレルーノ王国の王子…?



つづく

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