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始まりの記憶 預言の日(4)

◇ ◇ ◇




 イージスがイアナネニスに何やら物騒な事を頼んでいた頃……



 レムリアの神殿地下でリンコは双子の妹を巡る二人の男達の決闘を固唾を呑みながら見守っていた。 



 (全く……サアラが預言したこの星の滅亡の危機が近づいて来ているのに、まさか拉致された上にあの二人の決闘に立ち会う羽目になろうとは……シェリルス達はこちらの異変に気付いてくれるだろうか?)



 ヤゥマの拘束魔方陣は御丁寧にも、精霊達が干渉出来ないように作られており、この中で拘束されている自分に精霊達は気が付いていない。

 力づくでここから抜け出ようにも、ラ・ムーに飲まされた薬のせいで力がまともに出せない。

どうやらこれは大人しくシェリルス達がここに来るのを待つしかないようだ。 


 シェリルス達には、こちらの行動を伝えてある。

 だから直ぐにこちらの異変に気付き、この場所を見つけてくれる事だろう。


 但し、まるで自分達の息子のように溺愛しているサーベリウスとノアが忽然と消えた上に、サアラやイージスまでが姿を消し……

 心配だから、自分達も連れて行け!と、六神達が駄々をこきながら騒ぎ立てて拗れていなければ、だが……



 (やれやれ……恐らく十中八九、冷静さを失い大騒ぎしているあの六神様達に翻弄されてシェリルス達は苦戦しているだろうな。 そう言えば……イージス様はイアナネニス様とネメシス様の目を盗んで指輪を回収し、サン父王様の魂を上手く解放してくれたのだろうか? シャイタールと私の会話を聞きながら、珍しくかなり動揺していたみたいだが……)



 リンコは先程まで自分と会話を交わしていたシャイタールという奇妙な呪兵器の事を思い出す……。



 あれは始祖が封印していたものだったらしいが、まるで自我を持った人間のように接して来る奇妙で不気味な存在だった。

 ラ・ムーの器の中にずっと入っていたらしいが、霊魂や精霊が視える自分の瞳でもその存在を感じ取る事は困難だった。


 どうやら呪兵器というだけあって負の感情との関わりは密接みたいなのだが……


 (そう言えば、呪兵器から聞いた真実は衝撃的だったな……)


 呪兵器が語った真実は、自分が聞かされていた事とだいぶ違っていた。

 レムリアの龍達はシファルと創成龍ネメシスと輪廻龍イアナネニスを敵視しているが、早いところ誤解を解いてやらなければいけない。 


 (待てよ……イージス様はあの会話を立ち聞きしてだいぶ動揺していたが、まさか……)



 最近、ヤゥマはネメシスとイアナネニスを従えてレムリアにやって来ていたが、あの二頭の龍がヤゥマを慕うのは、恐らく彼がシファルの生まれ変わりという事なのではないだろうか?


    

 (そう言えばヤゥマの会話からすると、ラ・ムー叔父様は余程手酷くやられたような口調だったが、あの場にいたシャイタールはヤゥマに対して、何らかの抵抗をしなかったのだろうか? 何かを……見落している予感がするのだが……)



 リンコは二人の男達の決闘に目を移す。



 ヤゥマとサーベリウスは、剣に火花を散らしながら激しく激突している。

 斬撃の余波でまわりは破壊され、辺りの柱はぼろぼろだ。

 幸いサアラも同じように束縛されていて、眠らされている。ヤゥマの事だから、決闘が終わるまで彼女が目覚める事がないようにしている可能性もある。 



 「さっきから、何か勘違いをしているようだが俺はリンコお義兄様やサアラに覇者眼など使っていない」


 「――はっ、笑わせる! 卑怯者のお前のいう事など信用出来るものか――っサーベリウス! 嫌がるサアラを無理矢理抱いて自分のものにしたか? それとも、その呪いの瞳で周りの人間を操るように言う事を聞かせたのか?」


 「――黙れ! 私はそんな事などしていない。ノアとサアラとリンコお義兄様を人質にするお前こそが卑怯者だ! サアラに覇者眼は効かない。彼女は番である俺を選んだだけだ」

 

 「お前こそ黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇーーーー!」



 (不味いぞ……二人とも想像以上に消耗が激しい……このままでは、本当にどちらかが死んでしまうのではないか……?!)



 二人の消耗が激しく……心配していると


 イアナネニスとネメシスが、慌ててこの空間に現れて決闘を仲裁するように侵入して来た。



 《――これ以上はもう、お止め下さい! ヤゥマ様》

 《その者達を殺めてはなりません! サアラ様に覇者眼がきかない事を貴方様はその五芒星瞳を通して知っている筈ですっ!》

 《サアラ様とサーベリウス様は番同士……運命の相手なのです。貴方様には我々がついているではありませんか》


 ドクン……


 二頭の龍達の必死な叫びに不吉な予感がよぎる。

 

 サーベリウスとノアは六神達が再び器をつくり、魂を入れた複製された人間なのだと聞いている。

 そうであって欲しくはないが…… もしも、彼らがシファルの子供達なのだとしたら……



 ヤゥマは二頭の龍の必死の説得で剣を投げ捨て、力なく項垂れる。

 幸い、サーベリウスとの決闘を諦めてくれたようだ。



 (良かった……一先ず決闘は終わったのか?)



 こうやってどちらも死なずに決着がついたのは、本当に喜ばしい事だ。


 戦意を消失した相手を見たサーベリウスは剣を収めて踵を返す……

 束縛をネメシス達に解かれたノアはサーベリウスの元に駆け寄る。


 ……だが、


 ヤゥマの中に隠れていた黒い影が突然生き物のように動きだし、サーベリウスを襲った。



 ズザザザザザッ……!  



 その時…… サーベリウスに突然襲ってきた影を 駆け寄って来たノアが 身を呈して 庇う。



 ――赤い鮮血が飛び散り その光景を見ていたリンコは、凍り付いた。



 「な 何故……だ……ノアァァァァァァーーーー!」



 ノアは、サーベリウスを護っていた神獣トトと共に、黒い影に串刺しにされてしまった。


 

 (目の前で何が起こっているんだ)



 黒い影に心臓を貫かれたノアは大量の血を吐く。

 サーベリウスは何が起こったのか理解できずに、血だらけのノアを抱えながらサアラの元へと駆け寄る。

 だが、サアラはまだ意識が戻らず眠ったままだ。



 「ま、待て! サアラを起こして治療を頼むから、頑張ってくれ。サアラッ! お願いだ。目を覚ましてくれ」



 何としてでも弟を助けたいと、必死になるサーベリウスを前にノアは落ち着いた様子でサーベリウスを見つめている。



 「サーベリウス兄様、悲しまないで下さい。……兄様が死んでしまったら、サアラが悲しみます。それと、サアラをどうか起こさないで……たぶん……僕はもう、助かりません」


 「駄目だ! ノア、もう話すな。お前の事は絶対に助ける!!」

 「……僕は、助かりたく……ないんです。だって……これ以上、サーベリウス兄様に……嫉妬して醜く……なりたく……な ……から」


 「やめろ……ノア そんな事言うな!!」

 「……サーベリウス兄様……い……まで、ありが……と……」


 「う……あぁぁぁぁぁぁ……!!」



 ノアは微笑んだまま最期の力でサーベリウスに覇者眼で「僕の事は忘れて幸せになって下さい……」と暗示をかける。



 (くそ……違和感の正体はこれだったのか! ……何故気が付く事が出来なかった!)



 ヤゥマは茫然としながらこの光景を見ていたが、彼の中にシャイタールが侵食しているのか頭を抑えながらも葛藤している。

 だが、目の前の出来事に相当動揺していたのか器の主導権を奪われてしまったようだ。 


 (駄目だ…… これ以上はやめてくれ……)


 正気を失ったサーベリウスは黒い瘴気に浸食され……

 弟を失った衝撃で廃人のように動かない……



 「フッ……ハハハハッ!! ついに、念願の理想の器を手に入れたぞ。どれ……手始めに強烈な想いを残したまま、魂を消滅させた……この器の願いを聞き届けてやるとしようか」



 ヤゥマの器を乗っ取ったシャイタールはサーベリウスの心臓を剣で突き刺し……


 五芒星の魔法陣が浮かび上がる瞳で、ある呪詛をサーベリウスの魂にかける。


 サーベリウスの冷たい骸は、ノアを抱き締めたまま転がる。

 


 (どうして……どうして、こんな惨い事が……)



 今の混乱した気持ちを代弁するかのように……


 

 グォォォォーーーーーー!! グオォォォォォォーーーー!!



 その場にいたネメシスとイアナネニスが発狂し、唸り声をあげて暴れ出す……


 彼らの悲しみと怒りの咆哮が ずっと頭から離れない。


 サアラは 二人のこの姿を見て 正気を保っていられるだろうか……



 (駄目 だ。 サアラに これを 見せては…… いけない。 サアラ、目を覚ますな)

 


 そこで意識が途絶えた。




――

――――



 ゴゴゴ…… ゴゴゴゴゴ…… 




 (な んだ…… ここは…… 地面が揺れている)


 

 「しっかりして下さい。リンコ様! もうじき、シャイタールの瘴気で破壊龍となってしまったネメシスとイアナネニスによって、この星は崩壊します!」



 (なんだって……)



 リンコは意識を覚醒させ、辺りを見渡す。

 ここは……先程いた神殿の地下ではない。世界樹の結界の中だ。


 (誰かがここに私を運んで来たのだろうか?)



 ……どうやら自分はあの後、助け出されたらしい。



 「ノア様とサーベリウス陛下は……どうなった」



 シェリルスは辛そうな表情で、静かに首を横に振る。やはり、彼らはあの場で絶命したようだ。



 「私が不甲斐ないばかりに……本当に、すまない……」



 リンコは自分への怒りで、両手に地面を何度も叩きつける。

 己の無力を呪い、あの場で助けられなかった者達への罪悪感で吐き気を抑えながら叫ぶ。


 シェリルスは静かにそれを見守り、そっと肩に手を添えて「誰も悪くありません」と慰めてくれる。


 その手のぬくもりを感じて、ようやくリンコは冷静になった。



 今は近しかった者達の死に嘆いている暇など許されない。


 世界の崩壊はもう近づいている。


 まだ沢山の命を救う義務が自分にはある。



 「――シェリルス……すまないが、現状報告を頼む。他の者達はどうなった?」

 「……ご報告いたします」



 ラ・ムーの元に向かったリンコと、兵士と共に戦っていたサーベリウス。

 そして城の中で避難していたサアラとノアが何者かに連れ攫われて消えてしまった後

 アトランティス軍とレムリアの龍達は総崩れとなった。


 暫くして、瘴気に侵され狂ったように暴れ出したネメシスが帝都を破壊し出した。

 イアナネニスは各地で津波を起こし……最終的にアトランティス帝都は海の藻屑となり消滅してしまったらしい。



 「そうか……他は、どうなったんだ?」

 「カヌカ様の映像魔道具をこちらにも持ってきましたが、地球の各地であの二頭による災害が発生し、壊滅状態です」



 カヌカが用意した魔道具の映像が、アトランティス帝都の凄惨な光景を映し出している。



 祭りが行われるため、沢山のクルムとキャンドルで飾られた広場…… 

 城門前に飾られていた見事な巨像……


 それらがあった場所は、跡形もなく海の渦に呑まれてしまっている。

 

  

 つい先ほどまで、そこにいる人々と触れ合っていた場所……だからだろうか。胸の痛みが治まらない。

 



 (ああ……こんな痛い思いをするのなら、いっそ彼らと関わらなかったのに……)



 自分達の正体を隠しながら、カルラとガエンの三人で鍛え上げた、人の好いアトランティスの兵隊達……


 訓練の様子を、目を輝かせながら無邪気に見学していた笑顔の子供達……


 サアラの治療で、元気になったと感謝していた。陽気で人の好い帝都の街の人々……


 彼等の多くはこの災害に巻き込まれてこの海の渦に呑まれてしまったと思うと気がおかしくなりそうだ……



 サアラと共に視た予知夢のあの光景は、どこか現実離れしていて……

 まだ直ぐにやって来るものでは無い。と過信していた。


 充分に時間があり、助ける事が出来る。と、思い込んでいたのだ。

 

 危機感がまるで足りていなかった自分に腹が立ち、目から止め処もなく、涙が伝う。



 「……こんな有事に消えてしまいすまなかった。シェリルス……下の世界の人々はどのぐらい救う事が出来た?」

 「はい。我々が救えたのは城下街から避難して来た住民の一部と城に残っていた者達のみです。龍達を見て怖がるかも知れませんが、レムリアに移動させました。現在六神達がナパージ島を安全な場所へと移動させているのでひとまず安心して下さい」


 「そうか、有事に動けずすまなかった。瘴気に侵されてしまったネメシス様とイアナネニス様がどうなったか分かるか……?」

 

 「はい。彼らはヤゥマ・ムーの器に憑依した何者かと共に消えました……リンコ様。今度は私が貴方様の身に何があったのかを訊ねても宜しいでしょうか?」


 「ああ……シェリルスには是非聞いて貰いたい。現在、ヤゥマに憑いているものはシャイタールだ」

 


 リンコはシェリルスに、自分の身に起きた事を告げる。

 シェリルスはシャイタールと会話を交わした事や、ヤゥマがシファルの生まれ変わりだった事を語ると、何かに耐えるように固く目を閉じて聞いていた。 



 「事情は分かりました。この事は六神達とレムリアの龍達にも伝えねばなりませんね」

 

 「ああ……そうだな。ところでこの場所には、シェリルス達が連れて来てくれたのか?」


 「いえ、それは我々ではありません。てっきりリンコの仕業かと……」



 あの決闘があった場所はレムリアの神殿地下だった。だが、気が付いたらこの世界樹の結界の中にいた。

 リンコはシェリルスの言葉を聞き少し焦る。


 一体誰が自分達をこの場所へと、運んで来てくれたのだろうか?



 「世界樹の結界に護られていたお陰で、リンコ様とサアラ様は無事でした。……そしてノア様とサーベリウス陛下も酷い状態ではありましたが、世界樹の結界の中にいたお陰で彼らの魂を、無事に我々の手で回収する事が出来ました」


 「あの二人の魂を回収?」


 「……はい。私とカルラとガエンはそう言う能力を持っている一族ですので。六神達がサーベリウスとノアの赤子の器を作り出したので、その器の中に彼らの魂を入れました」


 「そうか……あの兄弟のあんな姿をサアラが目にしなかっただけましだ……有難う」



 本来ならば、死者の魂は寿命を迎えた器を離れて、天に向かって登り消えてしまう。

 二人はあの場で亡くなり天に還るのが筋である。


 だが、あの二人はそれを許して貰えない。


 自分達双子と同じく、実はあの二人も預言書という呪いに縛られているからだ。



 シェリルスは暫く口を噤んでいたが、重い口を開いた。



 「サアラ様ですが……サーベリウスとノアの死を知らされた後、始祖様の本を持ったまま眠りについてしまわれました。そして創成龍アルビオン様と、時空龍ハクシン様が入れ替わるように目覚めました」




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