怒っているようです【地球side】
◇ ◇ ◇
「……ブェッ……クシュン!!(どこかの女子が俺の噂でもしているのか?)」
ここは地球……凛子がフェルゼンに連れ去られた屋上では……
「畜生! あのくっっそ忌々しいフェルゼンの糞ガキめ……あの時の借りも含めてもっともっと、しこたま嫌がらせをしてやろうと思っていたのに、ウチの可愛い凛子を秒殺で攫っていきやがった!」
九条朔弥……稀代の天才魔導師、元シェリルス・リートと呼ばれた男は苦労して自分がつくり出した龍の幻影を一撃で真っ二つにされ、一瞬の隙に凛子を連れ去られてしまった事に腹を立てて怒っていた。
(確かに“将来フェルゼンとシオンは、私を越えるかもしれないぞ。鍛えるのが楽しくなって来た!”なんて言葉を半信半疑で聞いていたが……)
いつの間にか、前世の記憶を取り戻し【覚醒】していたフェルゼンは想像以上に強くなりすぎていたらしい。
転生する前に受けた傷の嫌がらせの試練のつもりで用意した龍の幻影は、彼の手で一撃で消されてしまった。
「こんなことなら、次元の狭間の目印にもっと攻撃力のあるやつを配置しとけば良かった……リンコめ……いくら何でも張り切って弟子を鍛えすぎだろうがっ……」
肩をガクリと降ろしながら、愚痴をこぼしていると……
「「「忌々しい糞ガキはてめぇだ。シェリルスのバカタレーーー!! 私達の凛子様を返せぇぇぇ!!」」」
と凛子の守護聖霊、燦子と莉子と峰子は、大好きすぎて今までずっとべったりだった主人とはぐれたせいで興奮しながら突っかかって来た。
「お前が目立つからと、うっかり防止で力の封印をかけ普通の人間みたいな恰好にさせるから、こんな事態(置いてけぼり)になったのだぁ!!」
「……いや、莉子。お前達の元の姿でこの世界は徘徊できないだろ。トップニュースになるぞ」
「責任を取って今すぐ切腹しろぉーー!!」
「誰がそんな事するかっ! だいたい切腹っていつの時代だ。そんな事したら腹が痛いだろうが」
「待て、凛子様に私達をさりげなく再会させてから死ね。凛子様ぁぁ。シェリルスのあんぽんたんっ――うわぁぁぁん!」
「俺が死ぬことは確定なのか?!三人とも本物の女子高生みたいな姿で泣くなよっ……ふぐっ……待て三人とも、息が出来ないから」
先程まで呆然として立ち尽くしていた眞田征紀は声を振り絞り、目の前の四人をじっと観察している。驚いた事にこの男は目の前の精霊達を目視出来るらしい。
「――おい。九条朔弥……お前には聞きたい事がある顔を貸して貰おうか」
「ゴホッ、ゴホッ……何ですか? こちらは先輩に用事など一ミリも無いし、今から忙しいので帰らせて貰いますよ……ああ、あと今度は凛子に何かちょっかいを出したら殺しま「……ぶっ殺したいのはこっちの方だ。お前、あのシェリルス・リートだよなぁ?」」
――刹那
シェリルスは、物凄い速さで眞田を拘束する。
そして地を這うような低い声を出しながら、眞田を抑えつけ殺気をこめた冷たい目で睨んだ。
「――何故、その名を知っている? ……お前は何者だ?」
しかし、眞田はそれに怯むことなく言葉を続ける。
「さっきの現実離れした馬鹿馬鹿しい光景と、そこの女子生徒のシェリルスという忌々しい名前の連呼で前世の記憶を思い出した。お前の異世界転移術に巻き込まれて性転換され、こんな世界に転生してしまった元アインシュタットの第一皇女、フィラディシアと言えば判るか? シェリルス・リートぉぉ」
「へ?……はぁぁぁーーー?! あのアバズ……フィラディシア皇女だとぉ?! 巻き込まれただぁ? ……ん、待てよ……あ、そう言えば(思い当たる節が)まさか、俺の転生術が失敗したのはお前のせいか?!」
眞田は「お前のせいもくそも無いだろうが」と言いながらシェリルスの首根っこを掴む。
「――久しぶりだな、シェリルス・リート。さっきから言ってるだろ? 取り敢えず……愛しのリンコ様を攫ったお前には言いたい事が沢山ある。ツラ貸せやぁぁっっ!!」