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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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第68話

 風呂に入った後、俺はアルトの部屋に来ていた。

 向かいにはアルト、そしてアンバーさんが座っている。俺は出された紅茶を啜りながら、呼ばれた意味を想像していた。

 2人が居るという事は、普通に考えて2人に共通した話題なのだろう。そうなると仕事絡みでは無く、家の関係だろうか。

 ふと目線を前に向ける。アルトは普段よりも若干緊張しているように見える。アンバーさんは何時も通りだが。

 まあ、兎に角話を聞くのが手っ取り早いだろう。俺は口を開く。

「それで、俺が呼ばれた理由は何だ?」

「…大事な話があります」

 アルトが真剣な様子で答える。俺が思っていたよりも重大な案件なのだろうか。

「…私達2人を、貰って下さい」

「………?」

 どういう意味だ?貰う?身売りでもされたのか?

「まさか…クリミル伯爵家が取り潰しに!?」

「…縁起でもない事を言わないで下さい」

 アルトが呆れた声を出す。違うのか。

 するとアンバーさんが口を開く。

「胡乱な言い回しは…悪手」

「みたいね。…師匠、はっきり言うわ」

 アルトはそう言うと、深呼吸を1回。

「私達は、師匠…ユートが好き」

「…え?」

 これはつまり、愛の告白か?予想外過ぎて頭が混乱する。

「もっと色々と作戦も考えてたのだけれど、そうも言ってられなくなったから。モエミに負けない為に、直接行動に出たわ」

「…ん?何で其処で、九鬼さんが出て来るんだ?」

「…判らないなら良いわ。未だ行動を起こしていないんでしょう。なら先手を取れた訳だし、結果良しよ」

「…ん。先手必勝」

 答えになっていない気がするのだが。

「つまりは、2人共嫁として娶ってくれ、って話よ」

「…いきなり男らしい物言いだな」

 でも、流石に理解した。嫁として貰ってくれ、という話か。未だ頭は混乱しているが。

 結婚は兎も角、女性と付き合った事は、高校生の時に一度だけある。

 だがあれは、恋愛と呼べる物でも無かった。恋人のテンプレをただトレースするだけの関係だったのだ。其処に愛情など無く、結局自然消滅してしまった。

 そんな恋愛素人の俺が、段階を数段飛ばして求婚されている。しかも2人から。何の冗談だろうか。

 …などと現実逃避をしたくもなるが、2人ともこういう冗談は言わないのは重々承知だ。ならば真剣に考えなければ。

 俺は独り身だ。元の世界に戻りたいとも思わない。この世界に骨を埋める覚悟は出来ている。

 ならば問題無い、と言いたい所だが、俺自身が2人をどう思っているのか。

 アンバーさんは俺の師匠で、色々な事を教えて貰った。情けない姿を見せた事もある。マイペースに見えて思慮深い一面も知っている。

 アルトは俺の一番弟子で、教え教わる関係だ。刺客から守れなかった事は今でも悔いている。素の性格はさっぱりしていて、頼もしくも思う。

 共通しているのは、2人とも大事な仲間だと言う事。そして何よりも守るべき対象だと言う事だ。

 …ならば、俺は何時まで守るつもりなのか。

 もしそう問われれば、この身が果てるまで、と胸を張って言える。

 ならば一番近くで、一番手の届く距離で守り続けるのも良いのではないか。

 そう考えた時、俺は思わず笑みを浮かべていた。それが俺の気持ちだ。

 俺は2人に向かい、言った。

「俺は、2人の事がとても大事だ。それに好きだ。だけど好きの度合いは良く判らない。でも、これだけははっきり言える。俺はずっと2人を守りたい。一番近くで、手を取り合って、守り続けたい」

 そうして、俺は2人に向け両手を差し出す。

「…そんな俺でも良いのなら、俺の手を取ってくれ」

 そう言うや否や、2人が同時に俺の手を握った。

「貴族だもの、自由恋愛出来るだけでも幸せなのよ。それが好きな相手と一緒になれるなら、最高に幸せよ」

「…次は子作り」

 …アンバーさんの言葉は必死で聞き流す。脳内が煩悩で支配されそうになる。

 アルトが今までに見た事の無い微笑みを浮かべ、言った。

「じゃあ、まずは婚約ね。通知の書類は準備済みだから、明日にでも送っておくわ。ああそうだ、立場上、私が正妻ね。姉様も納得しているわ」

 おお、流石はアルト。話が決まると行動が早い。敏腕だ。

「…他に何か、やる事はあるのか?」

「婚約は通知だけで良いけど、結婚はお披露目パーティを行なうのが通例よ。その時はお父様の屋敷を使わせて貰えば良いわ。流石に此処でやる訳には行かないもの」

 それはそうか。流石にパーティは王都でやらないと、他の人が困るよな。

「あ、それよりもクリミル伯爵に挨拶しないと」

「それは大丈夫よ。既に言質は貰っているし、私達の望みも伝えてあるから」

「そんな所まで先手必勝なのか…」

 其処は頼りになる嫁だと思っておこう。

「という訳で、師匠は屋敷を建ててね」

「…え?何それ?」

「貴族が嫁を迎える時は、屋敷が必須よ」

「…私もお金を出す。安心して」


 そんな訳で、翌日から俺の屋敷の建築が始まったのだった。

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