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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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第60話

 領主の館に到着した俺達は、馬車を降りた。

 なお着替えているのは俺だけで、俺以外の3名は普段通りの恰好をしている。護衛と文官と言う役割の為だ。

 領主の館は湖沿いの一番奥に位置していた。王都にあるクリミル伯爵の館よりも大きい。その威容に比例した権力の大きさを伺わせる。

 事前に面会は通達されているので、馬車の紋章のみで身分証明は完了した。俺達は館の中へと案内される。

 ホールとエントランスには、高級そうな調度品が並ぶ。だが正教国としての象徴か、中央には女神像が置かれていた。教会にあった物よりも、精巧だが小さい。

 そして1階の応接室へと案内される。席には俺が中央に座り、シアンが筆記の為に脇に座る。そしてアンバーさんとリューイは、護衛として俺の後ろに並んで立っている。

 紅茶が用意されて僅かの間を置き、領主が応接室に入って来た。そして俺の真正面に座った。

 見た感じは40~50代、口髭を生やした精悍な男性だ。てっきり漫画のような肥えた人物が来るかと思っていたので、意表を突かれる。どうも悪代官のイメージが強いようだ。

「まずは大使殿。我が領にお越し頂き、歓迎の意を表明致します。この領を納めます、ヨーク=ライドウと申します」

 渋い声色が響く。同時に狡猾さや油断の無さを感じさせる。

 それにしてもライドウ…雷同?何となく日本的な姓だが、名前も外見も日本的では無い。

 ひとまず俺は挨拶を返す。

「丁寧なご挨拶、痛み入ります。私はユート=ツムギハラ子爵。この度の親善大使として、国王陛下より任じられました。私もこの国を直接訪問する事が出来、光栄に感じております」

 そして俺はシアンに目配せをする。シアンは頷き、俺に長細い箱を手渡して来る。

 俺はその箱を前に差し出し、説明する。

「後日、正式に教主様には親善の意を表させて頂きますが、領主様にも簡易ではありますが、書簡と寄進料をお納めさせて頂きます」

「これはご丁寧に。後で確認させて貰います。…それでは」

 その一言と同時、空気が張り詰めたように感じた。

「アーシュタル王国と言えば精強な騎士団が有名ですが、最強の第1騎士団長が数年前に代替わりし、威光が翳ったと聞きますが?」

 早速、探りを入れて来たようだ。思った以上にあからさまだが。

 騎士団の件は公表されている情報だ。嘘で隠しても意味が無いだろう。此処は正直に答えておく。

「…ええ。確かに前任の者よりも個の実力は足りないようですが、組織としては充分以上に機能しております。それに前任の者は私も個人的に交流がありますが、有事の際には勅命依頼での招集に応じますから、戦力的な不安とは感じませんね」

「…成程。それは何とも頼もしい」

 領主は表情を変えず、俺の答えを受け流す。

 その後も胡乱な会話は続き、その度に俺はケビンさんの言った方針通り、若干の過大評価で返して行った。

 それにしても、終始質問が露骨だった。領主はやり手な感じがするし、もっと遠回しに探りを入れて来ると思っていたが。これでは、こちらの警戒心を高めるだけだと思うのだが。

 …それが狙いか?だがそれで、正教国が得をするとは思えないが。領主がただ思ったより直接的だっただけか。

 そんな感じで、領主との謁見は終了したのだった。


 宿に戻り、前日より早く戻って来たケビンさんと情報交換を行なう。

「…そうですか。警戒しろと言わんばかりの対応ですね。領主の意図は不明ですが、戦争の可能性は高くなりましたね」

 ケビンさんの言葉に、俺とシアンも頷く。領主の言動が情報攪乱で無ければ、最早戦争の意思は確定的だろう。

「私の情報収集の結果ですが、思っていた以上に正教都への物資の輸送が増えているようです。確かに兵の保有数自体に差はありますが、この領の軍事力で先制し出鼻を挫き、戦意を喪失させようと言う意図は薄いと感じます」

「…それは、王国が相手の可能性が低い、という事ですか?」

「若しくは、正教都で大々的な出兵を行ない、兵力差で力押しして来るか、でしょうか。もしその場合、軍事パレートは明確なトリガーになり得ます」

 そうか。軍事パレードで士気を上げ、そのまま進軍。明確な兵力差もあるなら、有効な手段だろう。

「…これは思った以上に、状況が逼迫していませんか?」

 俺は思わずそう呟く。悪い情報ばかりが揃っており、そのタイムリミットも近付いているようだ。

「そうですね。現時点までの情報を纏め、届けさせます。杞憂に終われば良いですが、1日の行動の遅れが致命的になり兼ねませんので」

「お願いします。…俺達の行動も、1日早めた方が良いのでは?」

「移動を早めても、教主との謁見の日程は変わりません。ですが正教都での情報収集を1日早める事にはなります。…そちらの方が良いだろう、と?」

「はい。…直感で申し訳無いのですが、此処の領主は政略・調略面でも有能だと思います。これ以上は情報に踊らされる恐れがあります」

「…シアン殿は、どう感じましたか?」

「…私も、領主の底知れなさは感じました。もしあの発言がわざとだとしても、意図がどうしても読めません。ならば取捨選択の1つとして、正教都に向かうのも手だとは思いますね」

「そうですか。…直接謁見した2人が言うのでしたら、そうしましょう。明日、移動を開始します」

 ケビンさんも納得してくれたようだ。曖昧な判断材料で申し訳無かったが。

「それじゃ、アンバーさん達には俺が伝えておくよ」

 俺はそう言い、アンバーさん達に明日出発の旨を伝えた。そして眠りに付いた。



 深夜、私は目を覚ます。

 恩寵『探査の極み』が、此処に近付く1人の人間が居る事を知らせる。レベルは135。領主の配下のようだ。

 このレベルで1人なら、暗殺の類では無さそうだ。私は息を潜め、その動きに集中する。

 その者は部屋の前に辿り着くと、しゃがんで何かを置く。どうやら扉の下に手紙を差し込んだようだ。

 そして、その者は立ち去って行く。追って接触するべきか、逡巡する。…相手が秘密裏に来たのだ、接触するのはリスクが大きいだろう。そう判断する。

 私はその者が遠ざかったのを確認し、扉に近付く。確かに手紙があったので、抜き取り封筒を確認する。宛名や差出人等の情報は無い。

 私は封を切り、中身を確認する。…その内容に驚きを隠せなかった。だが確かに、そういう理由なら話が繋がる。

 …今直ぐ皆を起こして話をしても、怪しまれるだけだろう。ならば明日の道すがら、この情報を伝える方が良い。

 私はそう判断し、手紙を懐に仕舞い、再度眠りに付く。


 …彼の裏を取る時間は無い。私達は信じて進むしか無さそうだ。

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