表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
168/176

第167話

「ふむ、そろそろ良い時間だな。この辺りで野営を行なう事にしよう」

「………」

 此処に来るまでの道中、彼は本当に1人で戦っていた。そして苦戦する事も無かった。

 それでも本気を出していないので憶測だが、スタウトさんよりも強いのでは無いだろうか。

 怪しまれないように遠回しに話題を振った結果、判ったのは彼の言動と性格が素だという事だけであった。噂については何一つ判らなかったのだ。

 彼に噂の出所を隠そうとする様子は無く、単に遠回しな問いの裏を読んでくれないだけだった。

 これなら怪しまれようが、いっそ直接聞いた方が早いだろう。俺はそう結論付け、早速尋ねてみた。

「あの、スターレンさん」

「む、何だ?」

「私も冒険者ですが、魔王が生きているなんて噂は聞いた事が無いんですが。何処で聞いた話なんですか?」

 すると彼は一瞬思案顔を浮かべ、そして答えた。

「…私自身だ」

「…?」

 どういう意味だ?彼自身が噂の出所だという事か?それなら只の妄言だが。

「あの、それはどういう…」

「この話は此処までだ。続きはその時が来たら話そう」

 …はぐらかされたのだろうか。だかこれでは追求しても無駄だろう。

 俺は大人しく野営の準備を進めた。彼が用意した竈で料理を作り始める。

 そして夕食。対面に座る彼は、心底美味しそうに料理を食べていた。

 言動と行動に変な所はあるが、根は善人なのだろう。相手にすると疲れるタイプではあるが。

 そして彼が先に見張りをするとの事で、私は寝袋に潜り込む。

 問題無さそうな気もするが、一応身体の心配をするべきだろうか。想像するだけで気分が悪くなるが。

 とは言え、訓練による疲労もあり俺は直ぐに眠りについた。


「そろそろ時間だ、起きてくれたまえ」

 肩を揺すられ、俺は目を覚ます。…もう時間か。

 こっそり確認するが、着衣の乱れなどは無いようだ。一先ず安心する。

 ふと見ると、新しい魔物の死体が数体あった。どれも大型だ。

「見張り中に魔物が?」

「ああ、何匹か襲って来たな。だが問題無い、私だからな」

 良く見ると全て一撃で葬られている。物音で俺が起きる事も無かった。やはり相当な実力者だ。

「では私は眠らせて貰う。何かあれば起こしてくれて構わぬぞ」

「…そうならないよう善処します。お休みなさい」

 俺はそう答え、焚火の前に座る。

 直ぐに彼の寝息が聞こえて来た。随分と寝付きが良い。神経図太そうだしな。

 …さて、もう直ぐ表向きの最下層だ。俺の持っている宝玉が無ければアイリさん達の所には行けないが、彼は大人しく引き返すだろうか。変な行動力と決断力があるタイプなので、心配ではある。

 とは言え、成り行きに任せるしか無さそうだ。彼1人で行かせるよりは、何かしら対処が出来るだろう。

 なお俺の見張り中にも魔物が来たが、彼を起こす事無く対処出来た。


 朝、野営を撤収し進み始める。見張りが居た分、普段よりは休めたようだ。

 彼は今日も絶好調のようだ。襲い来る魔物を一撃で葬って行く。力強く、それでいて流れるような攻撃。シェリーさんに近いだろうか。

 俺自身は楽だが暇だ。訓練で来ているので、俺も魔物を相手にしたいのだが。

「私の目の黒いうちは、少女を守るが使命!この使命は絶対だ!」

 …との事だ。ちなみに目が黒くないのは寝ている時だけのようだ。

 倒された魔物の魔素を多少は取り込んでいるので無駄では無いのだが、それなら身体強化の魔力の魔素変換の方が効率が良い。

 そしていよいよ、玉座の間に辿り着いた。俺は一先ず彼の行動を見守る。

 すると彼は迷う事無く玉座の裏側へと向かった。何か確信があるのだろうか。

「…どうしました?」

「この辺りから風の流れを感じる。隠し通路があるようだな」

 まさか斥候の技術も高いとは、本当に油断ならない。

 そして彼は石畳の継ぎ目に剣を突き刺し、抉り始めた。今度は力業だ。

 此処で止めに入ると、確実に怪しまれるだろう。なので我慢し趨勢を見守る。

「…ふんっ」

 がこんっ、と音が鳴り、拳大の隙間が現れた。本当に力づくで開けてしまったようだ。

 彼は隙間に手を掛け、力いっぱい押し込む。石の擦れる音と共に、徐々に隙間が広がって行く。

 そうして最終的には、最下層へと続く階段が現れていた。

「やはり隠し通路か…。いよいよ信憑性が増したようだな。行くぞ」

 俺は無言で後に付いて行く。彼がアイリさんと戦いになった場合、俺はアイリさんの味方をする。それは決定事項だ。

 問題は彼を脅すに留めるか、情報を確実に漏洩させない為に殺すか。その一点だ。

 そんな俺の思考はつゆ知らず、彼はどんどん先へと進んで行く。


 そして俺達は1枚の扉の前に辿り着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ