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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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第154話

 森の奥、木々の隙間のその先に、赤い毛並みをした熊の群れが居た。

 俺は声を潜めて呟く。

「周藤さん、恩寵の力で此処からでも狙える筈です。眉間か目の辺りを狙ってみて下さい」

「え…練習も無し?大丈夫なの?」

「大丈夫な筈だ。恩寵が理想的な身体の動きを教えてくれる。それに身を任せれば良い」

 澪も後押しするように付け加える。

「じゃあ…行くわね。それっ」

 弦が引き絞られ、続いて空気を裂く音と共に矢が放たれる。

 矢は一直線に木々の隙間を抜け、僅かに見える1体の左目を貫いた。そのままレッドベアーは地に倒れ込む。どうやら矢の先が脳まで達したようだ。

「きゃっ、何これ?身体がぴりぴりするんだけど?」

「魔素を取り込んで、レベルが上昇した証拠です。このまま可能な限り狙い撃って下さい」

「わ…判ったわ」

 周藤さんは動揺しながらも次の矢を番える。そして次々に矢を放ち、その度にレッドベアーが倒されて行く。

 澪の時にも思ったが、やはり武器系の恩寵は効果が大きい。レベルや技量を補って余りある効果だ。

 気付くと群れの半数以上が倒されていた。

「私が受けた依頼だからな、残りを倒して来る」

 そう言い、澪が木の影から飛び出す。残り3体に次々に飛び掛かり、全て一撃で葬った。

 澪も冒険者として経験を積んだらしく、以前よりも動きが良くなっていた。

 澪が戻って来て、口を開いた。

「良し、これで討伐完了だ。後は討伐の証拠となる部位を剥ぎ取れば良い。さあ一緒にやるぞ」

「え、あの死体を触るの?」

「冒険者なら日常業務だ。レッドベアーは右手が指定部位だからな、ナイフは貸してやる」

「うえぇ…。魚を捌くのすら嫌いなのよ私ぃ…」

 周藤さんが嫌そうに澪の後を付いて行く。確かに慣れないうちは大変だろう。

 俺と祥は剥ぎ取り中に魔物の奇襲を受けないよう、周囲の警戒を行なう。気配感知の範囲内では、数体の魔物が散見される。未だ近付いて来る気配は無さそうだ。

 暫くすると、剥ぎ取りが終わったと澪から声が掛かる。2人とも手が血でベトベトだった。

「祥、水を頼む」

「了解っす。2人とも手を出して」

 祥が水属性魔法を使い、2人の手を洗わせる。

「これが魔法なのね。便利だわ…私にも使えないかしら?」

「自分の持つ属性なら使えるっすよ。兄貴、属性の魔石ってあります?」

「ああ。…じゃあ周藤さん、これを持って貰えます?」

 俺は周藤さんの掌に、4属性の魔石を置く。すると緑色の石が反応した。

「属性は風ですね。遠距離・阻害・防御と扱い易い属性です」

「へーえ。魔法って直ぐに使えるの?」

「魔導書を読んで、更に魔力の制御とかを訓練する必要があります。誰か扱える人の指導を受けた方が良いですよ」

 恩寵のある祥は兎も角、俺はアンバーさんの指導が無ければ当分扱えなかっただろう。

「さて此処での依頼は完了だが、もう1つ依頼を受けている。そちらに向かっても良いか?」

「ああ。ちなみにどんな依頼だ?」

「この先の山道で被害を出している、山賊の討伐だ」

「山賊って…人間相手なの?殺すの?」

 俺も経験した事だが、これが日本人として普通の反応だろう。

 俺は澪に尋ねる。

「その依頼を受けたって事は、経験済みか?」

「ああ、以前の依頼でな」

「祥はどうだ?」

「殺しの経験は無いっすよ。巡回でも夜盗の類には遭遇してませんし」

「なら丁度良い。この世界で生きて行くなら、一度は経験しておくべきだ」

 俺はそう言い、澪の案内で次の場所へと向かう。


 森を抜けて暫く歩き、被害が報告されている山道に到着した。

「さて、此処から根城を探す必要があるのだが…」

「なら方法がある。ちょっと待っててくれ」

 俺はそう言い、千里眼を発動させる。対象は山賊だ。

 すると此処から500メートル程離れた所に、複数の人の気配がある。

「方向は…こっちだ。人数は10人。休憩中っぽいな」

「え?何で判るの?魔法?」

「女神に会いに行って、貰いました。結構便利ですよ」

「へー、私も貰えるのかしら?」

「条件が厳しいですからね。冒険者として頑張っても、正直難しいと思いますよ」

 俺はそう正直に答えた。神霊を倒せるレベルになるのは至難の業だろう。


 そんな会話をしつつ、俺達は目的地に近付いて行った。

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