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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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第150話

 女神像に向かい祈りを捧げる聖女からは、目には見えないが物凄い魔力が渦巻いていた。

 俺の隣に居る教主はにやりと笑い、小さく囁いた。

「凄まじかろう?お主には及ばぬが、最早魔力量は人外の域じゃ」

「…神霊一体だけじゃないんですね」

「察しが良いの。女神様の前で、限界まで融合させたのでな。身体が弾けぬかと冷や冷やしたがのう」

 身体の崩壊を無視するやり方だ。だが俺は感じた憤りを胸の内に留める。

「少なくとも、治癒術士としては世界最高じゃろうて」

「…八大竜王に目を付けられます。今後は控えられた方が良いかと」

「ほう…お主の所に竜族が居るのも、同じ事情かの?」

「まあ成り行きですが。兎に角、最悪の場合は竜族が総出で排除に動くかも知れません」

「それはまた儲けの無い戦争じゃの。気を付けるとしよう」

 そう言うと教主は聖女の方を向く。俺もそれに倣った。

 聖女の祈りは続いていた。その情景は、荘厳だが空虚。それが率直な感想だった。

 祈りが終わると、聖女は続いて女神像と教会の四隅に聖水を降り掛ける。

「…終わりました」

 その言葉に教主が聖女を労う。やり口は正直言って非道だが、お互いに信頼関係はあるようだ。

 続いて俺が女神像に供物を捧げ、式典は終了した。

 後は食事を振舞って完了となる。俺は再度屋敷へと案内した。

 そして屋敷の食堂で食事を振舞う。教主と聖女の向かいには、俺と妻達が座る。

 萌美は元聖女という事もあり、少々複雑な表情をしている。楓は単純に緊張しているようだ。

 アルトは場慣れしているので平然としている。アンバーさんはいつも通りだ。緊張しない性格なのだろう。

 俺はシアンに声を掛け、教主の背後に立つ司祭にお布施の金貨を渡す。段取り通りだが、何とも世知辛い。

 そんな中、教主が口を開いた。

「せっかくの場じゃしな、ぶっちゃけた話でもさせて貰おうかの」

 そう言い手を挙げると、それに従い後ろの司祭と護衛が部屋を出て行く。

「さて…。まず、我が国は当面王国とは事を起こさん。攻めるなら他の国にするわい」

「…いきなりですね。理由を伺っても?」

「王国の最大戦力に手が出せぬからよ。今日はその見極めの目的もあったのじゃがな、相手にするのは悪手と判断したのじゃ」

「随分とあっさりですね。もっと搦め手や強硬手段も、選択肢としてあるかと思いますが」

「教会で話しておったろう。竜族が出張るなら流石に不利じゃて」

 どうやら、あの時の忠告は受け入れて貰えたようだ。

「儂一人で精々八大竜王の一角、この聖女様でも白竜王と黒竜王には敵わぬであろう」

「流石に詳しいですね」

「若かりし頃の研究は、多方面に渡っておったからの。寧ろ1年そこらで、世界の根幹に関わるお主の方が稀じゃて」

 思った以上に評価されているが、それよりも随分と情報を知られている。教会の人員以外にも情報の伝手があるのだろうか。

 そんな俺の表情を読んだのか、教主は笑顔で言葉を続けた。

「長年権力を持っとるとな、子飼いも増えるものじゃよ」

 やはり情報収集専門の部隊が存在するようだ。王家隠密のようなものだろうか。

 横では萌美が聖女に話し掛けていた。

「…辛かったりしませんか?」

「いえ。貧民だった私を掬い上げてくれたのですから、この程度は恩返しにもなりません」

「…そうですか。すみません、私には辛い思い出ばかりでしたので」

「経緯は教主より聞き及んでおりますよ、先輩。今はお幸せなのでしょうから、お気になさらないで下さい」

「…有難う。私の分も頑張って」

 聖女本人も納得しているのなら、俺がとやかく言うのもお門違いだろう。

 若干物騒な話もあったが、食事も無事に終わった。

 後は国境まで見送るだけだ。俺達は兵を集めて村の入口に集合する。

 そして教主達の乗る馬車に並び、正教国との国境まで進んだ。

 此処でお別れという所で、教主が馬車の窓から手招きして来た。

 何か用件かと思い近付くと、教主は小声で話し掛けて来た。

「未だ会っておらぬ竜族が居るじゃろう?」

 本当に何処まで知っているのか。恐らくは教会での俺からの忠告も、既に知っていたのだろう。

「…慈竜、ですか」

「そうじゃ。住処は正教国内にある。機会があれば元聖女様も連れて行ってみるが良い」

「多分ですが、親切心だけじゃないですよね。何か企みでも?」

「人聞きが悪いのう。じゃか正解じゃ。儂は嫌われておるのでな、様子を伺って欲しいのじゃよ」

「過去に何かやったんですか?」

「言ったじゃろう?研究の一環じゃ。治癒魔法しか扱えぬなら容易かろうと思ったのが、間違いじゃったわい」

「…それ、人族全体を嫌ったりしていませんか?」

「だから竜族の伝手のあるお主に頼んでおるのじゃ。頼んだぞ」


 そう告げると、教主達の乗った馬車は国境を越えて行った。

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