第111話
村の近くに到着した俺達は、取り敢えず様子を見てみる。
千里眼では、あの村に転移者が居るのは確かなようだ。村の北側に居るようなので、そちらが見える位置に移動する。
すると転移前そのままのブレザーを着た女性が一人、村の入口の前に陣取っていた。その手には柄の赤い槍が握られている。
そして北の方から灰色の体毛をした巨体、アッシュベアーが1体襲い掛かって来た。
彼女は怯む事無く前に出る。そして繰り出される爪の攻撃を全て弾き、足を狙い一閃。
動きの鈍った相手の側面に回り込み、首元を一突きした。絶命の咆哮を挙げ、倒れ込む巨体。
その動きはS級冒険者とも遜色無いものだった。やはり恩寵の力なのだろう。
だが転移時の服装のままなのは、転移したのが最近なのだろうか。
疑問は色々と思い付くが、目的の為にそのまま村の入口へと近付く。
すると向こうからこちらに近寄り、話し掛けて来た。
「旅の者か?この村周辺には魔物が頻繁に出現している。危急の用で無ければ、此処を離れた方が良いぞ」
溌剌とした、若干男勝りな口調。ポニーテールの似合う、明るい雰囲気の美人だった。
俺は早速目的を話す。
「いえ、私の目的は転移者の手助けです。…10人目の転移者で合っていますか?」
彼女は俺と楓の顔を見て、答える。
「…見覚えがある。2人も転移者か」
「ええ。…話を伺っても?」
「では村に入ってくれ。私が世話になっている、村長の家で話を聞こう」
俺達は彼女の案内を受け、村に入った。
周囲を見渡すと、俺達の村よりも人は少なそうだ。農業と畜産が主産業だろうか。
そして案内されるままに、比較的大きな家へと案内される。此処が村長の家か。
中に入り、応接室に案内される。向かいには彼女と初老の男性が座った。
「こちらが私が世話になっている、この村の村長だ。そして私は本庄 澪と言う」
「私は紬原 侑人、隣の彼女は柳 楓です。アーシュタル王国から来ました」
「…それで、転移者の手助けとは?」
澪さんの問いに、俺は答える。
「今、同じ王国内に6名の転移者が居ます。また、2名が既に死亡した事を確認済みです。残り4名について、もし困っているなら助ける為に行動しています」
「助ける事で、貴方に何のメリットが?」
「本人が承諾すれば、兵として部下になって貰っています。…一応、貴族として国に仕えていますので」
「成程ね、目的は判った。で、どうやって私を見付けた?」
「光の塔はご存じですか?」
俺が問うと、澪さんは首を傾げた。すると隣の村長が口を開く。
「正教国にある、あの光の柱ですよね。存じています。…ミオ様、あの遠くに見える光の柱の事ですよ」
「ああ、あれか…。で、それが?」
「塔の頂上には、あの女神が居ます。私は塔を踏破し、女神に再会しました。その時に授かった力を使いました」
「何と…!女神エフィール様にお会いになったとは…!」
村長は驚きに打ち震えている。この国は女神信仰なのだろうか。
すると澪が口を開く。
「判った。なら助けて欲しい。さっきも話したが、この村周辺では頻繁に魔物が出現している。少し前には大軍が押し寄せた事もあった。常に防戦一方で、私はこの村を離れる事も出来ない。…何とかならないか?」
「…村長さん、この村の近くにダンジョンはありませんか?」
「どうでしょう。この村は数年前に開拓されたばかりで、あまり周辺の調査はされていないのです」
「そうですか…。少し待っていて下さい」
俺は千里眼を発動させる。意識するのはダンジョンだ。
すると北の方向、2キロ程先に1つのダンジョンが見付かる。近場には他には無さそうだ。
「…近くに1つダンジョンがあります。可能性があるとすれば、其処から魔物が溢れているかも知れません」
「そんな事があるのですか?」
「ええ。私の国では意図的に行われた事例もありましたが、自然にでも間引きをしないと魔物が溢れて来ます」
この国もグランダルとは国境を面しているので、同様に魔素が増幅されている可能性もある。ただ間引きをするだけでは不安が残る。
なので俺は提案をする。
「実情を知る為にも、そのダンジョンに潜りたいと思います。それで自然によるものでしたら、入口を塞ぐ等の処置を行ないます。そうすれば魔物の異常発生は食い止められると思われます」
「そうか。なら私も連れて行ってくれ。この件に関わった身だ、最後まで見届けたい」
澪さんは真剣な表情で告げる。
あの戦いぶりを見る限り、戦力としては充分だろう。
「なら、是非同行をお願いします。村長さんも、それで良いですか?」
「ええ。それがミオ様の望みでしたら」
しかし村長までが様呼びとは、本当に英雄扱いのようだ。
「では明日の朝に出発としましょう。…この村に宿屋はありますか?」
「ええ。では私が案内しましょう。ミオ様は申し訳ありませんが、また警備をお願いします」
「判った。では明日の朝にまた会おう」
澪さんからそう告げられ、村長の家を出る。そして案内された宿屋で部屋を取った。
丁度商人が滞在しており1部屋しか取れなかったが、申し訳無いが楓には我慢して貰おう。
そうして、その日の夜は更けて行った。




