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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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第110話

 俺は早速、今後に備えて目標を設定する事にした。

 目安として、兵を全員冒険者ランクで言うA級、可能ならS級に到達させる。これは可能だと考えている。

 既に現状で、冒険者よりも訓練や魔物との戦闘を多く行なう事が出来ている。なので更に改善すれば、より効率的な育成が出来る筈だ。

 今は普段の訓練は村で行ない、俺の召喚魔法を活用。実戦は魔王城で行なっている。現状改善出来る部分は、召喚魔法で呼び出す魔物だろう。

 育成支援でも止めを刺させる事が重要なのだから、精霊を呼び出して止めを刺させればレベル上げは効率化出来る。

 問題があるとすれば、基本的に召喚魔法は召喚と帰還しか行なえない。召喚後は本能で行動する為、行動をコントロールする事は出来ないのだ。

 そう言った事情から、まずは訓練場を整備する事にした。具体的には、全体を厚い塀で囲む。これで村に被害が及ばないようになり、多少危険な魔物も召喚出来る。

 そして訓練場の整備が終わったら、今度は時空魔法を活用する。これで多少実力差のある魔物も倒す事が出来る。だが楓では未だ魔力量が不足気味なので、俺が対応する事にした。

 仮に大怪我をしても、即死で無ければ萌美の治癒魔法で対処出来る。

 これで現時点では理想的な訓練体制が構築出来た。問題があるとすれば、俺が不在になると効率が落ちる事位か。


 訓練を改善して暫く後、ケビンさんからの報告が来た。其処で俺からも教主について報告をしておく。

 新たな情報は若い女性、恐らくは10人目の転移者との事。正教国よりも更に離れた国、その中の1つの村で英雄として祀り上げられているらしい。

 かなり遠方である事に迷ったが、方針の1つなので結局行く事にした。

 かなりの量の水と食料を馬車に積み、出発する。今回は何故かアルトに勧められ、楓を同行させている。まあ相手も女性だから、楓が居れば警戒もされ難いだろう。

 長旅がてら、楓の育成状況を確認する。

 時空魔法自体は恩寵により全て習得済み。但し魔力量の問題で、上級以上は効果が殆ど見込めないそうだ。其処は今後の成長に期待だろう。

 そして槍術もだいぶ様になって来た。今では他の一般兵との模擬戦もこなしているとの事。それに水魔法も上級まで扱えるようになっている。時空魔法を除いても相当なものだ。

 そして世間話へと話題が移る。

「…そんな訳で、トールさんは適当、リューイさんは厳しい、萌美さんは甘い、って感じです」

「あー、トールの適当は問題だよなぁ。リューイとバランスが取れているとも言えるけど」

「そうですね。ただどちらも信頼されていますので、不平不満はありません」

「なら良いか。それにしても、萌美は甘いのか」

「はい。集合に遅れても注意されるだけで済みますし、怒る事もありません。でも、それに甘える隊員も居ないので、今の所は大丈夫かと思います」

「そうか。…ちなみに祥はどうだ?」

「真面目にやってますよ。訓練も一生懸命ですし、何故か食事に喜んでました。ただ兄貴兄貴と連呼してまして。…誰の事なのでしょう?」

「…さあ、誰だろうな…」

 実害は無いのだが、あいつには一度強く言ってやるべきか。

「ちなみに、私もあまり詳しくないので何ですが、異常な程に兵を鍛えてますよね」

「ああ。…何か問題があったか?」

「いえ。ただグランダルとの戦争の際も、既に他の兵よりも精強でした。なので更に鍛える理由でもあるのかと」

「…まあ色々と理由はあるんだが、一番は誰も死なないようにする為だな」

「そうですか。部下想いの上司で良かったです」

 そう答え、楓が年相応の笑顔を浮かべる。

「まあ、正教国に対する抑えの意味もあるからな」

「『王国の最大戦力』に見合うように、ですか?」

「…それ、止めて欲しいんだよなぁ」

 言われる事自体は構わないが、あまり期待され過ぎても困るのだ。

 そんな事を考えていると、楓が話題を変えて来た。

「そう言えば今回の目的の転移者って、どんな人なんですか?」

「年齢は俺よりちょっと下くらいの女性で、魔物の大軍から村を守った英雄だそうだ。武器は槍で、恐らく恩寵は槍の扱いなんだろうな」

「そうですか。何か近接の恩寵は珍しいですね」

「まあ今の所、魔法と補助だけだしな。近接の恩寵がどの程度なのかは気になるな」

「しかも女性ですか…」

「…?何か気になるのか?」

「あ、いえ。ただ奥様が増えるのかと」

「…そういう風に見られてるのか俺?」

「冗談ですよ。ただアルト様が警戒していたので」

「信用されてないのか?いや、只の冗談だよな。多分…」

「まあ一夫多妻の立場とは言え、一気に3人ですから。それに奥様方からは、もう少し増えると思われているみたいですよ」

「いや、既に手一杯なんだが」

「…せめてもう1人分、空きがあると助かります」

「…?どういう意味だ?」

「い、いえ。何でもありません」

 楓は慌てて返答する。何か隠し事でもあるのだろうか。

 まあ今回は長旅だ。折角なので焦らずのんびり行こう。


 そんな事を考えながら、馬車は街道を進んで行った。

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