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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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第9話

 早速、アンバーさんによる魔法の訓練が始まった。

 アンバーさんは以前にも見せてくれた魔法書のページを開き、説明する。

「前にも教えたけど、魔法の陣は二重の円の内側に六芒星、円と円の間に魔導文字が並んでる。まずは魔導文字は無視して、二重の円と六芒星を描く所から」

 アンバーさんは右手を翳し、俺にでも判るように陣を描く。

 掌に集中した魔力が紐状に伸び、ゆっくりと一つの円が出来た。続いて内側にもう一つの円。次に内側の円の大きさに合わせた三角が2つ、それぞれ上下逆に重なる。

「イメージは、集めた魔力をインクに見立て、空中に絵を描く感じ。やってみて」

 言われて、俺はまず掌に魔力を集中させる。そして正面に翳し、集めた魔力を制御して紐状に伸ばしてみる。

 俺の魔力は数センチの長さで伸び、うねうねと不規則な動きを続ける。魔力の紐で円を描くのではなく、魔力の紐の先が円の形をなぞっているような感じだ。

「…制御は出来ているけど、イメージが上手くいってない。恐らく、集めた魔力がペンのイメージになってる。魔力をペン先に付いたインクだとイメージして」

 アンバーさんのアドバイスを受け、イメージし直す。日本ではインクを付けるタイプのペンは珍しい部類だったので、イメージを書道の筆と墨に置き換える。

 架空の筆先に魔力の墨を付け、正面に円を一筆。…描けた。円をもう一つ。三角を描き、逆三角も描く。イメージが筆のため描き終わりが少し掠れているが、何とか形になった。

「…何か珍しい筆体をしてるけど、良く出来た。そのまま維持していて」

 アンバーさんはそう言うと、開いていた魔導書のページを俺の方に見せる。

風旋縛ウィンド・バインドの魔導文字。円と円の間に描いてみて」

 俺はその言葉に従い、『風の渦を生み、対象を絡め取る』という意味の魔導文字を描き込む。転移者による言語知識はあるが、魔導文字を描くのは初めてなので慎重に描いた。

「…これで魔法の陣は完成。それじゃバラン、宜しく」

 アンバーさんがそう言うと、特訓で散々倒したジャイアントラットが1匹現れた。バランタインさんによるものだ。

「此処からは動かぬ。安心して試せ」

「それじゃユート、ジャイアントラットに掌を向けて」

 アンバーさんに言われるがままに掌を向ける。掌を動かすと、陣も追随して動くようだ。

「掌に残った魔力を、描いた陣に全部注いで。注ぎ終わったら、魔法名を唱えて」

 掌の魔力を、描いた陣に注ぐ。残った墨を継ぎ足すイメージだ。そして魔力を注ぎ終え、魔法名を唱える。

風旋縛ウィンド・バインド!」

 ダークウルフとの戦闘の時に見たのと同様に、風が蔦のようにジャイアントラットに纏わりつく。発動成功だ。

「これが魔法の発動までの一連の流れ。特訓すべきは発動までの時間。つまりは陣を描く速さを上げること。あと、敵を倒すには攻撃魔法も必要だから、同じ初級魔法の風旋斬ウィンド・カッターも覚えて貰う」

 アンバーさんもスパルタなのか、初めての魔法発動成功の余韻に浸る暇も無い。でもこれでまた一つ、成功体験を得られた。


 俺は風旋斬ウィンド・カッターも覚え、その後は先程までのバランタインさんとの特訓同様、召喚される魔物を魔法で倒し続けた。

 違うのは、途中途中でアンバーさんからのアドバイスが入る事だ。アンバーさんは必要な魔法を教えたら戻るのかと思っていたが、一緒にバランタインさんの部屋に残っていた。またバランタインさんが興が乗ってしまい、時間の流れを遅くしないよう、監視でもしているのだろうか。



 そんな感じで、俺は午前は20日間の近接戦闘、2日間の魔法訓練をこなし、午後はアイリさんとの情報交換をして過ごした。

 その間、マーテルさんが見かねて俺の服を買ってきてくれたり、アンバーさんの要請でバランタインさんの部屋にシャワーを設置したり、アンバーさんが初級の魔法書を貸してくれたり、アイリさんの晩酌に付き合ったりした。

 …あとは、俺が風呂に入っている時に、アイリさんが酔っ払いながら、裸で突撃してきた事があった。

 アイリさん曰く「魔族と人族とでは、子供は出来ないから大丈夫!」との事だったが、意味不明だ。

 勿論、俺も健康的な成人男性だ。欲求は当然ある。しかし、そういう関係になるのには順序がある。この世界のその辺りの常識は知らないが、お互いに恋愛感情を抱き、付き合ってからの事だろう。

 結局アイリさんはマーテルさんに引き摺られて行き、事無きを得たが、よくよく考えれば女性3人と同居しているのだ。今後着替えや風呂で鉢合わせたら、アイリさんはともかく、他の2人の場合、その後が気まずい。

 今後は必ずノックをし、気配感知も常に最大に発動しておこう、と心に決めた。



 そして、俺がアイリさんの所に来て2週間目。

 いつもの如く、俺はバランタインさんが召喚する魔物と立ち合っていた。

 今では、敵の間合いや位置に応じ、カタナと魔法を使い分けて戦っている。魔法も初級魔法は覚え終わり、中級魔法を覚えている最中だ。

 敵はイビルデーモンが12体。レッサーデーモンの上位種だ。敵の上限が倍になっているのは、中級の攻撃魔法を覚えたからだ。

 戦い方は、まず攻撃魔法を敵の中心に放ち、数を減らす。残った魔物を随時カタナと魔法で相手取る形だ。自分の引き出しが増えた事で立ち回る選択肢は増えたが、その分以前よりも判断力が必要になっている。だが、それも繰り返す訓練の中で、徐々に身に付いてきている事を実感する。

 風爆弾ウィンド・ボムで数匹を吹き飛ばし、同時に相手取る数を減らす。右手のカタナで斬撃を繰り出し、左手で魔法を放つ。アンバーさん曰く「魔法剣士」の戦い方が身に付いていた。

 最後の1体の横薙ぎの爪を屈んで避け、両足を斬る。前方に倒れ込んだ所で、頭部にカタナを突き刺す。

 切り裂く技術も充分に成長したらしく、カタナによる突きも解禁されている。

「…イビルデーモンでも相手にならぬか」

「そりゃあ、この部屋での特訓も300日くらいになりますしね」

 アンバーさんの居ない2時間は20日、アンバーさんが居る2時間は2日の時間の流れになっている。22日×2週間=308日。もう少しで1年に達する。

「…アンバーが来たら相談せよ。そろそろ此処を発つべきか否か」

「…そうですね」

 俺も考えていた。自らを鍛えるのは楽しいし、居心地も良い。このまま此処に居たい気持ちはある。だが、まだ見ぬ外の世界で生きてみたい。それにもし可能なら、八重樫さんとも再開したいし、他の転移者の動向も気になる。

「それと、忘れぬうちにこれを渡しておく」

 バランタインさんから差し出されたのは、掌大の楕円形をした、エメラルドのような石だった。

「これは?」

「遠話石だ。魔力を通して我が名を呼べば、我と離れていても会話が出来る。…そうさな、身体強化で困った事が起きた時にでも、連絡を寄越せ」

「何だかそれ、今後俺が身体強化で、困った事が起きるって言ってません?」

「起きるかも知れんし、起きぬかも知れん。起きてからでなければ説明が難しい」

 バランタインさんの話は要領を得なかったが、とにかく身体強化で困った事が起きたら連絡すれば良いだけだ。気にしない事にしよう。

「判りました。有り難く頂きます」

 俺はそう答え、受け取った遠話石をポケットに仕舞う。

 そのタイミングで、アンバーさんが部屋に入って来た。

「…お待たせ」

「…アンバーさん、早速なんですが相談があります」

 訓練後だとうっかり忘れそうなので、俺は早速話を切り出した。



「バランは、ユートの実力は充分だと判断した、という事でいい?」

「うむ。人族として充分であろう。我には敵わぬがな」

 アンバーさんの問いに、バランタインさんが答える。

「…判った。ユート、バランのお墨付きを貰った事を、アイリに話そう」

「…よし。それじゃあ行こうか、アンバーさん」

 俺とアンバーさんは、バランタインさんの部屋を出て、アイリさんの部屋に向かった。

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