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縁が紡ぐ異世界譚  作者: 龍乃 響
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プロローグ

 気が付くと、見知らぬ部屋に居た。


 およそ20メートル四方の大きさの部屋。床には大理石が綺麗に敷き詰められ、部屋の四隅には立派な柱がそびえ立ち、荘厳な神殿を想起させた。

 だが部屋に壁は無く、本来壁がある筈の場所、その先は星一つ無い宇宙のような漆黒の空間が広がっており、上を見上げると、目視できる限り遥か上へと柱が伸びていた。


 そこに集うのは12人。誰一人として見知った相手は居ないようだった。

 男女比は丁度半々となる6人ずつ、年齢は見る限り中学生くらいから40歳前後まで。一人を除き、日本人がその場を占めていた。

 理解の及ばない現状に対し、皆が一様に不安の表情を浮かべている。


「お集まり頂き、誠にありがとうございます」


 突如頭上から響き渡る声。皆が見上げると、純白の衣を纏った女性が宙に浮いており、腰までの長さのあるウェーブのかかった金髪を揺らしながら、そのままゆっくりと床に降り立った。


「まずは自己紹介を。私の名はエフィール。皆様が暮らしていた地球とは別の世界の女神です」

 両手を前に添えて深く会釈をし、言葉を続けた。

「お願いが御座います。皆様には地球を離れ、私が管理する世界『アライア』にお越し頂きたく、心よりお願い申し上げます」


 地球とは異なる世界の女神からの突然のお願いなどという、一部の者を除き想像もしなかった事態に皆困惑していたが、真っ先に落ち着きを取り戻したサラリーマン風の男性が質問を投げ掛けた事を切欠に、この場は暫く問答が続く事となった。


Q.その世界に来て欲しい理由は。

A.地球での知識や技能などを活かし、私の世界の発展に刺激を与えて欲しい。


Q.何故、自分達が選ばれたのか。

A.地球での生活に対する執着が薄く、それでいて生きる事は諦めていない方、そして身体が健康な方を選ばさせて頂きました。


Q.殆どが日本人なのは、何故なのか。

A,過去の経験上、日本人が一番私のお願いを受け入れてくれたからです。


Q.その世界へ行く事を、断る事は出来るのか。

A.地球の神との約定により、既に皆様は地球から存在が抹消されています。ですので断られた場合は、地球での魂の輪廻に戻されるとお考え下さい。


Q.その世界は、どのような世界なのか。

A.地球にある物語やゲームなどで『中世ファンタジー』などと称される世界観が近いかと思われます。科学技術は地球と比べてかなり発展が遅れておりますが、代わりに魔法技術が発展しており、魔物なども居る世界です。


Q.魔物などが居るという事は、危険な世界なのか。

A.地球、その中でも日本と比べれば危険ですが、生き抜く為に役立つ恩寵ギフトを一つお選び頂けます。なお恩寵は違うものを人数分用意しており、複数人が同じものを選ぶ事は出来ません。


Q.違う世界なら、言葉が通じないのでは?

A.私の世界の言語を全て、知識として恩寵と共に転移前にお与え致します。


Q.やり残した事があるが、それを終えてからでは駄目なのか。

A.私の世界の為にお願いさせて頂いておりますので、恩寵とは別に一つ、実現可能な範囲で願い事を一つ叶えさせて頂きます。


Q.転移する場所は決まっているのか。皆、同じ場所なのか。

A.主に恩寵とご自身の資質が運命に作用し、転移場所が決められます。私は転移する場所については関与する事は出来ません。



 その後も幾つか質問が続いたが、その心持ちに差はあれど、最終的に全員が転移を承諾した。


「それでは、これより恩寵を一人一つずつお選び頂き、願い事をお聞かせ下さい。恩寵と願い事がお済みになった方から順に、私の世界へと転移させて頂きます」

 女神エフィールのその言葉に、チンピラ風の男性が手を挙げた。

「選ぶって事は早い者勝ちなんだろ?なら俺からやらせて貰うぜ。…文句は無ぇよな?」

 そう言うと、その男は周囲を威嚇するように睨みつけた。

 目を逸らす者、黙して語らぬ者、その態度に嫌悪する者、と反応は様々だが、特に異論を唱える者は居なかった。



 1人目、チンピラ風の男。26歳。

 恩寵は『剣聖』、願い事は「可能な限り沢山、その世界のお金を転移先で所持している事」


 2人目、最初に質問をしたサラリーマン風の男。41歳。

 恩寵は『解析の極み』、願い事は「20歳の頃の肉体に若返らせる事」


 3人目、落ち着いた雰囲気の女性。34歳。

 恩寵は『調理の極み』、願い事は「元夫に子の親権を移し、二人が一緒に暮らす事」


 4人目、学生服を着た男性、17歳。

 恩寵は『属性魔法の極み』、願い事は「自分をイケメンにする事」


 5人目、セーラー服を着た女性、16歳。

 恩寵は『治癒魔法の極み』、願い事は「自分が居なくなった後、友人がいじめの対象にならない事」


 6人目、迷彩服を着た上背のある白人男性、29歳。

 恩寵は『探査の極み』、願い事は「ナイフ・レーション等の装備品の所持(銃火器の所持は女神に断られた)」


 7人目、体操服を着た女性、14歳。

 恩寵は『時空魔法の極み』、願い事は「自分の居た施設の存続」


 8人目、恰幅の良いワンピース姿の女性、23歳。

 恩寵は『弓聖』、願い事は「痩せる事(84kg→47kg)」


 9人目は、薄汚れた作業着を着た男性、32歳。

 恩寵は『錬金術の極み』、願い事は「勤めていた会社の倒産」


 10人目は、ブレザーを着た女性、18歳。

 恩寵は『槍聖』、願い事は「可能な限り強い槍を、転移先で所持している事」


 11人目は、ロングスカートにジャケット姿の女性、21歳。

 恩寵は『身体強化の極み』、願い事は「可能な限り沢山、水と食料を転移先で所持している事」


 12人目は、ジーパンにパーカーの男性、20歳。

 恩寵は『えにし』、願い事は「全ての資産を、妹に譲渡する事」




 12名、全ての者に恩寵と言語知識を与え、願い事を聞き、彼ら彼女らにとって異世界であるアライアへと送り出し終えた。

「これで今回の約定も完了しましたか…。それにしても、一年後には何人が生き残っている事でしょうか…」

 女神エフィールはそう呟くと、溜息混じりに言葉を続けた。

「持ちつ持たれつとは言え、増え過ぎた魂の処分なんて、これで最後にして欲しいものですね…」


 地球の神に対する愚痴は、誰にも届かずに虚に溶けていった。

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