第1話
シュマン王国の南部に位置する地方都市サラマンカ、特に何か名産があるわけではなく、近くに鉱山があり、そこで採掘できる良質な魔鉱石と石炭が経済を支えている。そんなサラマンカ一帯を治めるのはコータル男爵。はっきり言ってしまえばパッとしない男である。そのせいかなのか王都での顔覚えも悪い。貴族社会では珍しい妻に尻を敷かれるタイプの男だ。
そんな、サラマンカでとある人物が新しい会社を立ち上げた。会社の名前はサラマンカ鉄道商会。起業したのは伊藤重信。まぁ、名前を聞けばわかるが日本人。年齢は25、彼女いない歴は年齢とイコールのにわかオタクである。細かい説明はおいおいやっていくが簡単に言えば、シュマン王国の遥か南にあるマリアンヌ神聖国が魔王討伐のために召喚した勇者一行の中に偶然まぎれた可哀そうな人なのだ。返すことが出来ないので大量の金で黙らされて、放り出されたわけだ。
そこから、ゆっくりと各地を回りながらシュマン王国にたどり着いたわけだが重信にはあるスキルが備わっており、それは端的に言えば召喚のスキル。だが、これには欠点があり、部品がバラバラな状態で召喚される。例えば梅干し入りのおにぎりを召喚すれば、炊き立ての米、塩、焼き海苔、梅干しが召喚されると言うことだ。はっきり言ってしまえばクソ面倒くさい。
だが、きちんと作り方を丁寧に書き記した紙が同封されている。なので、例の場合はおにぎりの作り方が書いてある。
まぁ、そんなスキルなので異世界で俺TUEEEEEが出来ないわけなので、金が稼げそうでいざこざが起きない産業を選ぼうと思った重信は鉄道を選択した。会社を設立するのは意外と簡単でまずは会社の土地と建物、あと仕事内容を記した紙を商業ギルドに出すだけ。審査もなしのガバガバである。
そんなわけなので、鉄道に必要な土地を買って、商会の建物を建てたら準備は完了。
商会が立ち上がって最初の問題が発生した。そう、従業員がいない。一人で立ち上げたので誰も社員が居ないのだ。そこで、早速重信は商業ギルドに向かった。
「こんにちは、サラマンカ鉄道商会です。あの、求人を出したいのですが。」
「求人ですか、どのような人材をお求めでしょうか?」
重信が出した求人案を聞いて商業ギルドの受付嬢は苦い顔をする。
「申し訳ありませんが、中々集まらないかと。教育を受けた人材となると、かなり難しいです。」
当然である、時代は中世である。確かに魔術師や魔法使い、それに獣人や妖精、エルフなんていう種族はいるが基本的に中世。教育は金持ちしか受けれないものと相場が決まっている。
「そうですか・・・。」
「こちらの案などいかがでしょう?」
すかさず対案を出す受付嬢。それを大して確認せずに了承し、意気消沈のまま商会本部兼自宅に戻った。